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ツインスター・サイクロン・ランナウェイ読みました

◎ワンピースの正体ついに判明?!◎

 皆さんワンピース読んでますか?この前の回想編はひとつなぎの大秘宝の正体を迫る内容でとても想像力を刺激する。ロジャーたちがあんなに楽しそうに笑わせた「ワンピース」一体何だったでしょうね。私は「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」と思いますよ。

◎ツインスター・サイクロン・ランナウェイ読みました◎

 というわけで小説「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」を拝読いたしました。最高です。買いましょうよあなたも。

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ (ハヤカワ文庫JA) 小川 一水 https://www.amazon.co.jp/dp/B085TF4586/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_QKIEEbVV9XAK2 @amazonJPさんから

 いつものようにツイッターで読んだあとの思い浮かんだあれこれを書こうとしてみたが、思った以上に長たらしいオタク読書感想文みたいな何かが出力されたから断念しました。
 じゃあNOTEをツイッターみたいに使えばいいじゃんと思い至った。NOTEなら許してくれる。NOTEをなんだと思ってるのだろう。

 自分をコントロールできた覚えはないからネタバレ記事になるだろう。みんな小説を買って読んでください!超面白いから!


◎ここからはTwitterだ◎

・はぁーーよかった。最高によかった。もうワンピースの正体これでいいよ。

・なにが印象深いっていうと、脇役たちの描写になりますね。主人公テラの婚活をはじめたした様々なプライベートに手助けたり口出したりする伯父伯母夫婦、もうひとりの主人公ダイオードと盛大に罵り合った族長ジーオン、明らかに色々知ってるのに握ってる情報を劇中人物どころが読者にもあんまり知らせてくれないディッシュクラッシュさん。出番少ないのにみんな生き生きとしている。

・伯父伯母も、セクハラ・パワハラ・モラハラ三重苦親父も、安っぽい言い方ですが悪事をした自覚がないですね。

 伯父伯母はどっちらかというと善人ですよ。あんなに親身になってテラのことを考えてくれたのですし。でも「身寄りのないテラに手を貸してあげてる」という構造の上での善意になっていて、テラ本人の意思、願い、能力すらそこまで考慮していない。恩を受ける側にいるテラはこんな「好意」を甘えるしかない。彼女はとっくに独り立ちした立派な成年者だとしても、伯父伯母の前では弱者で有り続けなければならない。
 好意か暴力か。この問いを明確に投げ出すのではなく、淡々と文脈の中に書き綴る作者の姿勢に本当に感心せざるを得ません。

 そしてジーオン。彼は物語の舞台でもあるこのサークス船団の世界観そのものみたいなキャラクターですね。船団の存続という大義名分を背負ってるつもりでいるが、いつの間にか手段と目的が逆になってしまった部分もものすごくリアル。彼の登場シーンがすべて手汗握りながら読んでいた。ここまで深刻で、生々しい筆致ですよね。

 といってもこの親父はさ、人を立場を使ってやすやすと呼び出しておいていきなり身体的特徴をヘラヘラ笑う時点でアウトなのにそれを親しみやすい年長者のあるべく姿みたいな態度をとっている。5つまで我慢したダイオードさん偉いよ本当。

 「大人」としての立場というか上から目線は最後の最後までそのままだが、少なくとも四十歳以上年下の子供に口汚く(しかも別氏族の若者が意味がわからない可能性が高い古い罵倒文句を使った。土壇場ですんなりとこんな小細工ができるのはすごいが死ぬほど大人げない。)怒鳴った人は一組織のトップとしてはどうなの。でもこういう偉いさんマジで多いよね。リアルが過ぎる。

 捕鯨の最後、ジーオンと妻との会話といい、テラやダイオードの成果を知ったときの反応といい(ものの一瞬で「あっでもやはり俺が勝ってる!」って自分に言い聞かせるのがあんまりにも最悪で、でも自分だったら同じ考えに至ったかもしれないとも思った。ジーオンは常に我々の中にいる。)、「前時代の父性」の良し悪しすべてがこのシーンに濃縮されていて、何度読んでも皮肉がバンバン響く名文。

