英文意訳:【完全版】Web3時代に変化するクリエイターエコノミーと投資家が見る世界
※以下、シンガポールに本拠地を置くグローバルVC「Antler」から2022/3/30に公開された英文レポート「 The New Creator Economy: A guide on Web3 creator platforms 」の意訳です。ニュアンスが違うところが有るかもしれませんが、ご愛敬で。
※相変わらずめちゃ長いです。参考読破時間は20分(11,000字程度)。
【完全版】Web3時代に変化するクリエイターエコノミーと投資家が見る世界
イントロ
Web3革命により、クリエイターたちはこれまで以上に個性を発揮することができるようになる。そのカギとなるのが「Web3クリエイタープラットフォーム」の台頭だ。
(訳者注:理解できなくても大丈夫!後述部で細かく解説されています)
コンテンツクリエイターと聞いて思いつくのは、YouTuberやTikTokerなど、ファンのためにコンテンツを制作している人たちだろう。
しかし、収益を得られるチャネルは案外狭く、グッズやサブスクリプション、広告収入、企業案件受託、チップなど程度であるのが実際のところだ。実は、トップのクリエイターしか飯を食える状況にない。
もはや、現存するクリエイター向け”Web2”プラットフォームは、クリエイターから多くの収入を「奪う」存在と言える。
Web3時代にはこれがどう変わっていくのか。
端的に言えば、「クリエイターは、製品から経済への進化を遂げる」のである。
クリエイター以外が甘い蜜を吸える業界
「収益化できるほど趣味が高じた人たち」を含むひとつの経済圏のことを、クリエイターエコノミーと呼ぶ。そして、クリエイターが好きなことを仕事にして収入を得るためのツールとしてプラットフォームが存在する。
私たちがクリエイターエコノミーの初版を発行して以来、a16z、Greylock、Bessemer、Northzone、Lightspeedなどの著名な「投資家」たちはこの分野に何十億ドルもの投資を行ってきた。また、YouTube、Facebook、TikTokなどの「プラットフォーム」は、独自のファンドを立ち上げ、クリエイターにパートナーとして参加してもらうためのツールを提供している。
では、「クリエイター自身」は、どうか。
多数のクリエイターは、いくらプラットフォームを盛り上げてブームに貢献しようとも、安定した利益を得ることができなかった。
今こそ、クリエイターに適切な報酬を与え、より透明で公正な経済とする時だ。(訳者注:思想つっよ!)
どのように実現されるのだろうか。
来たるWeb3時代には、プラットフォームはコミュニティ主導になりつつあり、クリエイターと視聴者の両方が貢献度に応じた利益を得られるようになると考えている。
解説していこう。
Web3時代のクリエイタープラットフォームは何が新しいのか?
インターネットの移り変わりに沿って、クリエイターの役割の遷移を簡単に整理してみよう。
Web1|情報経済とコンテンツ消費(1985年)
Web1とは、Webの最初のバージョンで、読み取り専用/情報経済とも解釈される。静的なWebサイトや個人サイトにおいて、ユーザーの役割は主に「提供された情報を読む」ことに限定され、製作者は極めて少数だった。
Web2|クリエイター=広告塔(2018年)
Web2では、ブログ投稿等を通じて徐々に名声と聴衆を獲得する人も現れた。その後、Web2のクリエイターは、主にアフィリエイト広告やスポンサーシップ契約によって名声・聴衆を収益化し、これにより初めてオンラインで生計を立てることができるようになった。
Web3|プラットフォームからの解放(2021/2)
Web3では、クリエイターはもっと自由になった。
既存のプラットフォームを介さない、クリエイターとコミュニティの直接的な関係性。アツいファンへの金銭的な利益の提供。さらには、プラットフォームを生み出す/支援する集団に参加することもできる。
小規模なスタートアップだけでも140以上の企業が名を連ねている
