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【読書感想文】PSYCHO-PASS GENESIS


本文の前にPSYCHO-PASS第1期のOPを紹介いたします


こんにちわ うなぎと申します
本日は、私の記事を開いていただき
誠にありがとうございます

前回の投稿から1週間以上経過してしまい
申し訳ございません

PSYCHO-PASS GENESISの読書感想文を
書き上げましたので、お読みいただけたら幸いです
#1と#2の二本立てを考えていましたが
予想以上に長文になったので、本記事のみ投稿いたします
今回は、記事2本分の容量です
誰かに見せたいものが頭の中から溢れ出すぎました

読書感想文ですが

ネタバレ有りの感想文です「私は一向に構わん!」な方向けです かなり長文です


申し訳ございません、どうしてもネタバレ有りの
文章しか作れませんでした
読書感想文、中学生以来とは言え難しいですね
🥶🥶🥶


以下、本文です


初々しい、とっつぁんの姿


PSYCHO-PASS第1期の1話目での常守朱は
初々しい社会人として描写されています

子鹿のような彼女が配属初日の事件で
行動を共にした執行官が征陸智己(以下とっつぁん)です
酸いも甘いも噛み分けたベテラン刑事(デカ)
そのままのハードボイルドなオジさんです
踊る大捜査線で言うところの和久さんですね

PSYCHO-PASS本編開始の約30年前
西暦2080年11月、とっつぁんは新米刑事でした

配属初日に、本庁をたらい回しにされた上に
ギンギラギンなスーツを着込んだ
極道のような上司に一日中タバコ臭い車で
首都高ドライブに付き合わされます
新米のとっつぁんの姿は「征陸あんちゃん」と
呼びたくなるものでした

征陸あんちゃん、仕事終わりに極道上司から
飲みに誘われますが「おふくろに用事があって」と
嘘をついて、彼女に会いに行きます
なかなかに肝が据わっています
さすが後のとっつぁん
(その彼女こそ、ギノさんのお母さん、宜野座冴慧(ぎのざさえ)です)

PSYCHO-PASS GENESIS #1,#2は
ハードな事件パートの合間に征陸一家の様子が
描かれています そこからは征陸智己という人物が
いかに家族愛で満ちた人物であったかが分かります
ギノさんのお母さんの冴慧さんも
本当に優しい人でした
PSYCHO-PASS世界でなければ穏やかに
暮らす事ができたのに、と奥歯を噛み締めてしまいました

八尋和邇 #1


PSYCHO-PASS GENESISですが
ファンに嬉しい描写が色々あります
狡噛慎也と槙島聖護が対面するシーンの
オマージュなどです

「その傷でよくやるもんだ」
カツンカツンと、赤い螺旋階段を降りながら
狡噛さんを見下ろす槙島聖護のシーンが
第1期の1話目にありますね

私が極道上司と呼称した、征陸の上司ですが
八尋和邇(やひろかずじ)と言う名前です
PSYCHO-PASS GENESIS #1,#2でのラスボスです
この小説は、征陸智己と八尋和邇が
「狡噛慎也と槙島聖護」が対面した時のような
シーンで始まります

「その負傷と、その玩具でよくやるもんだ」
と言いながら階段を降りてくる八尋和邇の姿は
まさに槙島聖護です 真っ白な服に細身である点も
八尋と槙島で共通です

狡噛慎也が槙島聖護を殺そうとしたように
征陸智己も八尋和邇を殺すために、彼と対峙します

狡噛さんと槙島は最初から敵対関係にありましたが
征陸と八尋は、唯一無二の絆で結ばれた仲でした

彼らの関係は、上司と部下という単純なものではなく
「血よりも硬い絆で結ばれた父子」でした
作中では「猟犬の親子」と表現されています
征陸智己は八尋和邇の事を「親爺」と呼ぶほど
深く敬愛していました

征陸智己という刑事は八尋和邇が育て上たのです

散々な配属初日のトドメに、征陸あんちゃんは
12人連続殺人事件の現場に急行する事になります

かなり凄惨な有様のホトケ様が居る事を理解していながら
八尋和邇は「お前さん、配属初日だってのにツイてるな」と笑います

後に「初陣で嫌な事件に当たっちまったなぁ」
朱ちゃんを気遣う、とっつぁんと対照的ですね

八尋和邇が「ツイてる」と言ったのは
PSYCHO-PASS世界の特殊な事情が背景にあります

シビュラと犯罪係数のおかげで犯罪は激減しました
まっとうに生きれば何一つ不自由なく
生きる事ができる社会なのに、発生する犯罪というのは
どれも粒揃いの凶悪犯罪です
配属初日から、そんな理不尽な目に遭うのは
八尋からしたらとても「ツイてる」事なのでしょう

