2023年 58th 全日本合気道選手権 ~正方形の荒野で~
12月3日 (大会当日)
朝8時起床。東京は快晴。気温は今年"も"8℃。
去年同様に、まずは身体を解すために朝風呂を一浴びし、支度をすませ、駅中のユニクロへ。
実は昨晩、駅のコインロッカーに預けてあった荷物が忽然と姿を消した。
辺りのロッカーと間違えて施錠したかと思ったが全く見当たらない。
既に警察には遺失物届を提出済みで、池袋駅構内の各路線窓口にも問い合わせ済み。
※後日、犯人は自分だった(隣のロッカーに間違えて入れていたのを業者が回収してくれていた)ことが判明 汗
結婚式に向かったきり、丸っきり姿が見えなくなってしまったキャリーケースとカバン。
GUやユニクロは11時からしか空いていないのでスーツ一着で浮浪者の如く路頭に迷っていたら妻からのライン、
「ド ン キ に行ってみたら?」
そうか…その手があったか!
どうせならこのアクシデントも大会を盛り上げるネタにしてやろうという下心を携え東口のドンキで身支度一式を購入。
財布的には痛かったが気にしない。
たぬきつの可愛いパーカー、オーバーサイズで買えば良かったなあ。
PRACのジムへ。(立教)
ここにも一年間本当にお世話になった。
いくらコーチ手形があるとはいえ、顔パスで使わせてくれるジムはここ以外にない。
昨年からの反省を活かして改良したトレーニングメニューを、ひととおり思い出すように約一時間やり込む。
大体普段の重量の70%くらいの重さで眠りこけた身体を起こしていく。
僕は2017年の大会(第54回大会)でパワー不足を感じて敗北してから本格的なウエイトを始めた。それから6年が経ったが、ことシンプルなパワーに限れば今年がMAXだ。
大体ビッグ3で言えば、435kg位かな?
筋増量期を夏に当てたのは正解だった。
冬にやや絞った時、感覚とスピード、筋出力がぴたっと合うように(しかもパワーは落とさずに)しないといけないからだ。
ただその分、関節には大分負担を掛けてきた。
年々、酷使してきた右肩やアキレス腱は大分磨耗してきている。
しっかりリハビリやインナーマッスルのトレーニングもしているが、それでもダメージ回復がおっつかないことも増えてきた。
特に肩は…柔道で怪我したこともあり、今年一年間ずっと悩まされてきた。
そんなこんなで会場についたのは1210すぎ。
もう皆大分集まっていて、自分は遅い方。
川満先生が来ないと道着がないので、仕方なくたぬきつパーカーとゆるゆるスウェットというふざけた出で立ちで演武合わせ。
周りの視線が、やや痛い。
トーナメント表に目を落とす。
…どうやら今年も楽はさせてもらえないらしい。
去年同様自分に全く余裕がなかったのでBコートの様子はちょくちょく覗くに留まったのは非常に残念だった。
Aコートを中心に、綜合➡️捕技➡️柔拳法➡️自由形➡️準決勝➡️3決、決勝を自分の視点で振り返る。
綜合乱取一回戦
一回戦は北星学園大学の主将で
北海道大会のチャンピオン、O君。
彼とは不思議な縁があり、夏の学生大会で僕から声を掛けさせてもらい連絡先を交換し、ちょくちょく乱取の動画を観させてもらっては互いに意見を交換し合うという、現代ならではの関係性。
北海道と関東だもの。
そりゃ頻繁に合えるわけがない。
ただ連絡を頻繁にとっていたからか、金曜日に立教に来てくれた時は全然久しぶり感がなかった。
現役生も受け入れ体制がばっちりだった。
本当にありがとうございました。
Fくんの計らいで皆でめっちゃ旨い町中華を食べた後、たまたま宿泊先が一緒だったのもあり、大浴場で色々なことを話した。
武道のこと、北星のこと、彼自身の今までのこと、そしてこれからのこと…。
真面目で優しくて、控えめだけど内に秘めた情熱がしっかりある人だ。
そんな彼との一回戦。
間合いが掴めず苦労していると、178センチの長身を活かし、バック・ステップから見事な正面打ちが!
