夜の静寂の中で
わたしの好きな花のひとつに、泰山木の花があります。今年もこの花が咲き始めました。そうすると、『もうすぐ梅雨だなぁ』という季節の移ろいも感じます。
泰山木は庭木にもよく使われるモクレン科の木で、その花は白くて良い香りがします。なにより、その花の大きさに驚かされます。赤ん坊の頭くらいの大きな花なのです。10m以上にもなる大きな木の上にひっそりと咲くのですが、その存在感たるや!凛とした佇まいは、見るたびにため息が漏れるほど美しい花です。
わたしが大好きなハワイ島のパハラにあるウッドバレーテンプルの庭に、この木がたくさん植えてあったのを覚えています。
このお寺には宿泊施設があり、空きがあれば泊まることができるのですが、数十年前にわたしが泊まった時は他に宿泊者がおらず、夜お寺にいるのはわたしだけでした。ハワイ島の夜はとても静かです。ワイキキのような喧騒はありません。そしてパハラの中心地から少し奥に入ったウッドバレーは、夜は本当に静かです。
ひとりで部屋にいたとき、裏庭で泰山木の葉が落ちました。泰山木の葉は厚みがあって枯れて落ちるときはそのままの状態で落ちるのですが、なんとその落ちる音が部屋の中からでも聞こえました。
日本では夜中まで何かしらの物音がしているので、『葉っぱの落ちる音が聞こえる』という経験をしたのは初めてで、とてもびっくりしました。それくらい静かな環境というものにもびっくりしました。
それ以来、何か心がざわつくようなことがあると、あの静かな夜のあの音を思い出します。そうすると不思議と心が鎮まるのです。
泰山木は、わたしの静かな心を具象化したような白い美しい花を咲かせます。またこの季節がやってきました。
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