lemonnight77

一日過ぎても、二日過ぎても、三日過ぎても、暴君は来なかった。ついに暗殺者は思い詰めた顔で仲間にこう言った

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一日過ぎても、二日過ぎても、三日過ぎても、暴君は来なかった。ついに暗殺者は思い詰めた顔で仲間にこう言った

最近の記事

日射病〈前編〉

 ネズミがまた現れた。瞼を閉じたあとの暗闇の中に、いつもネズミの息遣いだけが鮮明に聞こえた。気がづくと一晩中、四つん這いになってネズミを追いかけ回った。  最後は決まってネズミを捉える。チュッチュともがく声を指で感じ取りながら、爪を柔らかい腹の中に埋め込んで、苦いはらわたを抉り出す。そして舌で触れて、その苦みを味わう前に目を覚ます。  薄明かりを頼りにベッド前の鏡を見る。映ってる顔はネコなのか私なのか、判然としなかった。 *  聞き慣れた舌のクリック音が外から鳴り響い

    • 【逆噴射小説大賞2024】日射病

       ネズミがまた現れた。瞼を閉じたあとの暗闇の中に、いつもネズミの息遣いだけが鮮明に聞こえた。気がづくと一晩中、四つん這いになってネズミを追いかけ回った。  最後は決まってネズミを捉える。チュッチュともがく声を指で感じ取りながら、爪を柔らかい腹の中に埋め込んで、苦いはらわたを抉り出す。そして舌で触れて、その苦みを味わう前に目を覚ます。  薄明かりを頼りにベッド前の鏡を見る。映ってる顔はネコなのか私なのか、判然としなかった。 *  聞き慣れた舌のクリック音が外から鳴り響い

      • 【二次創作小説】血路カーペットをふたりぼっちで

        ※ファイアーエムブレム風花雪月の二次創作小説になります。 ※黒鷲ルートのネタバレあります。  はじめての口づけは血なまぐさい味わいで、胃酸らしき風味までついてあった。自分のものなら嫌というほど味わってきたが、他人の血を飲み込むのはさすがにはじめてだった。  唇が離れると、薄紅色の橋が一瞬かけたは崩れた。「すまない」、と彼女が囁いた。「……何に対して?」と私が返す声が平坦だった。顔を仰げば、ガルグ=マク大聖堂が誇る、華やかな装飾ガラス窓が目に入る。  ガラス窓に描かれた聖

        • 掌編練習⑥

          外部リンク:小説お題ジェネレーター こちらのサイトさまを利用して書いた掌編を数編まとめてみました。風花雪月が楽しくて今月も全然書けなかった。風花雪月が楽しいのが悪いんです。 ① No.1532カタログ No.2574焦土 No.4956集団登校    一番前に歩いてる五年生のタケシが手を上げて、止まれと声を上げて足を止めた。なんだよ、としんがりを務める僕が声を出して聞く前に、タケシがランドセル――レンジャーガーディアンのイラストが描かれたやつ――を背中から下ろして、僕に投

          掌編練習⑤

          外部リンク:小説お題ジェネレーター こちらのサイトさまを利用して書いた掌編を数編まとめてみました。エルデンリングが面白いせいで今月も少なめ。エルデンリングが悪いのです。 ① No.4028堅苦しい No.3893無 No.423ベランダ  二年の三羽曜子が校内にこっそりペットを飼ってるじゃないかという、苦情だが告げ口とか分類しにくい報告が生徒会室にまで上がってきてる。  すっかり『生徒会イコール三羽曜子係り』という式が出来上がっていたことは嘆かわしいが、残念なことに客

          掌編練習⑤

          掌編練習④

          外部リンク:小説お題ジェネレーター こちらのサイトさまを利用して書いた掌編を数編まとめてみました。今回は少なめ。 ① No.2442自己 No.9742コテージ No.489温泉  ノックの音が聞こえてきて、コテージの扉を開いてみた。外から吹き込んでくる風は、硫黄の匂いがした。「伊吹さん」私は風を玄関に迎え入れた。硫黄の匂いが室内をくるくると走り回ってるのを、目で見えなくても鼻でよくわかった。これじゃまるで温泉旅館だ。私は苦笑して、風になったイトコの姉をしばらく見守った

          掌編練習④

          掌編練習③

          外部リンク:小説お題ジェネレーター こちらのサイトさまを利用して書いた掌編を数編まとめてみました。 ① No.3092二重 No.1830フードコート No.3279セキセイインコ  辛みそラーメンの心地よい香りを堪能しながら、トレイをもって戻ると、席には見知らぬはずの女性が座っていて、私の席で私が置いてあった新聞紙を足を組んで優雅に読んでいた。胃が底冷えした気分というものを私が短い瞬間にたっぷりと味わった。 「あら。相席どうぞ。気にしないで」踵を返そうとする私を女性

          掌編練習③

          掌編練習②

          外部リンク:小説お題ジェネレーター こちらのサイトさまを利用して書いた掌編を数編まとめてみました。 ① No.2424視界 No.4460踊り場 No.1566きりたんぽ  私たちが階段から降りていく。階段を一段一段とちゃんと踏み込んで、体重を任せていいと確認してからもう一方の足を踏み出す。そのたびに登山靴のしっかりとしたアウトソールが階段に埋もれたような感触がする。  私が声をかけた。静まり返る階段で私の声が響き渡って、こだままでした。 「上から見たときはそんなに