先制を許す。
手が長くて且つ引き打ちが巧いので、投間の際にかな~り、マジでかなーり気を付けつつ胴打ち2本。
ほんと、大変でした。
夏は優勝。
目指してね。
そして来冬、またここで戦いましょう。
捕技乱取1~2回戦
Aコートからは4人の立教生が登場。
全員、焦らず落ち着いて乱取をしていた。
間合に入った時、ぴたっと中段が止まっていたのと、その間合の距離が近すぎず、遠すぎず、一足一刀の間合で型乱取が出来ていた。
なので、どの技もみな美しかった。
乱取の中で勝敗を分けたのは、一つの目立つミスだったように思う。
特にAコートは堅実な捕技を売りにする選手が多かっただけに。
学生たちは脚捌を間違えたまま技に入ってしまう子もいたので、折を見て話出来ればと思います。
柔拳法組手乱取一回戦
柔拳法は嵐山道場所属の二十歳、
Mくんとの一回戦。
彼とは坂戸で数回一緒に稽古をしている。
聞いたところ中学生くらいからちょくちょく稽古しているらしく、右下段払蹴はなかなかの威力だ。
まだあどけなさが残る笑顔がかわいい、純朴な青年。
柔拳法は初出場らしく、初っぱなから瀬戸…という気持ちが僕自身になくはないが、こういう時俺は下手な手加減はしないように、またケガはさせないよう本当に気を付けている。
大会は映像が残る。
また手加減は何よりお互いの為にならない。
そもそもだが、試合は稽古の中の一手段でしかない。
勝つにも負けるにも、運を含めた明確な根拠がある。
であるならば、その根拠を下手な力加減で薄めてしまうのはかえって理合を分かりにくくしてしまう。
試合は、出鼻から動かした。
追い込みの逆突きと順突きが決まり手。
投げを誤魔化して、さりげなく抑え込みアピールしたら主審のK先生が苦笑していた。
自由形(徒手、武器)
観る側からすれば、目の前で緊張感たっぷりのがっつり自由組手を連続で見せられるのは疲れる。胃に悪い。
天丼とカツ丼を同時に食べさせられるようなものだ。
お茶や、茶菓子をつまんで茶々を入れる隙間もない緊張感。
その緊張感を柔らげるのが、美しい自由形だ。
ペアワークを活かし、捕技(護身技法)、綜合技(カウンターアタック)、打撃や捕を自由に組み合わせていく。正に「自由形」だ。
今回は徒手で9組、武器で4組が登場。
私たちは徒手の大トリを務めることになった。
一味違うな、と思わせてくれたのはやはり立教のメンバーたち。
決して贔屓じゃないよ。
まず違ったのは攻撃への「入り方」。
緊張感を持って間合をコントロールしつつ、受・捌きを一手間違えばしっかり当たる組手、また応じ技の投技など距離や展開を考えながらしっかり作り込まれている。
僕も稽古の際、アドバイスを求められれば選手の立場を捨てて意見を伝えた。
なので、完成しつつある演舞を観ながら何度ヤバイな~、負けちゃうかな~と思ったか。
ただ自由形のタイトルは未だに取ったことがないので、そこに関しては意地を張ろうと思っていた。
実際やるのは彼ら自身なので、どこまで参考になれたかは全く自信がないが、本番で力以上の力を発揮してしまうのだから大した若者たちだ。
今回の大会に際し、最も力を込めたのがこの演武だ。
綜合乱取ではなく。自由形。
構想は、実は2月くらいから温めていた。
埼玉大会を観ていて、感じることがあったからだ。
自分の表現したい理想のイメージはもっと古流寄りのタイトな演武だったのだが、やはり見映えを考えた時に「何をしているのか、いまいち分かりにくい」という問題がある。
ああじゃない、こうじゃないとペアとやり合う中で徐々に自分の中に「やっぱりキッズな、若い演舞がしたい」という感情が育ってきた。
難しいことを考えず、
当て身ドンッ!
組手パシッパシッパシッ!
捨技クルクル…
構えビシッ!
大技バシーン!
