#347 「国立大学法人 Y大学事件」東京地裁
2013年10月30日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第347号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【国立大学法人 Y大学事件・東京地裁判決】(2012年7月4日)
▽ <主な争点>
セクハラ行為を理由とする諭旨解雇処分など
1.事件の概要は?
Y大学の助手および助教授ないし准教授であったXが、甲研究所(東京都内所在)で研究していた学生A(大学院修士課程所属)と平成19年10月に飲食した際、身体に触れるなどした上、Aの自宅において強引に性交渉に及び、また、乙センター(岩手県内所在)において、Xが実質上の指導教員として指導していた学生B(大学院博士課程所属)に対し、18年6月または7月頃、複数回身体的接触を行ったり、性的内容を含むメールを送信したりしたことが、Y大学の「セクハラ防止綱領」に定めるセクハラ行為に該当するとして、同大学はXに対し、22年3月、懲戒処分として諭旨解雇処分(本件懲戒処分)にした。
本件は、Xが本件懲戒処分は無効であると主張し、労働契約上の地位を確認するとともに、未払給与等の支払いを求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<Y大学、X、AおよびBについて>
★ Y大学は、国立大学法人である。
★ Xは、平成12年7月頃からY大学の甲研究所(東京都内所在。以下「甲研」という)に所属し、助手および助教授ないし准教授として、普段は乙センター(岩手県内所在)で研究をしていたところ、平成19年当時、月に一度くらいの割合で甲研を出張で訪問していた。
★ Aは、19年10月当時、Y大学の大学院農学生命科学研究科修士課程に所属し、普段は甲研で研究をしている学生であり、甲研近くのアパートを賃借して1人で居住していた者である。Aは当時甲研C教授の研究室に所属し、Xとは同研究室の先輩後輩の関係にあった。
★ Bは、平成18年から19年当時、Y大学の大学院農学生命科学研究科博士課程に所属する学生であり、Xが普段研究を行っている乙センターで研究活動を行っていた者である。XはBの正式な指導教員ではないものの、Bの博士論文を添削するなど、日頃から指導していた。
--------------------------------------------------------------------------
<Y大学の就業規則等の定めについて>
★ Y大学の教職員就業規則(以下「本件就業規則」という)32条は、「教職員は、セクハラ防止綱領に則り、人権侵害および性差別としてのセクシュアル・ハラスメントをいかなる形でも行ってはならず、これの防止に努めなければならない」旨を規定している。
★ 本件就業規則38条は、「教職員が次の各号の一に該当する場合には、懲戒に処する。(1)~(4)略、(5)大学法人の名誉または信用を著しく傷つけた場合、(6)素行不良で大学法人の秩序または風紀を乱した場合、(7)(8)略」と規定している。
★ 本件就業規則39条は、「懲戒は、戒告、減給、出勤停止、停職、諭旨解雇または懲戒解雇の区分によるものとする。(1)~(4)略、(5)諭旨解雇…退職願の提出を勧告し、これに応じない場合には、30日前に予告して、もしくは30日以上の平均賃金を支払って解雇し、または予告期間を設けないで即時に解雇する、(6)略」と規定している。
★ セクハラ防止綱領では、セクハラ行為について「他の者を不快にさせる性的言動」と定義し、その態様としては身体的接触、視線、性的内容の発言など、様々なものが含まれる。また、「性的な言動」には、性的な関心や欲求に基づく言動のほか、性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動等も含まれる。「性的な言動」に対し、相手が「不快」と感じれば、基本的にそれはすべてセクシュアル・ハラスメントであるとし、セクハラ行為を防止するために、ハラスメント防止委員会(以下「防止委員会」という)やハラスメント相談所を設置することとしている。
--------------------------------------------------------------------------
<A事案、B事案および本件懲戒処分に至った経緯等について>
[A事案について]
▼ Xは平成19年10月16日、飲食中にAの身体に触れる(A事案事実1)などした上、執拗にAの自宅への宿泊を求め、強引にAと性交渉に及んだ(A事案事実2)。
▼ Aは同年11月、防止委員会に対し、救済措置を申し立てた後、Y大学保健センターにおいて治療を受け始め、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。
▼ 同月、防止委員会はAに関する事案について調査委員会を設置し、同委員会は調査の結果、A事案において、セクハラ防止綱領で禁止するセクハラ行為があったと認定し、20年10月、措置案として、停職2ヵ月の処分を提案した。
[B事案について]
▼ Xは18年6月または7月頃、Bに対し、複数回身体的接触を行ったほか(B事案事実1)、性的内容を含むメールの送信を執拗に行った(B事案事実2)。
▼ Bは20年1月、防止委員会に対し、救済措置を申し立てた。同月、防止委員会はBに関する事案について調査委員会を設置し、同委員会は調査の結果、B事案において、セクハラ防止綱領で禁止するセクハラ行為があったと認定し、同年6月、措置案として停職2ヵ月の処分を提案した。
▼ 同年9月、Y大学総長がA事案およびB事案について、教員懲戒委員会に対し、事実の調査および審査を付議したのを受け、調査委員会が設置された。同委員会は審議した結果、Xに対し、諭旨解雇の懲戒処分を行うことを相当とするとの結論に至った。
▼ 懲戒委員会は22年3月、Xに対し、A事案、B事案ともにセクハラ行為に該当すると判断し、諭旨解雇処分(本件就業規則39条5号)を発令したと口頭で伝達するとともに、懲戒処分書(以下「本件懲戒処分書」という)を手渡した。
★ 本件懲戒処分書には、Y大学が本件就業規則38条5号および6号により、Xを懲戒処分として諭旨解雇する旨の記載がある。
▼ Xは退職願の提出には応じないと回答し、Y大学は解雇予告手当として53万6771円、退職手当として116万8020円を支給する旨通知した。
3.教員Xの言い分は?
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?