我々は、マーケットマップを作成した。(企業選定は、調査、推薦、公開情報に基づいている。スタートアップのリストを作りたかったため、多額の資金を調達した企業は含まれていない。また、リストから漏れたから排他的というわけでもない)
上段にはクリエイター(およびコミュニティ)の分散型所有権が組み込まれた新しいWeb3クリエイタープラットフォームを、下段にはクリエイター自身がこの新しいクリエイターエコノミーに参加するためのツールを、それぞれ取り上げて分類した。
投資家の期待と最大のビジネスチャンス
投資家となるベンチャーキャピタル(VC)も、このイノベーションを後ろ支えするように多額の資金を投じている。以下のようなビッグディールは一例だが、VCの勢いの大きさを知るには十分だろう(訳者注:以下4つはDeepLからコピペです)
ブロックチェーンを利用したファンタジー・フットボール・ゲームのSorareは、21年9月にソフトバンク主導で6億8000万米ドルのシリーズBラウンドを調達し、会社の価値を43億米ドルに評価した(ヨーロッパにおけるこれまでの最大のシリーズBラウンド)。
暗号企業向け決済インフラを提供するMoonPayが、11月21日にCoatueとTiger Globalが主導する5億5500万米ドルのシリーズAラウンドを調達し、同社の価値を34億米ドルと評価した。
ゲームパブリッシャーがゲームにブロックチェーン技術を取り入れるために使用するプラットフォームであるフォルテは、11月21日にSea CapitalとKora Managementが主導する725億米ドルのシリーズBラウンドを調達した。フォルテは5月にGriffin Gaming Partners主導で1億8500万米ドルのシリーズAを調達し、企業価値を10億米ドルに高めた。
NBA Top ShotとThe Flowブロックチェーンを開発したDapper Labsは、21年9月にCoatueが主導し、Andreessen Horowitz、GoogleのGV、Version One Venturesが参加する2億5千万USドルのシリーズDラウンドを調達し、同社の価値を76億USドルに評価した。
そして、重要なポジションを担う投資家にヒアリングを行い、最大のビジネスチャンスはどこにあるのか話を聞いたところ、以下の3つが挙がった。
エンゲージメントもロイヤリティも高い新ツール
クリエイターの人生に沿ったプロダクトやサービス
クリエイターの長寿命化に貢献するプラットフォーム
世界中で目を凝らしている100以上の投資家
我々は、投資家に積極的にコンタクトを取り、Web3領域(分散型金融(DeFi)、クリエイターエコノミー、その他クリエイター主導のプロダクトを含む)に投資しているプレイヤーの情報をまとめた。以下、データセットを公開するので参照されたい。
次のユニコーン企業の匂いがする3つの領域
以下の図にまとめたように、2021年はクリエイターエコノミーの領域で、11社ものユニコーンが誕生した飛躍的な1年だった。2022年にも、Spotter、Linktree、Domestikaの3社が2022年3月時点で到達しており、ますます盛り上がっていくだろう。
次にユニコーン企業が誕生しそうな領域はどこだろう。
我々が期待をしているキーワードは、①人々が1日あたり10時間(平均より3時間ほど多い)をオンラインに費やし、ソフトバンクもエリアを限定したファンドを立ち上げている中米・南米エリア(LATAM)、②15億人ほどの人口を有し、200万人以上の登録者を持つYouTubeチャンネルが10万個も存在するYouTube大国のインド、③30億人・20兆円のTAMが推定され、アバターの互換性解放やPlay-to-Earnの拡張性に期待が高まるゲーミング の3点である。
クリエイターが胸躍らせるWeb3の可能性
クリエイターエコノミーの主役であるクリエイターの方々に、今後の展望を伺った。
コミュニティは、より深く、より長続きする
収入チャネルの多面化に伴い活動がより自由に
プラットフォーム間の競争による参入障壁の低下