…って感じの。
至って真面目に。
それもあり、秋の終わりに一回作り上げたものを全部白紙に戻した。
色々動画を観たり、一人で動いてみたりと研究し直した結果、骨子の「俺のやりたいことてんこ盛りセット」が完成したのでパートナーに提出。
「何この型、ワケわかんないっす」
「うるせーな、やりゃあ出来るよ大丈夫」
「…はーい」
そこから合わせつつ、削りつつ、池袋綜武会で修正を重ねること数度。
坂戸道場に泊まり込みでプチ合宿したりと本当にお前ら社会人か?と突っ込みたくなるような週末を経て、ようやくアレが完成。
X字にコートを使うので、場外がいちばんの心配点。
案の定捨技で審判席に突っ込みそうになったのは、やりながら笑いそうになった。
…あのまま突っ込んじゃえば美味しかったな。
起き上がりながらの蹴りはパートナーが機転を効かし審判の目の前で三日月蹴り(本当は前蹴だった)を「ウッ」と呻きながら受けつつ、逆内刈を空中で回転しながら受けるという意味不明な受身により5審判の目の前で決めることが出来た。
…お前がいちばんワケわかんねえ。
きっと彼も僕と組むことで「何かすごいことが出来る」と思ってくれていただろうし、僕も彼なら何だって受けてくれるという全幅の信頼がある。
また、タイプ的にも相性がいい。
僕は攻撃全振りタイプだが、彼は守りが強い。父性よりも母性が強い、不思議な男だ。
僕は彼が大好きなので、いつもおちょくって遊んでいる。
多分彼はまたかー、しゃあないから遊んであげとこ、くらいだろう。
その感じが心地よくてすきだ。
…お互いにいい年だし、こんな図体なのにね。笑
そういう気色悪い、わちゃわちゃの積み重ねが、気が付いたら83点という自己ベストを叩き出したのだと思う。
大トリで、大本命で、よーしやってやろうじゃないのというプライドを最初から最後まで貫いた22秒。
一生涯で、二度とない時間だったかもしれない。
準決勝(柔拳法、捕技、綜合)
・柔拳法
8年間、自由組手競技で後輩に負け知らず。
が、ようやく待ちに待った日がやってきた。
相手はやっぱり…。
予想だにしない裏拳迎打に、リーチを活かした前手順突き。
逆突に合わせたカウンター2本でまんまと去年のリベンジを果たされてしまった。
前半は完全に僕のペースで、一本スッと決まったもんだからこのまま押し通しちゃえという油断があった。
とは言えAくんは一年前とは丸で別人。
シンプルにスピードが戻ってきたのと、練習の賜物か…かなり引きの距離を稼げるようになっていた。
こちらはどんどんしんどくなる一方だった。
後半は無茶に相討ちを合わせるばかりだったので、正直やりながら「芸がねえな~~」と自嘲したくなる展開だったが、会場も沸いていたのでま…いっか。
準決勝第2回戦は大ベテランOさんが見事なカウンターであっさり快勝。
3位決定戦は僕とHさん。
決勝はAくんとOさんというカードになった。
・捕技乱取
ここまでくると、分かりやすいミスは減るし、命取りになる。
一瞬の崩し、手の返し、最終的な投げ込みの威力…そういったものが勝負の分かれ道だった様に思う。
ただ…
僕は全日本選手権に捕技で出たことがないので、体感として本当のことは分からない。
出場経験のある選手たちのことを芯から尊敬しているので、よく話を聞いている。
彼らの話の限りでは攻撃もしっかりと見られているということだった。
試合のポイントを抑え、言葉は悪いが要領よく試合をこなせる冷静さが大切なのかもしれない。
今年ものらりくらりやっていたAくんはIさんの右面を何とか捌いて安堵の表情。
…そういうとこだよ! 笑
・ 第二試合は写真見当たらず…
MちゃんとSくんのogob対決。
先取りのSくんも素晴らしかったが、それ以上に目を引いたのがMちゃんの初動の速さ。
背の高いSくん用にか、若干、構えを高くし素早く捕に反応。突きの捌きも素晴らしかった。これぞ準決勝という一戦。
決勝は何と、兄妹対決。
…こんなことある? 笑
綜合準決勝。
一体、何大会連続で当たっているんだろうか。
なんと四大会連続でO君の前に仁王立ち。
会場はO君応援一色。
…そんなに僕、ヒール?笑
以前は僕も応援される側だった。
いつからか負けたり追い込まれて初めて歓声をもらうようになった。
ずっと試合をしてきた選手はみんなそんなものなのかもしれない。
序盤。
連続打ちで脇を開けさせ、左胴を狙い撃つ。
あっさり先制。
ここまでは確実に僕の試合だった。が…
Oくん、引かない、崩れない。
直後、強烈な脳天打ち!
腕当狙いでガードが崩れた所を狙われた。
試合はイーブンに。
だが、精神的には確実にこちらが追い込まれていた。
試合後、彼と話す時間があった。
僕はただ一言、「しんどかったよ」と告げた。
ハードな一戦を終えた直後とは思えないほど、彼は流暢に話してくれた。
彼の回想を、聞いてみよう。
─────────────────────
「面で返した後、確実に " 今日はいける!" という手応えがあった。その後も完全に自分のペースだったのに…」
─────────────────────
技ありを返された直後の相討ちも一旦は技ありと判定され、危うく試合が終わる所だった。
ここが命の拾い場だと察知した僕は、彼の雰囲気から"必ず、もう一発打ち込んでくる"と踏んだ。
応援席からは「行ける、行ける!」の歓声。
僕の勘は確信に変わる。
タイミングドンピシャの内刈捨!
