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マスクは2.5時間で効果がなくなるのか?
どうもこんにちは。
マスクオタクです。
マスクの使用限度時間については所説あります。
最近ツイッターことXで『マスクは2.5時間程度で効果がなくなる』といった論文を数回目にしたので確認してみました。研究ではマスク着用時間の増加に伴う細菌数増加が確認されています。
今回の記事で取り上げますが感想を先に書くと、使用されたマスクの仕様が不明なので論拠とするには弱い、って感じ。新しい類似の研究が見たいところですね。
◆論文引用
該当論文から要旨を引用します。結果のわかりやすい図をあとで引用しますので飛ばしてOKかと思います。リンクは以下。(本記事の引用部はすべて以下リンクから)
International Journal of Infection Control
手術室でのフェイスマスクの効果は? 時間軸分析と提言
doi: 10.3396/ijic.v9i1.003.13
Int J Infect Control 2013, v9:i1
要旨
本研究は、手術場においてマスクを連続的に着用した場合の細菌飛散抑制効果を確認するために実施した。布製マスクと2枚重ねの使い捨てマスクの違いを比較検討した。最初のサンプルは、マスク着用前に血液寒天平板を口から約10~12cm離して咳板法で採取した。その後、参加者はマスクを着用し、ルーチンワークを続け、綿製の布製マスクを着用してから30分、60分、90分、120分、150分後に指定された間隔でさらにサンプルを採取するため、劇場内にある研究センターに報告するよう求められた。 マスク着用前の細菌数は、試験1日目が5.36±4.38、2日目が5.7±2.99であった。30分後の細菌数は0.96±1.06(P<0.001)および0.7±0.87(P<0.001)、60分後の細菌数は2.33±1.42(P<0.001)および2.36±1.03(P<0.001)、90分後の細菌数は3.23±1.54(P=0.007)および4.16±1.78(P=0.011)、90分後の細菌数は5.36±1.38(P=0.007)および4.16±1.78(P=0.011)であった。 90分では3.23±1.54(P=0.007)と4.16±1.78(P=0.011)、120分では5.63±4.02(P=0.67)と4.9±1.98(P=0.161)、150分では布製マスクと2層式使い捨てマスクでそれぞれ7.03±4.45(P=0.019)と5.6±2.21(P=0.951)であった。マスクの種類に関係なく、カウントは約2時間で着用前のレベルに近づいた。綿布と2層構造の使い捨てマスクの間に有意差はなかった。フェイスマスクは、当初は細菌の飛散を有意に減少させたが、使用2時間後にはほとんど効果がなくなった。
https://ijic.info/article/view/10788/7862
◆まとめ
研究では布マスクと2層マスクを対象に時間経過ごとの細菌排出量を確認しています。細菌については寒天培地にエアロゾルを直接付着させ24時間の培養後で評価されています。
結果は以下の図がわかりやすくまとまっています。Xでもこの図が引用されていました。上が布マスク、下が2層の使い捨てマスク。
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この結果を見ると、どちらも2.5時間でノーマスク(Without mask)と同等かそれを超える細菌の排出量となっています。
論文の結論としては、布マスクで90分、2層マスクで2時間でのマスク交換を推奨しています。ちなみに、この結果についてメカニズムの考察はされていません。
◆所感
私の認識としてマスクはめっちゃ汚染されると思っています。しかし、その付着したやつを排出することによるリスクは、何も着けないよりは良いと推測しています。なので今回の結果は興味深いですね。
とりあえず、論文で使用されたマスクを手術時に着用する場合、推奨されるように適時交換したほうが良いでしょう。
◆個人的な憶測
さて、ここからは憶測。
気になるのは『2層の使い捨てマスク(two ply disposable masks)』が使用されていること。
本来こういう論文なら3層のサージカルマスク(ASTM規格のやつ)が使用されると思いますが、今回のは2層で正体不明。これをどう考えるか。
◇◇◇
まず、マスク着用時に飛沫がどの程度貫通するかは論文があり、2層では多少貫通するものの、3層ではほぼ問題にならないことが示されています。以下参考。
・On secondary atomization and blockage of surrogate cough droplets in single- and multilayer face masks
上の論文で使用されたフィルターの性能もいまいちハッキリしないのですが、それでも今回の研究デザインなら3層の正式なサージカルマスクを使用していたら違う結果になったと私は推測します。
◇◇◇
とはいえまあ2層で考えるとしても結構減るはずですし、実際30分の段階ではかなり減ってます。なので、慣性力で正面に飛ぶようなエアロゾルは結構マスクで防げてると思うんですよ。
しかし、2.5時間でノーマスクと同等程度になっている。これが謎。
仮にエレクトレットフィルター(静電気)の効果が低下したのだとしても、結果にたいして影響ないと思うんですよね。
静電気なり拡散効果の影響が強いのはかなり小さい微粒子なので、それらが寒天に到達したとしてもノーマスクと同等まではならないような気がする。
わからん。
◇◇◇
そもそも、仮にフィルター性能がマトモ(メルトブローンのエレクトレットフィルター)だとしたら、排出されるエアロゾルは正面に飛ばないはず。
なぜなら漏れを塞ぐ意識が無い限りほぼすべてが頬や鼻脇の隙間から漏れるから。
漏れを塞ぐ意識は論文中に見られなかったので、結構ガバガバだったと思います。そう仮定すると2.5時間後に正面に結構飛んでそうなのが謎。
◇◇◇
ということで、わからないことが多いんですが、強いて予想するならマスクに付着した環境中の細菌なり自らの飛沫が、サンプリングの際の発声の振動や圧で排出された、って感じですかね。
で、マスクに溜まる細菌は時間経過と共に増えていくので、今回の結果はまあまあ納得できる。
ただし、サージカルマスクで使用されるくらいのメルトブローンフィルターだったとしたら目が細かいため、詰まった液滴を押し出すほどの力がかかったとは思えない。隙間でガバガバだっただろうから圧は逃げるだろうし。なので適度にスカスカのフィルターだったのではなかろうか。
◆おわりに
ということで、研究での詳細(特に2層マスクの仕様)がわからないので評価できないですね。正式なサージカルマスク(3層)での同等の実験結果が知りたいところ。
なお、長時間マスクを使用した際の性能評価はいくつか論文等を見ており、吸引での濾過性能は2.5時間程度なら大幅に低下しないという認識です。ただし排出を長時間評価した良さそうな論文は思いつきません。強いて挙げるならスイスの中学校での研究が該当しそうですが今回の結果とは矛盾します。
まあ、今回の論文は結構古いもの(2013年)で『インドでは、手術中に着用されるフェイスマスクは布製(通常は綿製)で』との記載があったことから、2層マスクもそれほど良いものではなかった可能性があります。
なので、今回の結果を感染対策で推奨されるマスク(JISかASTM規格のもの)に適用するのは無理があるように思います。私なら強い論拠にはしません。
今後、関連する研究結果が出てくるのを期待したいですね。