クリエイターが身を震わせるWeb3の課題
最後に、クリエイターの方々に、今後の課題も伺った(訳者注:クリエイターエコノミーの興隆に伴い、このような課題はさらに肥大化していくはず。以下の4点に、大きなビジネスチャンスの種がたくさん転がっているように感じた)。
Web3に対する理解と適応のハードルが高い
中間層のクリエイターに届くまでには道のりが長い
他社ブランドからの収入安定化
自己犠牲的なクリエイターの働き方
Web3時代を生きるクリエイターへの資金調達ヒント
Web3投資家は、次なるクリエイタープラットフォームの構築や拡大に何を求めているのだろうか。どのようにすればプラットフォームとして資金調達を成功させることができるのだろうか。
以下、Web3への投資を検討する際に注目しているポイントについて、投資家たちに聞いてみた結果をまとめた。
1)大きな市場ポテンシャル(TAM)とその拡張性
投資家は、ローンチ時に目に見える”量”を重視する。例えば、通貨の取引量・交換量、決済量、検索量、開発者の活動量、オンチェーンで取引するウォレットの数、ミント量など。特に、取引所の通貨交換量を考慮することは、市場の流動性の特性を理解するためには必須情報となるだろう。
そこで、創業者が取引のアクティビティを計測できるツールも登場している。例えばNansenを使えば、各プロジェクトの状況を分単位で確認することができる。MobyやIcy.toolsのようなツールを使えば、同様の分析が特定のNFTプロジェクトごとに追跡可能だ(訳者注:確かに、訳者もOpenSeaで検索してNFTを買おうと思い立ったことはなく、MobyやWhite paperを読んでいるときに購入を検討してOpenSeaを開いたなあ、と思い出した)。
2)エンゲージメントの質と健全性
あるネットワークのエンゲージメントの質と健全性を定量化する指標の例として、以下のようなものがよく挙げられる。
日次または月次アクティブユーザー数 (DAU, MAU)
月間アクティブウォレット数(前月にウォレットがアクティブだったユニークユーザー数のこと)
トランザクションに関する指標(未定義)
総アドレス数(うち、残高のあるものの数、残高ゼロのものの数)、残高ゼロのアドレスが全体に占める割合。
※「残高ゼロのアドレス数」に関するデータは、ユーザーの生涯人口とプロトコルの保持率を示すものだ。残高ゼロのアドレスは、すべてのトークンを転送し尽くしたアドレスと認識することができよう。
3)多様なステークホルダーを巻き込む仕組み
私たちが考えるに、Web3スタートアップたるもの、既存の視聴者を惹きつけて育てられさえすれば良い、ということはない。新しいステークホルダー(特に、未開拓の新しいマーケット内の)を惹きつけて獲得できることも、同様に重要なことだ。
ブロックチェーンゲームを例にとると分かりやすい。
ゲームの創業者に与えられたインセンティブ設計の検討余地として、そのゲームが「ゲームプレイヤーのためだけに設計・構築されている」のか、それとも「外部の開発者もそのプラットフォーム上で開発することでインセンティブを得られるような設計になっている」のか、ということが挙げられるだろう。
(訳者注:まさにトークンエコノミー設計の真髄はここにあると考えている。極めて難儀だが、この設計こそサービスの拡張性と成長速度を決める)
4)ソーシャルトークン、ファントークン、NFTの実用性
「ユーティリティNFT」「NFT 2.0」と呼ばれるNFTの価値は、トークンの保有者に提供するアクセス、特典、および機会に基づいて評価される(訳者注:いずれも明確な定義が無いことは留意されたい)。このタイプのNFTは、希少価値ばかりでなく明確に定義された本質的な価値や意義を持ち、大まかには、コミュニティ、ファンタジースポーツ、ギャンブル、ゲーム、ソーシャルといったのカテゴリーに大別される。
ユーティリティNFTは、ユーザーの需要に基づいて将来的に普及すると考えられている。再度、ブロックチェーンゲームとゲーム内NFTを例にとろう。
