#492 「国立大学法人 Y大学事件」東京地裁
2019年7月31日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第492号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【国立大学法人 Y大学事件・東京地裁判決】(2018年9月10日)
▽ <主な争点>
懲戒処分の大学内での公表が名誉毀損に該当するかなど
1.事件の概要は?
本件は、Y大学の医学部教授であるXが平成28年12月に開催された学長選考会議に関する事項について、同大学の学長から違法に戒告処分(本件懲戒処分)を受けた上、これを学内専用ホームページ等で公表されて名誉を毀損されたと主張して、Y大学に対し、不法行為による損害賠償として、慰謝料160万円などの支払を求めるとともに、民法723条(名誉毀損における原状回復)所定の名誉を回復するのに適当な処分として、同大学の学内専用ホームページに本件懲戒処分が誤りであり、Xに謝罪する旨の記事を掲載することなどを求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<Y大学およびXについて>
★ Y大学は、平成16年4月に設立された国立大学法人である。
★ Xは、昭和57年4月、Y大学の前身である国立Y大学に医学部第一病理学教室助手として採用され、法人化に伴い、Y大学の職員となり、平成19年1月に医学部人体病理学教授に就任した者である。また、Xは26年4月から28年12月までの間、Y大学の医学部長、教育研究評議会評議員、学長選考会議委員および副議長を兼任していた。
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<本件懲戒行為1・2、本件懲戒処分に至った経緯等について>
▼ Y大学は平成28年12月、学長選考会議(以下「12月選考会議」という)を開催したところ、委員による投票の結果、A学長とB教授の得票数が同数となり、同会議の議長はA学長を次期学長候補者と決定した。
▼ 12月選考会議に出席していたXは次期学長候補者に自身の推す者が選考されないことが決定された後、議長が議決権に加えて決裁権を行使したことに抗議し、正当な理由なく無断で会議中に退席した(以下「本件懲戒行為1」という)。
▼ 28年7月に開催された学長選考会議において、学長選考に係る議事については人事に関わる事項であり非公開とする旨の取り決めがなされていたが、Xは12月選考会議の審議状況を無断で録音した上、その内容を記した文書を約80人の医学部の教授らに電子メールで直接送信し、公開した(以下「本件懲戒行為2」という)。
その後、当該文書は歯学部教授らにも送信され、学外の者を含め多数の者に公開されることとなった。
▼ A学長は29年9月、本件懲戒行為1・2はY大学の職員たるに相応しくない行為であり、職責を果たさずに職場を離脱した上、大学運営上非公開とされた重要事項を漏らすなど、大学の名誉および信用を著しく傷つける行為であり、当時医学部長、学長選考会議副議長という立場にあったことに鑑みると、その責任は重大であり、就業規則に規定する懲戒事由に該当するとして、Xに対して戒告処分(以下「本件懲戒処分」という)を行った。
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