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デジタルノマドから見た日本の魅力

デジタルノマドとは?

コロナ禍の副産物として、社内会議がなくなったり、オンライン化されたり、あるいはハンコがなくなったり、デジタル署名になったり、そもそも満員電車に揺られて会社に出勤せず、リモートワークが増えた、という経験をされた方も多いと思う。

この数ヶ月、長年住み慣れた東京を離れ、名古屋で生活している。東京で抱えていた仕事の大半はオンライン化されているので、対面式で授業や論文指導を行う場合を除き、移動にかかる時間と費用を負担せずに済む。パソコン一台で東京と名古屋の拠点を移動する、いわゆるデジタルノマド(遊牧民)である。

デジタルノマドを扱った「経済レポート」を書いたので、興味のある方はそちらを参照していただき、ご意見・ご感想を寄せてほしい。

名古屋に生活拠点を移してから、中部国際空港(通称「セントレア」)を使うことが多くなった。逆にいうと、それまでは全く使ったことがなかった。

レポートにも詳しく書いたが、セントレアと関西空港(通称「関空」)を拠点に、地図上でコンパスで円を描くと、ちょうど京都市が100キロ弱の等距離に位置している。しかし、京都を訪れる観光客の大半は関空を使っている。そもそも、セントレアに就航する航空便の数が、関空と比べると圧倒的に少ない。

愛知県には同県のGDPにほぼ匹敵する、売上高14兆円を誇るトヨタ自動車の本社があり、宿泊・飲食などに出費されるインバウンド消費が日本全国で3〜4兆円ということから、インバウンド誘致に力を入れても仕方がないという見方もある。短期的なキャッシュフローだけ見ればそうかもしれないが、もう少し長期的な視点が必要ではないだろうか。

早稲田大学の理工キャンパス(西早稲田キャンパス)に行くと、インド系の若い助手が日本人学生相手にプログラミングの講習を行なっている。アメリカやイギリスではこうした光景はすでに私が留学していた30年以上前から当たり前で、現に私の博士論文の指導教授はインド系イギリス人だった。

アップルやマイクロソフトの幹部から若手エンジニアに至るまで、また、私が勤務していた世銀でも同僚エコノミストの何割かはインド系であった。イギリスやアメリカでは政治の中枢にもインド系は進出している。

デジタルノマド・ビザとStation Ai(名古屋市)の取り組み

デジタルノマドを誘致し、優秀なエンジニアや企業家に来てもらいたい、という発想から、日本政府も今年4月「デジタルノマド・ビザ」を解禁した。

類似のビザはドバイやシンガポールなどではとっくに解禁され、デジタルノマド力指数なるものも出されている中での、やや出遅れたスタートである。デジタルノマド力ランクでは日本は25位で、治安が良く、データ通信も比較的整っているが、宿泊の多言語化に適応仕切れていないなど、課題は残る。

従来の観光ビザでは、90日までの短期滞在、就労禁止という制約があった。一方、従来の技能実習ビザは低賃金労働を誘発し、不法滞在を助長するという批判があった。

デジタルノマド・ビザでは最大180日までの滞在、インターネット・デジタルディバイスを用いた就業が可能になった。ただし、ビザを取得するためには、年収が1,000万円以上あること、などの資格要件がある。

デジタルノマド・ビザの導入はこれまでの「消費して帰国してもらう」消費型観光から「長期滞在してビジネスをしてもらう」滞在型観光への重要なターニングポイントに立ったことを意味する。彼らが日本を滞在先として選んでもらうことで、日本経済にも貢献する、という考え方で、日本の国際競争力を高める長期戦略にも合致するという。

こうした動きに歩調を合わせるかのように、10月末、名古屋市にStation Aiという日本で最大のスタートアップ支援施設が愛知県とソフトバンク社のPFI(官民連携事業)としてオープンした。

モデルとなったのは、同様の機能を持ったフランスのStation Fである。デジタルノマド向けの宿泊施設やスポーツジムなどのウェルネス機能も整っている。理工系の研究でノーベル賞研究者を輩出してきた名古屋大とも連携している。