 捕鯨のコツがそんなに詳しいなら若者たちにも教えろよ族長だろうか。
 だいだい経験値の差で勝ってるし緊急時の反射神経と関係ないんじゃん。
 妻を一人の人間として向き合えやなにがデコンパとしての努めじゃ。

 と豪快なまでにジーオンのお前が言うなショーになっていて読んでた途中は口も閉じない。そしてジーオンの最後にして最強の武器である族長という立場だが、逆に彼にトドメを刺した槍となった。お見事。読みながら変な笑いが出た。

 この捕鯨勝負はジーオン側はもちろん、主人公側の心境変化もまた最高に面白いからぜひぜひ本を買って読んでほしい。
 テラさん完全に相方の横顔を見惚れて冷静を取り戻したよね?そういうことある?

・捕鯨だけじゃなく作中全部の漁猟シーンがカッコいい。序盤の一本釣り!その直後の巻き網!クジラ(いやまぁクジラじゃないけどね)との読み合い!イカだらけの宙域!なにからなにまで規模がとんでもなくてゼロがいつも1個多いんじゃない?と目を疑う、このような果てしない深淵で飛び交う宇宙外魚類とそれを挑む主人公たちの姿がなんと美しい。

・宇宙船!かっこいい!この小説の漁船はね、みんな宇宙船ですよねまぁそりゃ宇宙の魚で漁師やってるしあたりまえですよね!でもでも変形するのですよこれが!しかも変幻自在!でもでもでもそんな万能無敵なものじゃなくてね、ツイスタという進路操縦者とデコンパという変形操作者の二人作業が必要で、二人が息ピッタリじゃないと漁どころか飛ぶこともままならない!そしてこんな複雑そうな設定なのに見せ方がもううまくてうまくて!

・説明しようとしたが残念なことに持ち合わせた語彙力が6歳児以下だからやめます。みんな「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」買って読んでくださいね!

・宇宙空間の描写もとにかくいい。儚くて、広大無辺で、空恐ろしいながらも魅入られる。デスクトップにしたいくらいに美しかった。いや文字ですけどね。


◎テラ◎

・主人公のテラは長身の24歳女性。ですます口調で思いやりがあって想像力豊富。閉鎖的なサークス船団に生まれて育て、笑顔の影に劣等感や疲労が潜む。そんな少女漫画の主人公が大人になったみたいな人です。

・彼女に釣られたかどうかわからないが、相方のダイオードとたまに「ですね」「ですです」みたいな会話を交わしてて超可愛い。

・作中は主人公二人の多彩な着替えに念入りに書かれている。特にテラ視点でのダイオードの服描写が常に凄まじい解像度。そりゃ気づかれるよ、見過ぎだよ。

・のほほんとした性格でどこかズレてるところがあっていつも周りにフォローされてる……というがの第一印象だが読む進むうちに彼女への評価が180度変わるだろう。むしろ「ふわっとした頼りないテラ・テルテ」というのは彼女に周りが押し付けられたキャラクターなんじゃないでしょうか。

・もうひとりの主人公ダイオードさんとの出会いが衝撃的だ。ダイオード、テラたちの会話を耳をそばだてながら自我紹介を繰り返し練習したのでしょうか。最後の勢いあまりのビックリ発言の直後にテラがさり気なくダイオードの指を見たし関連知識が最初から万全だよ。

・急に現れたと思ったら急に消えてそしてまた急に現れた。記念すべくふたりの初めての漁でそっけない態度であれもこれも説明不足。出会って頃のダイオードはまさしく謎の女でテラが振り回されてばっかり……とはならなかった。

 あそこで「気持ちの糸が急に切れた」と気づいて理解を示したテラは立派な大人で、そんな彼女の性格の成り立ちを考えると切なくなりますね。周りに理解者が一人もいなくてそれを自分の責任だと思い込んでるうちに、「フォローされる」役を演じながら他人の立場を思って行動するようになったのだろう。粘土を思うままに理想な姿へと練上がるのがデコンパの仕事なのに、テラ本人が鳴かず飛ばずになりたい形も見つからないし想像することもない。