彼用に用意していた秘密武器。
まだ精度に難はあったが足が内側からしっかり掛かりきった感触!
残念ながら技ありにはならなかったが彼の強襲を止めるにはこの一撃で十分だった。
最後は意地の張り合いになった。
死ぬ気で右胴を掴み捕り、面を絡めとり、猛追を振り切りながら一瞬を見切って左胴を打ち込んだ。
もう俺にはこれしか手がなかった。
…右手薬指の腱はこの試合で切れてしまった。
が、それ以上に彼の成長を上回ることができたことや、また死線を一つ超えられたという充実感が僕をしっかりと包んでいた。
第二試合
終始、試合の流れを引き離さなかったAくんの完勝。打ちあり、投げあり、動きも素早くびっくりした。
数年前の居着いて動けない姿はなく、本当に成長したなと舌を巻いた。
特に2本目の右面は見事!
あんな面、打ってみたいなあ。
3決(柔拳法、捕技、綜合)
柔拳法の3決はこれまた数回目のカード。
Hさんは上段が速いのでカウンターで応戦。
狙い澄ました2発で、2年連続🥉
3位決定戦、捕技は新旧主将対決となった。
…シンプルな減点だけ見れば、Sくんの試合だったように思われてならない。
が、あの片持手刀当を一点しか引いていないのであれば結果にはまだ納得がいく。
捌の初動も、使用技の難易度も上回っていたからだ。
後は…Sくんの持廻返、片持隅返にどういう評価を下したか、だろう。
綜合3位決定戦はあまり見たことのないカード。
試合は終始、O君がリード。なのだが…
一貫して一個のことに拘るこの真っ直ぐな姿勢は何だろう。
俺なら展開変えるな…と思う場面でも彼は頑なに自分を曲げない。
待てが掛かる度に小走りで開始線に戻る姿を見て、何だか自然と泣けてきてしまった。
その姿があまりにも昔と変わらなかったからだ。
まだ自分の試合も残っているというのに…
これだから歳は取りたくない。
声を掛けた所で、何て返ってくるか容易に想像ががついたし、現にその通りだった。
俺たちもいつまでも若くはないんだよ…
決勝(捕技、綜合)
捕技決勝はまさかの兄妹対決。
こんなこと、全日本史上あったのだろうか。
オチまで付いて、完璧な決勝だった。
Mちゃん、初優勝おめでとう。
Aくん、馬も負けたし、災難な日曜日だったね…。
決勝戦に帰ってきたのは、4年ぶりのこと。
試合前、初めて全日本選手権を目の前で観た時のことを思い出す。
2015年当時、決勝を戦っていたのは菊地選手(坂戸)と三井選手(富山大)。
学生選手権でも覇権を争った二人の戦いを、
当時18才の僕は「到底、自分にはこんな場所来られない」と思いながら、ただボンヤリ見つめていた。
そして時が流れ、豊嶋師範に出会い、同期や後輩と共に大西ビジョンの下で学生四冠を成し、社会人になって苦しい環境下でも、武田流の武道を辞められなかった。
全日本選手権で勝ち切りたかったからだ。
数年が経ち、気が付けば決勝の舞台に立っているのは自分だった。
僕の後には、もう誰もいない。
今年最後の試合だからだ。
目の前を見る。
逞しく成長した後輩が、こちらを真っ直ぐ見据え立っている。
これまでは頭の上に向かって刃を振るうことに情熱を注いできた自分が、足下に向かって刃を振るうことに情熱を割けるだろうか…
葛藤したのは数秒。
ならば、自分は「決勝」という魔物に全身で噛みついてやろう。
勝負だ。
まとめっぽい何かpart.3
2023年は、僕で締めることが出来た。
昨年の雪辱は、ここでしか晴らせないからその点は満足している。
そして、個人記録ではあるが
新人戦(打込)・学生選手権・埼玉大会・全日本選手権という四大大会でのグランドスラムをようやく達成することが出来た。長かった。
連覇?
お歴々のチャンピオンたちが待ち構えているのが分かるのにチャンピオン面はどう考えても、今の僕の実力では無理! 笑
また一から、身体から作り直しです。
もう一点。
後輩たちの大活躍が、僕を押し上げてくれたと痛切に感じている。
本当にありがとう。
自分の現実に帰れば、この大会で勝ったところで正直、何も変わらない。
全く生活の足しにはならないし、なんなら怪我までしようものならお財布も家内の視線も痛い。
けれどこの正方形の荒野には、どう考えても、ここでしか得られない経験、体験、感情がある。
それを求める限り、自分の武道は続いていくのだろう。
お し ま い