このゲームの開発者が気に掛けるべきは「製作するゲームの完成度」だけではなく、強固で健全で持続可能なゲームエコノミーを維持するための「金銭的インセンティブ設計」も必要だ。
さらに、クリエイターを巻き込んだソーシャルトークンやNFTプロジェクトの場合、クリエイターに長く関わってもらうためにも、持続可能な循環を生み出すようにトークンエコノミーをデザインするべきであろう(Web3ゲームにおける「富裕層と貧困層」の格差に関する現在の議論が良い例)(訳者注:その議論は聞いたことがない。勉強不足ですみません)。
アウトロ
クリエイターとフォロワーが直接つながってゆくクリエイターエコノミーの将来を考えると、クリエイターを取り巻く「より自然な形で収入を得ることのできる環境」や「支援者としてあるいは一緒に支援を受ける側としてのコミュニティ」によって実現される持続可能な未来にワクワクしている。
我々は、インターネットの未来の向かう先に期待し、次世代のプラットフォームを支援することに深い情熱を持ち続けている。
by Antler グローバルコミュニティマネージャー Ollie Forsyth氏
Ollie.Forsyth@antler.co
この記事は、Speedinvestの投資家であるPaola Vivoli氏の協力を得て執筆されました。
もっと知りたい方は、4月20日に以下のトピックを網羅したレポートの詳細な要約をお届けしますので、ぜひご参加ください。
クリエイターエコノミーの歴史
クリエイターエコノミーレポートに掲載された140以上のプラットフォームの最新情報
Web3はクリエイターにどのような影響を与えるか
ユニコーンの特徴
数十億のユーザーに利用されるかもしれない次のタイプのプラットフォーム
その他、盛りだくさんの内容です。
司会は、当レポート2022の著者であるOllie Forsythが務めます。
皆様のご参加をお待ちしております。参加登録はこちらから。
-訳文ここまで-
訳者あとがき
正直「そんな上手くいかんだろ」と思いつつ、でもそんな理想の世界を作ってみたい自分もいる
本編が長すぎた(とても疲れた)ので、まとめは簡潔に。
正直、上述の「理想的なエコノミー」は、万能ではないと思っています。理由は、人間はそんなに単純な生き物ではないからです。例を2点挙げてみます。
1点目。
クリエイターが正当な報酬を得られる社会は実現できるかもしれないけど、ファンも一緒に稼げるというのは実現が難しいケースもあるでしょう。何の見返りがなくても多額の出費を厭わない熱狂的なファンは、既に多数存在しています。そのファンたちは、応援に見返りが発生した先の世界を、本当に求めているのでしょうか?
アンダーマイニング効果でむしろ応援する気を失ってしまうリスクもあるし、見返りを求めて投機的に応援するファンは、見返りを求めないファンと同じ方向を目指せるとは思えません。
2点目。
トークンや、ファンとの直接的なつながりを得ることで、確かにクリエイターは適切な報酬を得やすくなるとは思います。でも、本当に報酬設計の妙技だけで「好きなことだけで生きられる」ような社会になるのでしょうか?
好きなことばかりやっていても、共感を得ないとファンはついてこないわけで、つまり結局ブランディングとマーケティングがものを言う世界であることに変わりはありません。程度の差は有れど、最終的には「人の心を手玉に取るのが上手いやつは勝つし、下手なやつは勝ちづらい(が、前よりはマシ)」ということに落ち着くのではないかなと考えているのです。
と、敢えて批判的に見ている訳者ですが、本業では、不動産賃貸の領域で理想的なトークンエコノミーの形成に日々奮闘しています。やはりロマンを感じざるを得ないし、ここはテクニックと経験で乗り越えられるのかもしれない、とさえ思っているからです。
了
あとがきのあとがき
冒頭で紹介した通り、英文意訳の記事提案の受付を試験的に開始しました。
よろしければ、私のTwitterもフォローお願い致します。
では、本当に終わり。
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