・こうやって見ると捕鯨勝負はテラやダイオードの漁業にとっても、テラの人生観にとっても重要なターニングポイントですね。よかったじゃん、ジーオン。年長者としての務めをちゃんと果たしたぞ。褒められる余地がまったくないけど。

 私見ですが、テラが長年同じ価値観の重圧に潰されているから、持ち前の想像力が生かすところなく視野が狭くなっていて、それに伴って前に進む動力も失った。歴史を学び、夢を夢幻としてだけを思って楽しむ、大巡鳥は眺めるだけでもう満足。生々しいね。

 そんな彼女の前に立ち塞がるのはよりにもよって族長とクジラってのが興味深いですね。テラを押し潰さんとしてる「伝統」の化身であるジーオン族長に、漁の物語で満を持して登場するクジラです。
どっちも中ボスかラスボス級の相手なんだよね。ああそうかだから捕鯨勝負のあと展開の重心が漁業から変わったんだね。うわ構成がすごい……。

・そしてなにより進むことができなくなってしまったテラの背中を押してくれたのはダイオードだった。ずっとずーーーと自分をひたすらに隠し、押さえつけてきたテラは、「どんな形になってもいいからどんと来い」とすべてを受け入れてくれてるダイオードに会ったときどれほど嬉しかったのだろう。

・自分のことを半ば諦念、または祈るみたいな気持ちで見ていたテラだが、相方のダイオードのことになると干渉をできるだけしないスタンスだろうが基本大好き一直線。好意を隠す気あるのかってくらいでガンガン行ってる。
 たち悪いことにいざ拒否されたら普段見せない心底にある劣等感が表に出てしょんぼりになるから妙なところでめんどくさい。ミステリアスでクールなキャラで行こうとしたダイオードの計画は最初から無理だったんだな……。

 攻めては引かれて、引いては掴まれる、だが確実に距離をつめつづある不思議な二人関係がもう素晴らしくて素晴らしくて、いつまでも目を離さず読んでいきたい。

 地獄の縁の罵倒大会までは。

◎ダイオード◎

・同じく主人公のダイオードは小柄な18歳女性で、こっちもですます口調だが明らかに無理してる。そこまで違和感がないのは聡明だからでしょうか。丁寧語とスラングが交じるぶっきらぼうな可愛い喋り方になっている。
 テラとは別氏族からやってきて、天才というほかない操舵技術や、若いのにペテラン級の航行時数を持ち、謎の少女。

 と本人はこの路線で行きたかっただろうけど案外すぐボロが出た。持ち前の頭の良さですぐ持ち直すも次から次へとやってきた予想外事態、そしてなによりも短気な性格がクールキャラに致命的に噛み合ってない。一人ぼっちなんだしすごく頑張ったと思うよ……。

・改めて考えるとダイオードだって最初はテラのことを信用しきれてないでしょうね。両方もう他に道がないになる寸前まで待ってやっと行動したのも相手の同情心を賭けたようなものだし。

・初漁のあと、計画もなにかもが破綻し打ちのめされたダイオード。テラとは正反対で彼女は自分の理想をはっきりと見えていて、それに向かって立ち進む行動力もあるが、環境は許してくれない。嫌になって逃げ出すも周りがすべて壁だと気付かされるばっかり。

 道理であそこでジーオンに喧嘩をふっかけるわけですね。「5つまで我慢した」と本人は言ったが、5つどころがダイオードは数え切れないほどのプレッシャーを我慢してきた。自分を歪な形に練り上げようとする無数の手から逃げてきたのに、今度そのような手はテラに向かい、そしてテラは受け入れざるを得ないのを見た。吠えたくもなる。

 テラは優れた自分の能力を否定されてきたから自信不足だが、ダイオードには積み上げてきた経験を最大の武器として誇りをもっていた。その自信があるからテラからどれほど破天荒な提案をされてもじゃあやってみろよと胸を張ったが、テラは彼女に負けないほどの天才ということが予想外だったようだ。