嫌なビギナーズラックですね

彼は征陸に刑事として重要な事を伝えます

「シビュラ社会で、犯罪を犯す人間は、まさしく狂人」
「狂人と対峙するには、その狂った思考に同化し続けねばならない」
「社会が生み出した異常者に限りなく接近するのは色相を泥沼に沈める行為」
「だが、そうでもしない限り彼らの見ている世界は理解できない」
「奴らの見ている世界を理解するから、刑事は奴らを追い詰める事ができるようになる」

八尋は続けて、自分たちの係が担当している
「ケース39」について話します

「ケース39」は刑法三十九条に由来し
厚生省が権益擁護のために揉み消した未解決事件の
総称であると、その厚生省の悪行を暴くことで
権威を失墜させる警察庁の企てがあるのだと
厚生省も自前の準軍備組織を用いて
被疑者を確保しようとしている事も伝えます

征陸が警察官になった理由は
「父の死の真相を追求する」事です
彼の父も警察官で、SATの狙撃手でした
(SAT:警視庁特殊部隊)

2070年11月のノナタワー落成式で
日本史上最悪のテロが発生し、警察側の犠牲者として
彼の父親は命を落としていたのです

テロの首謀者は逮捕されておらず
行方をくらましていたため
その逮捕のために、征陸は警察官になったのです

一橋大学法学部卒なので、征陸には
平穏な人生を送れる選択肢が他にもありました
八尋にも、その事を指摘されますが
征陸は強固な意志を見せます

為すべきことを為すために刑事なることを選択した
それは、ここでなければ絶対に叶えられないと

彼の偽りない言葉に、少し感心したのか
八尋は、彼に伝えます
「俺はお前が気に入った、むざむざ死なせはせん
 必要な事は全て叩き込んでやるから、俺について来い」と

征陸智己が良い刑事(デカ)になるという、彼の見立ては後に的中します

ちなみに、小説を読めば分かりますが
容易く八尋は人情に流される男ではありません
見た目だけでなく、内面も極道だと思っています
彼が征陸を気に入ったのは、刑事の勘というものがあるのかもしれません


必ずホシをあげる


刑事になってから数年後、征陸智己は
「父の死の真相を究明する」チャンスを迎えます

配属後3ヶ月程度で、12人連続殺人事件を解決し
その犯人が使用していた凶器から
ノナタワー落成式襲撃事件の首謀者への
手かがりを得たのです

彼の仕事っぷりは、有能の一言です

PSYCHO-PASS1期を見ていたときは
「とっつぁんは肉体派かなぁ?」と勝手に思っていたのですが
実際にはかなりの頭脳派でした

12人連続殺人事件の犯人像に関して
被害者の共通点を調査し得られた事実から
短期間で「犯人はケア施設勤務の心理療法師」と
捜査報告書と提出した流れは、某特命係のおじさんを彷彿とさせます

曲者上司、八尋和邇の信頼も得て
刑事として順調に職務をこなし
ついに自分が解決したい事件の犯人に関して
鍵を握る人物と交渉に臨みます

PSYCHO-PASSの東京には廃棄区画と呼ばれる、戦後の闇市の様な街があります
そこの顔役であるシスターはノナタワー落成式襲撃事件の首謀者の知己です
強かで聡明な老女である彼女は手強い交渉相手です
八尋から無線でアドバイスを受けつつ
交渉に臨む征陸ですがシスターにはお見通しです
「話を聞いてやっても良いけど、自分の言葉で喋りなさい」と釘を刺されます
彼の援護を得られず、孤軍奮闘する事になった
征陸ですが、見事に交渉を成し遂げます

交渉の決め手は、征陸の嘘偽りない自分の言葉が
シスターの共感を呼んだからでしょう

「厚生省の覇権は何があっても揺るぎない あなた達の奮闘は報われない」
「足掻けば足掻く程、自分の首を絞めるのに、何故事件を解決しようとするのですか?」


「私たちは真実への到達が叶えばそれで良い」
「目の前に未解決の事件があるのなら
 それを追求する事は時代が変わろうとも
 変わっちゃいけない事なんです」
「私たちは、第三者で無ければならない、
 当事者と接近はするが、同化して狼になってはいけない
 猟犬であるべきなのです」

