#352 「社会福祉法人 甲会事件」東京地裁(再掲)
2014年1月8日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第352号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【社会福祉法人 甲会事件・東京地裁判決】(2012年10月9日)
▽ <主な争点>
有効な戒告処分を受けた者の再雇用拒否など
1.事件の概要は?
本件は、甲会(児童養護施設および知的障害者施設を運営している社会福祉法人)との間で期限の定めのない雇用契約を締結していたXが同会から定年後の再雇用を拒否されたことは権利の濫用として無効である旨主張して、甲会に対し、雇用契約に基づく地位確認および賃金(月額39万4240円)の支払いを求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<甲会およびXについて>
★ 甲会は、援護または更生の措置を要する者に対して援助することを目的とする社会福祉法人であり、児童養護施設甲会乙本院(以下「乙本院」という)および知的障害児施設丙学園を運営している。
★ X(昭和26年生)は、昭和50年7月、甲会との間で期限の定めのない雇用契約を締結し、児童指導員として乙本院で勤務していた者であり、定年まで乙本院の施設長補佐および事務長を務めていた。
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<甲会の再雇用制度等について>
★ 甲会には高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年法」という)9条(高年齢者雇用確保措置)2項に基づく定年後の再雇用制度(以下「本件再雇用制度」という)に関する労使協定が存するところ、同協定では、以下の基準(以下「本件再雇用基準」という)を満たす者が本件再雇用制度の対象となるとしている。
(1)引き続き勤務することを希望していること
(2)無断欠勤が1日もないこと
(3)懲戒処分該当者ではないこと
(4)直近の健康診断の結果、業務の遂行に問題がないこと
(5)定年退職日の前1年以内に傷病により2週間連続して不就労の状態(公休日、年次休暇取得日を含む)となったことがないこと
(6)定年退職日の前3年間で能力考課の5段階評価においてC評価が1回もないこと
(7)中途採用者についてはその都度別途協議する。
ただし、本件再雇用基準を満たさない場合であっても、甲会が業務上必要と認めた者については、本件再雇用制度の対象となる(以下「ただし書規定」という)
★ 甲会は職員が定年退職する日の6ヵ月前に本件再雇用基準を満たすか否かの判断を行い、基準該当者に対し、必要な労働条件を記載した嘱託再雇用契約書を交付する。基準該当者はこれに同意して嘱託再雇用契約を希望する場合には当該契約書に記名押印して、期限までに提出することとされている。
★ 甲会においてはXの定年退職日以前に本件再雇用制度に基づいて再雇用契約を締結した者が4人いるが、いずれも基準該当者であり、ただし書規定に基づく再雇用者はいない。
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<本件戒告処分等について>
▼ Xは平成22年8月17日、在園児M(当時5歳6ヵ月)を指導する際、テーブルの下にもぐり込んで泣き叫んでいた同児の片手片足を持ってつり下げ、そのまま食卓のあるホールから部屋まで運んで行った。
▼ 甲会はXの上記対応が就業規則20条1項2号(施設利用者に対しては、常に懇切丁寧を旨とし、その言語態度には慎重かつ細心の注意を払わなければならない)に反するものと判断し、同月26日、Xに対し、就業規則53条(戒告、減給、昇給停止、出勤停止)および52条(懲戒の種類)に基づく戒告処分をなした(以下「本件戒告処分」という)。翌27日、同会はXに対し、本件戒告処分を告知するとともに本件再雇用基準を満たしていないとして、定年後の再雇用を行わない旨通知した。
▼ Xは23年2月、満60歳を迎え、甲会を定年退職した。なお、Xは本件再雇用基準(3)を除き、本件再雇用基準を満たしている。
3.元職員Xの言い分は?
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