#47 「東京海上火災保険・海上ビル診療所事件」東京地裁
2004年7月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第47号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【東京海上火災保険(以下、T社)・海上ビル診療所事件・東京地裁判決】(1995年11月30日)
▽ <主な争点>
定期健康診断と会社の安全配慮義務
1.事件の概要は?
本件は、Iが勤務していたT社の定期健康診断を受けた際、胸部レントゲン写真の異常陰影が見過ごされ、診療時の訴えも取り合ってもらえず、肺ガンに対する処置が手遅れとなり死亡したとして、Iの遺族であるXらが担当医ならびに同社および診療所に対し、約1億円の損害賠償を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<XおよびY、K診療所等について>
★ XはIの姉であり、YはIの兄である。
★ T社はかねてより本社ビル本館内に本店診療所を設け、嘱託医師等を常駐させて社員の診療等を実施してきた。Aは内科・呼吸器科を専門とする医師であり、昭和60年および61年には同社の嘱託医として本店診療所において診療に従事していた。
★ T社の「海上ビル診療所(以下、K診療所)」は診療所を経営することを目的とする医療法人財団で、昭和62年からT社の本社ビル新館内で診療を行っていた。BおよびCはいずれも内科を専門とする医師であり、62年にはK診療所の勤務医として診療に従事していた。
★ T社では、毎年全社員の定期健康診断(以下「定期健診」)を実施していたが、62年度からはK診療所に委嘱するようになった。
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<Iが死亡するまでの経緯等について>
▼ Iは昭和51年4月にT社に入社して以来、毎年同社が実施する定期健診を受診してきた。
▼ 60年と61年の9月、Iは本社診療所にて定期健診を受診したが、A医師はその際に撮影されたIの胸部レントゲン写真を読影して、「異常なし」と診断した。
▼ 62年6月、IはK診療所において定期健診を受診した際に胸痛および息苦しさを訴えた。B医師はその際に撮影されたIの胸部レントゲン写真を読影した。
▼ K診療所は、T社を経由して、Iに対し、上記定期健診の結果を報告書によって通知したが、その報告書には糖尿病精査のための糖負荷検査受診の指示等について記載されていたが、B医師は胸部精密検査を行う必要性は認めなかった。同年7月、Iは海上ビル診療所にて糖負荷検査を受けた。
▼ 上記検査の際、IはB医師に対し、「6月中旬頃から咳および痰が出て、痰の一部に血の混じることがあった」と話し、同医師はIの胸部レントゲン撮影を行い、その写真を読影したが、Iに対して精密検査を指示しなかった。
▼ Iが上記糖負荷検査の結果を聞くためにK診療所へ行ったところ、C医師から糖尿病の診断を受けた。その際、Iは「湿性咳の症状があり、時折発作的に咳き込むことがある」と訴えたが、同医師は、B医師によるカルテの記載内容等からIが気管支炎ではないかと考えた。
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