「私は、ノナタワー襲撃事件で父親を失ったが、
 犯人に復讐するために、刑事になったのではない
 なぜそんな事をしたのかと犯人に問いたい」

征陸とシスターの会話を要約すると上記になります
父の死に対して納得するために
この事件の捜査をしているのだと
シスターとの会話で征陸は気がつきます

征陸が追い求めた事件の首謀者は

アブラム・マレク・ベッカム

作中では「孔雀の王」と呼ばれる、テロリストです
彼はシビュラシステム構築の根幹に関わる重要人物でもあります

PSYCHO-PASSは、あくまでも刑事物のアニメです
シビュラがもたらした秩序に対して
視聴者は色々考察しますが、作中で是非について
深く描かれる事は有りません
舞台装置の役割に徹しているのです

アブラムの存在は「シビュラの起源」に迫るもので
視聴者がアニメで知る事が出来なかったPSYCHO-PASS最大の秘密です

PSYCHO-PASSを楽しんできた者として
このシーンはワクワクとドキドキです
だって「シビュラを創った男」が、ようやく姿を現したのですから

若い日のとっつぁんの活躍見たさに
PSYCHO-PASS GENESISを手に取りましたが
良い意味で予想を裏切ってくれました

執行官に

2091 「犯罪係数」による「潜在犯」制度の施行
         シビュラシステムによる潜在犯捜査開始。
         犯罪係数採用。

2091 4 征陸智己、警察制度廃止に伴い
            厚生省公安局へ異動

2093 3 征陸智己、サイコパス悪化により退局、
            足立区サイコパス矯正医療センター入所

https://psycho-pass.com/archive/story/


アブラム・マレク・ベッカムの元に誰よりも
早く到達した征陸と八尋でしたが
結果的に厚生省に獲物を横取りされます
彼らがアブラムを移送しようとした時

<対象の脅威度を判定しました・執行モード・エグゼキューション・スローター>

厚生省が用意した制圧用ドローンによって、アブラムは惨殺されてしまいます
アブラムの身柄は「厚生省VS警察庁」の省庁間対立において最重要です
厚生省は、虎視眈々と「時」を待っていたのでしょう
シビュラを擁するメリットがハッキリと分かります
厚生省はシビュラの演算能力をフルに活用して
様々なパターンを検討していたのかもしれません
見事に横から獲物を掻っ攫いました

アブラム・マレク・ベッカムという
最大級のホシを上げる事が出来なかった
警察庁は厚生省に完全敗北し、解体されます

警察が確保した被疑者を殺害するのは
暴挙以外の何物でもないのですが
警察庁は厚生省に抗議を出しませんでした
出来なかったのです

表立った行動を取れなかったのは警察も同じです
「存在しない」とされた事件を極秘裏に
解決しようした事が裏目に出たと言えます
シスターが言う様に詰んでいたのですね

それはさておき、失敗の責任を取らせるのが組織

征陸は、情報をリークしたとして、糾弾されますが
八尋が「事件捜査の全責任は自分にある」と庇います

本来、現場の人間が何を言おうと、組織としての
結論は変わらないものですが、主張は受け入れられ
八尋の辞表が受理される事になります

親爺
とまで呼んだ敬愛すべき先輩刑事(デカ)に
詰め腹を切らせた事は
征陸に暗い影を落としたと感じています
他の捜査員から侮蔑を向けられ
家族には「クビになるかもしれない」と
伝えられず、それでも笑顔の演技をする自分を
冷めた様に捉えている、悲しげな彼の姿が
短い文章で描写されていました

それから数年間、征陸は親爺と一緒に居た頃と比べて、平穏に仕事をこなします

後のギノさん、征陸伸元(当時)が産まれ、父親になります

シビュラによる業務支援と行政ドローンの浸透は
労働負荷を一気に押し下げました 残業は全てドローンが代行してくれます
警察業務に関しては、厚生省との一部業務提携が
実現されたため、拘束された犯人は
警察署に向かうのではなく厚生省管理下のケア施設に移送される様になりました
そこに、かつて刑事に求められたものは有りません
「必ず!ホシを!上げる!」そんなお巡りさんは幻影となり

