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【質問回答】アニメのコスプレ衣装縛りでダンスバトルイベントを企画したい。法的な問題はあるか。
1 はじめに
最近では空前のアニメブームとも相まって、アニソンダンスイベントが盛り上がりを見せています。中には、曲のアニソン縛りにとどまらず、ドレスコードもキャラクターの衣装やコスプレを指定するイベント(以下「キャラ衣装イベント」)もあるようです。
そうしたイベントをオーガナイズする場合、法律上問題は無いのでしょうか…?
キャラ衣装イベントの宣伝・集客行為、イベントの様子をSNS等にアップロードする行為などを中心に考えていきましょう。
※ロジックについて2,3で解説していますが、急ぎの方は「4リスク回避方法まとめ」の箇所をご覧ください。
2 著作権法の問題
(1)著作権とは
真っ先に浮かぶのは著作権の問題です。「著作権」とは、自分が創作した著作物を無断でコピー・利用されない権利です。そして、「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法第2条第1項第1号)。
この定義のうち「創作的に」とは、創った人の個性が何らかの形で表れていることです。例えば、幼稚園児が描いた絵であっても個性が表れている以上も著作物に該当します。他方で、創った人の個性が表れていないものは「創作的に」とは言えないので著作物に該当しません。短文の単なる挨拶文などの、誰が表現しても同じになりがちな《ありふれた表現》は、「創作的」と言えません。
「表現したもの」とは、頭の中にあるイメージやアイデア、技法ではなく、作品として具体的に表現されたものという意味です。例えば、冒険好きで仲間想い、麦わら帽子をかぶっている、全身ゴム人間、顔に傷、赤い服にビーチサンダル…というキャラクターの設定は、それ自体ではアイディアに過ぎないため「表現したもの」に当たりません。他方で、尾田先生の描くルフィのイラストはイラストとして「表現したもの」に該当するため「著作物」に該当します。
(2)著作権侵害の構成要素とその結果起こりうること
既存の著作物に接して、それを自己の作品の中に用いること(依拠性)及び他人の著作物の創作的表現部分について他人の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できること(類似性)が認められると、著作権侵害となります。その場合、侵害行為の停止請求や侵害により被った損害の賠償請求を受ける他、刑事罰の対象となる可能性があります。ダンスイベントの場合、開催中止を余儀なくされたり、イベントで得た収益を支払う必要が生じる可能性があります。
(3)キャラ衣装イベントとの関係
例えば、いちダンサーが、麦わら帽子に赤い服、顔に傷、短パン、ビーチサンダルなどの恰好をして踊っている写真や映像をアップロードした場合、キャラクターの著作権侵害になるでしょうか。おそらく、一つ一つの衣装は特徴的とはいえず、≪ありふれた表現≫となる可能性が高いです。また、それらを組み合わせてダンサーさんが衣装として着たとしても、骨格や髪型、顔の造形まですべて寄せるのは不可能ですので、ただの夏っぽい恰好をしたお兄さん(おじさん)になる可能性が高いです。となると、類似性が認められにくい=著作権侵害が成立しないと思います。もっとも、登場人物の要素をすべて再現し、アニメのイラストと完全に一致する域に達した場合は侵害になる可能性を否定できません。画像や映像をアップする際は、原則、そこまで気にする必要はありませんが、極端に再現性の高すぎる人がいる場合は少し注意が必要です。
また、動画投稿の際に音源を使用する場合はかかる音源の著作権侵害の有無は別途検討する必要があります。(⇒こちらは別途記事で解説します。)もっとも、インスタやtiktokの場合アプリ内で音源提供されているもの(ミュージックスタンプ機能)については特に気にすることなく使えます。
さらに、イベント開催に当たって、フライヤーなどを投稿・配布することは必須ですが、これらの画像にキャラクターのイラストを使用すると著作権侵害になるため控える必要があります。
このように、著作権法との関係では、キャラクターそのものを投稿することを避けることで一定程度リスク回避ができるでしょう。
3 不正競争防止法の問題
(1)不正競争防止法とは
こちらの法律は、事業者の公正な競争の促進を目的として制定されました。同法は類型別に様々な行為を不正競争行為として規定しています。キャラ衣装イベントの場合、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為」である著名表示冒用行為(不正競争防止法第2条第1項第2号)に該当する可能性があります。その場合差止、損害賠償、刑事罰(同法第21条第3項第2号)の対象となりえます。
(2)違反事例
キャラクター衣装の貸与・インターネット上へのアップロード行為が問題になった事案として、マリカー事件判決があります。マリオやほかの登場人物は「著名な」ものであるところ、上記の行為が「自己の…表示として使用」したと言えるかが問題になりました。
本件では、任天堂と無関係の会社が「マリカー」と称してカートとマリオの登場人物の衣装を貸与するサービスを提供していたところ、衣装写真のHPへの掲載行為と貸与行為が他人の商品等表示として著名なものを自己の営業の表示として使用していると認められました(令和元年5月30日知財高裁中間判決)。
(3)キャラ衣装イベントとの関係
この裁判例を参照するに、キャラ衣装イベントにおいても、主催側が参加者ダンサーに対してキャラクター衣装の貸与を行い、レンタル料金をとるなどして収益化すると自己の営業の表示と判断される可能性は高そうです。
他方で、衣装はあくまでも参加者が持参する方式とし、主催者はただドレスコードを指定しただけ、との立場を貫くのであれば、一定程度、著名表示冒用行為のリスクを下げることができるのではないでしょうか。
4 リスク回避方法まとめ
(1)著作権法との関係
・フライヤーやSNSにアップする写真に元ネタが移りこまないように注意しましょう。
・キャラクターの衣装を着た参加者の写真をSNSへのアップロードする行為は原則問題ありませんが、あまりにも再現性が高いコスプレイヤーの写真を投稿することは控えた方がよさそうです。(ただしそのような方であってもイベントへの参加自体は問題ありません。)
(2)不正競争防止法との関係
・イベント会場での衣装の有償貸出しや販売をしないようにしましょう。
Legal Swag Crewでは複数人の弁護士でダンサーの抱える法的課題の解決に取り組んでいます。ご相談等ある場合は是非こちらからお問い合わせください。