 「ダイさんの腕なら大丈夫」と嬉々として前代未聞なデコンパを次から次へと生み出すテラや、彼女の目が見張る創造力になんども面食らったが負けまいといつも完璧なツイスタをやってのけたダイオード。「テラさん最高ですよクソが」

 この不器用な天才同士の二人三脚を是非是非本を買って読んでください。ありえないくらい可愛い。

・目標に目掛けて突き進む……と勇気溢れるようなダイオードの姿だがその根本的な理由がちっぽけで、勇気とは正反対のものだった。暗い自室の中にテラにその理由を語ったシーンすごく良かったですね。「私は謎多い美少女です」というスタンスが意地でもやめなかったが、ついに心の一番の弱みを晒しても良いと思えるようになったというダイオードからテラへの最大限の信頼を窺える。

・大好き全開で距離感が時々ブレるテラに比べるとダイオードは相方を信頼こそするものの、秘密及び不干渉主義をいつも保ててます。見方を変えると聞かないでいてくれるテラの優しさに甘えてるとも言える。二人は相棒で、共犯者で、ビジネスパートナーで、そして……。
 二人の関係性を名付けようとしてもうまく言葉が見当たらないテラがこの課題を「荷物」と称した。これ以上ない的確な表現ですね。

 棚上げされた荷物を二人の日常の積み重ねによって日々大きく重くなり、それを片付く日がいつかくることをわかってる一方で不安が拭いきれない。そんな二人の行き先をどうか本を買って見守ってください。

 一緒に地獄の縁の罵倒大会を見ようね!


◎地獄の縁の罵倒大会◎

・物語の最高潮にしてここまできたありとあらゆる積み重ね、隠された秘密、言えないこと、したかったこと、読んでるこっちが目を覆いたくなる赤裸な本音、全部暴かれる。

・ずっとジャブで探り合いを徹してるなのにいきなり二人同時にデンプシーロールを繰り出して殴り合い始めた。

・こんなの4ページも書き連ねる作者怖い。

・いつも優しい人がキレたら一番怖いという。

・大人ぶってるけど10代なんだよ。許してやれよ。

・ってか大胆なアピールだな……と思ったが全部知らずにやってるのかよダイオードさん。

・こんなことあんなことすべてわかっていながらいつも通り接してくれるテラさん偉大すぎる。

・喧嘩においては無敵だったダイオードがここに来て盛大に自爆したことで二人の関係性の変化を雄弁する……気がする。

・恐る恐る棚上げた荷物を振り回す蛮族の行い。

・こんな伏線回収ある?! 

・地獄の縁じゃなくて地獄そのものだよ。


◎マギリ、エダ、シービー◎

・この三人のこと考えると寂しい気持ちになる。

・マギリ行ったんだよ。船団長としての責務も、シービーとのありえる未来も投げ捨てて、探しに行ったんだよ……。

・マギリを見つからなかったのはマギリがデコンパとしての適正がないからでしょうか。そもそもリスクが高すぎる賭けだしな。

・エダがすっかり世捨て人になったが、マギリとのことだけは綺麗さっぱり割り切れてないようで切ない。

・シービーはシービーでどういった気持ちで漁業を発展させたのだろうな……。

・サークス船団が「女同士」といったペアにに必要以上に忌み嫌うのはマギリの一件と関わるのだろうね。マギリ氏族は女性差別がデフォルトみたいな文化になってるようだし。


◎受け継がれる意志、時代のうねり、人の夢 ◎

 まだまだいっぱい垂れ流したいけどちょっと長くなりましたからここまでにします。たぶん今読み返したら新しい発見やら気付きやらで爆発すると思うけどね。

 ありがとう、小川一水先生。ありがとう、紹介してくれたフォロワーさん。ありがとう、早川書房。本当に本当に幸せな読書でした。

 買おう、「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」。これであなたも海賊王だ。

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