かつて、八尋和邇に教わった刑事の在り方は不要になったのです


厚生省公安局刑事課分隊108 征陸の新天地です
(斉東、結城という警視庁時代からの同僚も)
彼には、喜多という後輩も出来ました
敬礼の右と左を間違える、柔らかな顔立ちの初々しい女の子です
厚生省に入省して、再適性検査により公安局に
配属になったそうですが
本来はアーティスト志望だったとのこと

色相が悪化した老人を上手く説得できなかったと落ち込む
彼女と征陸のやり取りは、アニメ1 期2話目の
とっつぁんと朱ちゃんのやり取りを思い出させます

朱ちゃんは公安局創設から約20年後に配属されます
彼女が配属されるまでの20年間
作中世界では、様々な改善が行われてきた事が
PSYCHO-PASS GENESISからは読み取れます
改善と言えば聞こえは良いのですが、作中で描写されている事柄を
適切に形容する言葉が私には見つかりません
精神衛生至上主義を標榜しておきながら
健全な精神色相(サイコ=パス)を持つ人間に
「適性がある」として過酷な職務を負わせ
システム最適化の為に割り切って使い捨て続ける
社会制度の歪さは何とも言いようがありません
そして、そうでもしなければ秩序を保てない
作中の事実には本能的なレベルでの
嫌悪感を抱かざるを得ません
(強い納得感を伴っている事に、尚のこと)

相変わらず、恐ろしいまで強力な作品設定である事に唸ってしまいます

配属初日でホトケを見させるような事は
したくないという征陸の方針も虚しく
喜多ちゃんは過酷な職務の影響で色相が
どんどん悪化していきます おい、シビュラ

当時の公安局員は「スローター(作中:slaughter)」
と呼ばれる試作ドミネーターを携行していました
真っ白な、アラバスターから切り出された様なデザインと表現されています
この「スローター」は「デコンポーザー無し」のドミネーターの様なもので
「エリミネーター」はバッチリ搭載されています
犯罪係数300オーバーの潜在犯を優しい性格の
喜多ちゃんに執行させるのは、一言で言えば

鬼畜の所業です

アニメでも描写されていましたが、エリミネーターは
当たり所によっては一撃必殺出来ません
エリミネーターの一撃の元に対象を執行するには、射撃の腕も必要です
喜多ちゃんは現在で言うところの官僚さんです
射撃の腕は求められない仕事です
なので、本人は潜在犯を苦しませる気は無くとも
上半身だけで悶え苦しむ潜在犯の姿といった
惨たらしい光景に何度も遭遇する事になります
彼女の色相は、更に濁って行きました

おい、シビュラ

PSYCHO-PASS視聴者の方なら
「執行官は居なかったのか?」と
疑問に思われるかもしれません 答えはノー

当時も、執行官は存在していました

ただし、縢くん、須郷さんのような猟犬ではなく
王陵璃華子のような狂人達です おい、シビュラ

潜在犯相手とはいえ、好き勝手に暴力で蹂躙した
挙げ句スナック感覚でエリミネーターで爆死させる
明らかにまともでない人間を
執行官として運用していました
当時の執行官達は、加虐行為を楽しんでいるように感じ取れます

アニメに登場する執行官(東金朔夜は除く)は
犯罪係数が高いとはいえ好き好んで人を傷つける
人物は居なかったと思っています

しかし、公安局創設当初の時代は
人を人と思わない狂人達を用いて制圧することが
方針として取られていたのです

とある事件で、初めて執行官達と遭遇した
征陸と結城ですが常軌を逸した彼らの行動に
強い衝撃を受けます
結城の一言はシンプルに絶望感を表現しています

私たちが信じてきた正義は死んだ
そして、訳の分からない怪物が居座っている

時代背景の差として「潜在犯」と「その家族」に対する社会の反応も描かれています

作中、潜在犯の家族は潜在犯遺族と呼称されます
家族を回復させ、元の生活を取り戻すために
家族の縁を切らない選択をした人達です

彼らは我々の現実世界にも似て
社会から迫害される存在です

色相悪化者は一律病人扱いなので
潜在犯遺族の視点から見て
病気から回復する事を望むのは当たり前でしょう
家族の情もあると思います

ただ、人間社会は彼らの望みに寄り添いません
やがて潜在犯遺族達は、同じ地域にまとまって暮らすようになります

征陸の犯罪係数が振り切れてしまう事件は
彼ら、潜在犯遺族に強く関係するものでした

「久々のデカい事件(ヤマ)」と言う事を告げられ
征陸たちは、潜在犯遺族達が住む地域に存在する
廃屋に派遣されます その場所からは強烈な
化学薬品臭が漂っていました
周辺住民は「ただの廃屋」と証言しますが
征陸は「そんな訳はない、本能的な忌避感から廃屋を避けていた」と推察します
明らかにヤバい場所に近づかないのは常識です

