#308 「東京都・都教委事件」東京地裁
2012年4月4日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第308号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【東京都・都教委事件・東京地裁判決】(2011年4月18日)
▽ <主な争点>
国歌斉唱時の起立斉唱行為違反による懲戒処分を受けたことを理由とする
採用合格取消し等
1.事件の概要は?
本件は、平成20年3月に東京都の教員職を定年退職したXは、退職前に一旦は東京都公立学校非常勤教職員採用候補者選考に合格したが、その後、東京都教育委員会(以下「都教委」という)は当時のXの勤務先である区立小学校の平成19年度卒業式の際に校長から発せられた「(君が代斉唱時に)国旗に向かって起立し、国歌を斉唱すること」という職務命令に違反したことにより、Xが懲戒処分(戒告)を受けたことを理由に、上記合格を取り消した。そのため、Xは懲戒処分の取消しを請求するとともに、上記合格取消しについて、(1)違憲・違法な懲戒処分を理由にされていることから当然に無効であり、(2)都教委が非常勤教員の採用に関する裁量権を逸脱、濫用したもので無効であるとして、Xが労働契約上の非常勤教員としての地位を有することの確認、20年4月分以降の未払い報酬、国家賠償法に基づく損害賠償等の支払いを求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<Xおよび都教委等について>
★ Xは、昭和46年、東京都に教員として採用され、平成17年4月から20年3月までの間、葛飾区立A小学校(以下「本件小学校」という)の教員であったが、同月31日付で定年退職した。
★ 東京都は、地方自治法180条の5第1項1号、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という)2条に基づき、都教委を設置する地方公共団体である。
★ 都教委は、地教行法23条に基づき、学校その他の教育機関の設置管理や、職員の任免等の事務を管理、執行する権限を有する行政庁である。
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<本件懲戒処分、本件合格取消しに至った経緯等について>
▼ Xは平成19年12月、都教委に対し、東京都公立学校非常勤教員採用候補者選考の申込みをし、20年2月、都教委から同選考に合格した旨の通知を受けた。
▼ Xは同年3月12日、都教委から非常勤教員として勤務先を葛飾区立B小学校とする旨の内示を受けた後、同月19日にはB小学校の校長に対し、同小学校での勤務を了承する旨の返事をした。
▼ 同月24日、Xは本件小学校の校長から文書により翌25日の卒業式(以下「本件卒業式」という)で会場の指定された席で国旗に向かって起立し国歌を斉唱すること等を命じる職務命令(以下「本件職務命令」という)を受けた。しかしながら、Xは本件卒業式の国歌斉唱の際、起立しなかった(以下「本件不起立行為」という)。
★ Xは昭和60年以来、教員として参加した入学式および卒業式での国歌斉唱時に起立しないことを続けており、本件小学校に着任してから定年退職するまでの間、同小学校の入学式および卒業式においても、同様の不起立行為を継続していたが、本件職務命令が発せられるまで、当該不起立行為について校長等から指導や処分を受けたことはなかった。
▼ 都教委は同月28日、本件不起立行為につき、地方公務員法29条(懲戒)1項1号、2号および3号に該当するとして、Xに対し、戒告処分(以下「本件懲戒処分」という)をし、処分説明書により、本件不起立行為は同法32条(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)、33条(信用失墜行為の禁止)に違反すると説明した。
▼ Xは都教委から書面により、同日付で非常勤教員に係る上記合格決定を取り消す旨の通知(以下「本件合格取消し」という)を受けた。同通知書には本件合格取消しの理由として、本件懲戒処分の発令があったことにより、Xが非常勤教員としての適性を欠くと判断した旨が記載されている。
▼ Xは同年5月、本件懲戒処分を不服として、東京都人事委員会に対し、本件懲戒処分の取消しを求めて審査請求をしたが、請求日から3ヵ月を経過しても裁決がなかったことから、21年11月、訴訟を提起した。
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<本件都教委通達、これに関連する指導、働きかけ等について>
★ 小学校学習指導要領においては、「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」と規定されている。
★ 都教委教育長は平成15年10月、「入学式、卒業式等における国旗掲揚および国歌斉唱の実施について(通達)」(以下「本件都教委通達」という)を発しているが、本件都教委通達には「国旗掲揚および国歌斉唱の実施に当たり、教職員が本件都教委通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は、服務上の責任を問われることを教職員に周知すること」などと記載されていた。
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