トヨタ王国とも言われる愛知県から、新たなインバウンド観光のモデルを提供したい。将来のリニア開通(いつできるのでしょう?笑)をも見据えて、人材の東京流出、空洞化を防ぎたい。長期滞在先として、名古屋が選ばれるようになりたい。そのような願いがStation Aiの開業には込められている。

国別競争力ランキングにだまされてはいけない

国別競争力ランキングなるものが注目され、今年も日本の順位が落ちました!などと大げさに騒ぐメディアやこうした指標をありがたがる風潮も見受けられる。決してだまされてはいけない。

日本人は、幼少時から学校別ランキングに偏差値ランキングに洗脳されているので、「ランキングの詳細データは1ライセンス、何百万円で購入できます」といった広告宣伝につい乗って購入してしまう。国別ランキング表はこうした類いのものにすぎず、ましてやデータを法外な価格で売りつけるのが目的だとしたら、およそ研究機関だとか学校を名乗る資格はない。(ビジネス・スクールに対する個人的偏見もあるので若干差し引いてください。)

デジタルノマドが国境を超えてビジネスを行い、アメリカ車だと思って購入したテスラ車が上海工場から出荷される時代に、国別競争力ランキングで何位になった、などと一喜一憂する意味がないことに気づくべきである。

現に、国際競争力ランキングの上位には、シンガポール、ドバイ、スイス、あるいは香港などの都市国家や、面積・人口規模で日本よりはるかに小さな国が多い。それは、競争力を図る指標が小規模な方が有利だからである。

その証拠に、東京を「国」と置き換えた時に、東京国は間違いなく日本国よりはるかに上位の国別競争力ランキングに位置づけられるであろう。愛知「国」も同様である。

高めるべき競争力とは、もっと小さなスケールで、より広い市場にアクセスできる力とそれを担う人材である。国別競争ではなく都市別競争、しかも都市間のモビリティが高く、世界規模の人材を確保し世界規模の収益性(ひいては報酬)を得る力を高めることである。

デジタルノマドにとってのセントレア空港の可能性

セントレア空港から京都・大阪まで100キロ、東京圏までは200キロという絶好の立地条件にありながら、関空や羽田、成田に比べて利用客が少なく、韓国からの固定客で賑わう福岡空港にも利用者数で負けている。

観光庁が訪日インバウンドに行ったアンケート調査によれば、セントレア空港を利用したインバウンドは他の空港利用者よりも「温泉・マッサージ」に出費する金額が高いことを示している。

デジタルノマド力(観光が投資・企業を誘発する力)を高める要素の一つとして、ウェルネスがあるが、その意味で、伊豆、飛騨や金沢の温泉宿へのアクセスが良いセントレア空港には潜在力が高い。

国際競争力、デジタルノマド力ともに高いドバイ空港には年間2万着弱のプライベート・ジェットが離発着している。一方で、羽田や関空はプライベート・ジェットを受け入れるキャパシティがない。結果、セントレアとほぼ同じ、2000離発着弱(年間)にとどまっている。

セントレア空港に、一般の旅客機がなかなか利用しないのであれば,いっそのこと,デジタルノマド,ないしその予備軍,あるいは世界のビジネス幹部たちが利用しやすいプライベート・ジェット空港としての機能強化してみてはどうだろうか。

プライベート・ジェットを用いて,目的地から目的地へ移動するのが国土の広いアメリカはもとより,ヨーロッパやアジアでも,ビジネスの世界では急速に進んでいる。空港で何時間も接続待ちをしている暇は優秀なビジネス・パーソンにはないのである。

ましてや,時間を惜しんで,移動しながらビジネスをするデジタルノマドにとってはたとえ飛行機の移動であってもプライベート・ジェットで移動する方が結局コスパがいいということになる。

温泉を常宿として仕事をすすめるスタイルはかつては文豪(川端康成など)からデジタルノマドの時代に移りつつあるのかもしれない。

さいごに宣伝・・・

観光から投資,そしてウェルネスへというレポートで言いたかったことはまだ十分に伝わっていない気もするので,次のレポートで読者の論評や批判を受けながら発信していきたい。

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