PSYCHO-PASS世界ならば、特に

征陸の後輩、喜多ちゃんも強いストレス反応を起こして荒い呼吸をします
彼女は、ここのところ色相が70オーバーです
征陸はケア錠剤の服用を勧めます
ヤバい場所で執行官との共闘に加え
エリミネーターの使用が想定されるのですから
彼女が苦しい反応をするのは当たり前です
喜多ちゃんは平気で殺処分を執行できる人間ではありません

しかし、そんな事はお構い無しに執行官達はドローンを引き連れて
「狂気的な特攻」を仕掛けます

廃屋は2階建です

狂人どもが特攻したおかげで1階は血と肉の海になりました
化学臭と人肉ミンチの混合臭など、グロ過ぎて想像が追いつきません

やがて征陸たちは、生き残った人達と遭遇します
女性、老人、子供、赤子、合わせて30人ほど

痩せ細った老人達は、肉壁になろうと征陸たちの前に姿を見せます
どの老人も犯罪係数300オーバーです
彼らの列から初老の女性が現れて、身の上を語ります

「自分たちは、家族が潜在犯認定された後、社会から迫害されて彷徨い続けた」
「私の息子は、心臓が弱い私の介護をずっと続けてくれた」
「私の介護のせいで、息子の色相を害してしまった」
「私は息子の人生を奪い取って生きているから、シビュラの裁きに期待した」
「私には天罰が下り、私の息子は解放されて自分の人生を生きる事ができる」
「犯罪係数によって裁かれるのは私だと思っていた」

「しかし、裁かれたのは息子だった」
「息子は真っ白い服を着た連中が携える玩具の様な白い銃に吹き飛ばされた」


息子が執行されたのは、私の介護に疲れて私を殺そうとしたせい
犯罪を未然に防げるなら、なぜ彼がそこまで追い詰められなければならない?
なぜ、犯罪に手を染める前に、誰も手を差し伸べてくれなかったのか?

「こんな社会、おかしいでしょう?」
「なぜ、あの子を殺したのでしょうか?」

征陸は答えられません
女性は執行対象(パラライザー)ですが
彼女の人工心肺装置への影響を考えて、引き金が引けません
それに、この女性の訴えは、彼の刑事としての
存在意義を粉々に打ち砕くには十分過ぎました
自らの良心と正義を取り零して壊してしまったと打ちのめされます
「私は今まで何をしていたのか?」
ショックを受けることは、結構心に来ます
私の実体験的に

呆然とした彼の代わりに、執行官の1人がスローターで女性を撃ち殺します
「シビュラが撃ってと言ったものを撃った、どこがおかしい?」と執行官

心理的な衝撃が大きいと、本当に身体が動かなくなります
征陸が受けたものは言葉に出来ません
彼の場合、人の生死に関わる場所で「その経験」をした事が、始末に負えません

征陸の潜在犯化のダメ押しとばかりに
この廃屋に居る筈のない人物と
最悪のタイミングで再開を果たします

想像してみてください

精神がどん底に沈んでいる時に、恩人が現れて
実は、その恩人が自分の敵になっていたとしたら?

連行途中の長身の男が征陸の隣を通ります
壮絶な暴力に晒されたのか、血まみれ顔の彼は

「俺の犯罪係数を測ってみな」と凄絶に笑います

命じられるままにスローターで測った犯罪係数は「0」
PSYCHO-PASS視聴者には、ある意味お馴染みです
ただ、征陸にとっては有り得ないことです
有り得ない事は更に続きます
男はいつの間にか刀のような刃物を手にしており
慣れた手つきで、近くにいた執行官の首を刎ねます
男は、ホログラムで自分の姿を偽装していました
征陸の前に現れた男は、彼が最もよく知る人物です

真っ白い服を着た八尋和邇が立っていました

潜在犯遺族は、なぜ廃屋で化学薬品を扱っていたのでしょうか?
答えは、精神色相固定薬を製造するためです
八尋和邇が、その手引きをしました
「追い詰められた彼らに生きる術を与えた」と
八尋は説明します