          掌編練習②

          掌編練習

          外部リンク:小説お題ジェネレーター こちらのサイトさまを利用して書いた掌編を数編まとめてみました。 めちゃめちゃな単語が平然と出てくるから楽しい。みんなもやってみて。 ① No.4613カラーコンタクト No.3891夢オチ No.82古い  そのオレンジ色のカラーコンタクトを人差し指と親指でつかみ上げて、つけずにそのまま持ち上げて太陽を見る。するとカラーコンタクト越しに降り注いで朝の陽ざしが黄昏の残り火に早変わり。そしてこのまま見つめているとカラコンの視界の中だけが夜

          【短編小説】千年帆走②

          ①はこちら。  かくして冠の獅子ことピラミッドは、あっけなく海の底に沈んだ。死せる王たちの墓守とも呼ばれたタテモノノカミの一柱にしては、あっけない最期ではあったけど、タテモノノカミの死は往々にしてそんなものだ。  金字塔と一体化した頭部が跡形もなく磨り潰されて、ライオンに模した四つの爪がもがくが、異常な自己増殖を千年間繰り返してきた鋼の大蛇の躯体の前ではその必死さも虚しい。ライオンが力なく、前伏せ体勢で海に倒れこんだ。墓守の大ライオンが千年も渡って守ってきた墓の中身を、海

          【短編小説】千年帆走②

          【ニンジャスレイヤー二次創作小説】アフターオール・オスモウ・イズ・ジャスト・ア……

          1 サイクロン・ダンペイ  サイクロン・ベヤのダンペイはケツを蹴り飛ばされて、路地裏に転がり込んだ。晴れてオヤブンなった以来、この数年ではドヒョウよりこちらの泥のほうがよく口にした。  サイクロン・ベヤは今日も今日とて負けた。ローンを組んで、腎臓を売りさばいて、試合権ごとにほかのベヤからスカウトしてきた有望枠テツノビッグテールは、度重なるサイバネ手術や薬物改造により、身長、体幅とも四メートルの異常体格を手に入れた巨大獣であった。  所詮スモトリというのは体格勝負。さらに

          【ニンジャスレイヤー二次創作小説】アフターオール・オスモウ・イズ・ジャスト・ア……

          【短編小説】千年帆走①

          1 『金字の冠を戴く獅子』 居住性:★★☆☆☆  住めば都という諺を身をもって実行することにおいては、自分の右を出るものはそういない。そんな彼女から見ても、ピラミッド暮らしには幾つかの厳しい欠点がある。  例えば採光性が皆無で、時間感覚が曖昧になることとか。代わり映えしない石の天井を睨みつくことから朝が始まり、代わり映えしない石の寝床に横たわりたくなったらそこからは夜。そんな暮らしを強いられることになる。  彼女は幾星霜もそう過ごしてきたが、いまだに慣れることがない。聞く

          【短編小説】千年帆走①

          【短編小説】水面に触れてべからず(後編)

          (前編へ) ◇  優秀な最新世代アンドロイド刑事〈ダニエル〉は素早く状況判断を行った。 「〈ミスティ〉姉さん、僕は弟機の〈ダニエル〉。いまあなたおよびあなたの左隣りにいるイレギュラー機〈モアレ〉を銃で狙い定めています。あなたは今、その〈モアレ〉の影響下に置かれているのですか? いま行っている作画作業は彼女の指示、または干渉によるものの可能性が非常に高い。事態を認識できているなら、ただちに作業を止めてください」  フレームだけなら型落ちモデルだが、アンドロイド描き〈ミス

          【短編小説】水面に触れてべからず(後編)

          【短編小説】水面に触れてべからず(前編)

          1 「祖父に仕事のことを訊ねると、いつも「オレは迷宮の番人だよ」と微笑まれる。そして横にいる両親は複雑な顔をして、話題をそらしていく。当たり前だけど祖父は別にファンタジー世界の住人でなければ、牛頭の化け物でもないが、やはり伝説の中にはいた」 「彼は中央人工知能犯罪予防対策部の刑事だった。いまでこそAI管理時代の黎明期を縁の下で支えた名も知らぬ功労者だと再評価されてるが、当時では彼女の父親にそう自己紹介したら「税金ドロボウめ!」と怒鳴られては塩まで撒かれるほどのハズレくじ部

          【短編小説】水面に触れてべからず(前編)

          【短編小説】貓咪(マオミー)・エクソダス

           我々にはネコが要る。  されどネコは?  街からネコがいなくなった。これはどういうことだと言うと、ソファをぱりぱりと爪をとぎ、注意してもどこ吹く風なあの尊大な毛むくじゃらたちも、本棚の上で傲然と寝そべて、下界を見下ろしては欠伸をかくあの気だるげな殿様方も、一秒前までは手に頭を擦りつけて甘えてるのに、一瞬後は牙を剝いて甘噛みをするあの気まぐれながらも、愛されて当然かのように振る舞う小悪魔どもが、みんな消えてなくなったということだ。  人々が事態の深刻さを真に理解するには

          【短編小説】貓咪(マオミー)・エクソダス

          【二次創作小説】ヒップ・プッシュ・ニンジャ・ダウン!

          ※ニンジャスレイヤーの二次創作小説です。 1 『アットウマルはシコをしたい』 「ンフフ」  アットウマルのでかい影にすっぽり覆われて、女は優しく笑いかけた。 「シないの? アカチャン……」  汚れた畳に一切気にすることなく、艶やかに微笑む女。今朝、ノック音を聞いて扉を開けると、いつの間にかネコめいたアットウマルの部屋に入り込み、いつの間にかネコめいてアットウマルの前に優雅に寝転がる。夢か幻か高額なオイランドロイドデリバリーか、そんな信じられないぐらいに美しい女。

          【二次創作小説】ヒップ・プッシュ・ニンジャ・ダウン!