シビュラ社会で犯罪係数を誤魔化す薬品の製造は
思いついただけでもアウトです
即座に執行対象になります
八尋和邇という人間は潜在犯遺族の
心情を知っていながら、彼らを利用したのです
実に冷酷な行為ですね

執行官の1人は、小賢しくある事に気が付きます
「八尋和邇は、精神色相固定薬以外にも、シビュラの盲点を見つけた」と
上手くいけば、無罪放免になるかもしれないので、征陸にスローターを向けます

ですが、この執行官は別のスローター(エリミネーター)によって吹き飛ばされます
征陸を救いたい一心で喜多が執行官を撃ったのです 
しかし、それは殺戮開始の号砲でした
八尋和邇は「新人教育に失敗した」と
冷徹に言います

喜多は別の執行官にエリミネーターで撃たれて
下半身が吹き飛ばされます
喜多は征陸を助けるために行動を起こしました
しかし彼女の「助ける」という意思ではなく
「排除する」という暴力的な意思が、公安局員と執行官に感染症のように蔓延します
もはや廃屋は殺人光線が飛び交う地獄です
地の文には征陸の混乱振りが描写されています
「下半身が吹き飛ばされても、最新装備のドローンなら助けられる筈だ」
喜多は最後の力を振り絞って、遺言を残しますが
それが、PSYCHO-PASS視聴者の心を容赦なく抉っていきます

常守朱は「ここでなら自分しかできない事が見つかるのではないか?」
公安局にやって来ました(それを聞いて、縢くんが怒ったのは懐かしいシーン)

喜多は「ここに自分しかできないことを探しに来たのなら、他を探して」

適性があると言うだけで公安局に配属され
苦痛に満ちた業務に就き、心を病んだ挙句
最後には残酷な死を迎えてしまうのは理不尽では表しきれません
読んでいて思いました ファンサービスが上手いんだけど、色相濁るわ!と

かつての同僚、今の同僚がミンチになって行く中
征陸は、それでもスローターの引き金を引けません

刑事は真実の追求者であって、刑の執行人ではない
その一線が彼を踏みとどまらせていました

いつのまにか征陸の隣に八尋和邇が立っています
「マサ、お前は人を守る側か
 なら、ここでお前は死なせん」
八尋に肩を貸されて、征陸は廃屋からの脱出に成功します

地獄行脚を終えた征陸の犯罪係数は「138」
シビュラは「まだ生きろ」と告げていました 残酷な事に

おれ、潜在犯になったんですか?

これだけ善を貫いてもな


続くPSYCHO-PASS GENESIS 2巻で、彼らの決着がつきます
2巻では、潜在犯が「殺処分される理由」
それを応用した八尋の大規模テロと対峙する
征陸の苦闘が描かれます
左腕が機械になったのは、その結果です

PSYCHO-PASSの世界は、これでもかと言うほど
理不尽に満ちた世界です
アニメ1期を見終わった時に感じたのは
シビュラ体制に対する強い反抗心です
「いつか誰かが、貴方達の電源を落としに来る」と
朱がシビュラに啖呵を切ったのは
私の考えを代弁してくれたとさえ思ったほどです
それから10年以上経ったのですが
当時抱いた反抗心が小さくなっています
心の病を得て、自分のこと、会社のこと、
社会のこと、人間のこと、色々と考えて
本を読んで勉強をする内に、シビュラ体制を
全否定できないことに気が付きました
(現実にわからせられたのかも)

「人間の愚かさを決して過小評価すべきではない」

ユヴァル・ノア・ハラリという人物の言葉です

PSYCHO-PASSという作品は、心の底から
人の愚かさを理解できていないと
書く事ができなかった作品だと思っています
ブラックな作品だとも思いますが
10年以上経っても楽しめるのは
この作品が優れている事の証拠でもあります
私に色々な視座を与えてくれた事に感謝しています
PSYCHO-PASS GENSISは全4巻です
1、2はとっつぁんの話、3、4は真守滄(まかみそう)という人物の話です
3、4は、更にハードな展開になります
色相が悪化するかもしれませんが、面白い作品です
ブラックな作品が読みたい方にオススメです

今回は非常に長い文となってしまい
大変、申し訳ございませんでした
ここまで読んでいただいた方に、大変感謝です

本当にありがとうございました 失礼いたします


次は、短く文をまとめます🥶

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