#506 「シロノクリニック事件」東京地裁(再々掲)
2020年2月19日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第506号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【シロノクリニック(以下、Sクリニック)事件・東京地裁判決】(2019年3月8日)
▽ <主な争点>
研修費用の返還、勤務地等に関する信義則上の説明義務違反など
1.事件の概要は?
本件は、Xが美容皮膚科(Sクリニック)を経営するSと雇用契約を締結するに当たり、Sの指示に従いXの負担でアートメイク研修を受講して修了したにもかかわらず、Sに就労を拒否されたなどと主張して、同研修の受講費用・日当、同研修修了後の給与等につき、支払を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<SおよびXについて>
★ Sは、美容皮膚科であるSクリニックの総院長である。SクリニックにはSが個人事業として運営する恵比寿本院と、Sが理事長を務める医療法人社団が運営する横浜院、池袋院などの各院がある。
★ Xは、看護師の免許を有する女性であり、平成27年10月、Sと雇用契約確認書(以下「本件確認書」という)を取り交わした者である。夫との間に26年5月生まれの子がおり、28年5月、東京都渋谷区恵比寿に転居した。
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<本件確認書、付随条件確認書の内容等について>
★ 本件確認書には、以下のような内容などが記載されていた。
・所属:恵比寿本院
・契約期間:27年10月11日~28年10月10日
・就業時間:10時10分~15時10分(5時間)
・出勤日:週2日勤務、給与:時給1800円
・業務内容:アートメイクを含む看護師業務全般
・勤務地:会社が指定した場所(恵比寿本院)
※会社が必要と判断する場合には、会社の他の部署への配置転換もしくは他社へ出向を命じることがある。
★ Xは「雇用契約に付随する条件について」と題する書面(以下「付随条件確認書」という)の内容を確認し、署名押印してSに提出した。付随条件確認書には「勤務の開始はアートメイクスクールの受講修了後とする。同スクールの受講料は特別価格とし、支払は受講者本人がスクールに直接振り込むことで支払う。特別価格での受講の前提として、3年間の勤務とし、その間、アートメイク施術を止めるまたは退職しない。上記の違反時は勤務時間に応じて、特別価格との差額を精算する」などの内容の記載があった。
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<本件研修、XがSクリニックにおける勤務断念に至った経緯等について>
▼ Xは27年11月8日からアートメイクスクールで研修(以下「本件研修」という)の受講を開始し、28年8月1日に修了した。なお、Xは本件研修を受講するに当たり、受講料64万8000円(以下「本件研修費」という)を同スクールに支払った。
▼ 28年8月5日、XはSクリニックの人事担当者等と面談を行い、恵比寿本院におけるアートメイクの予約が少ないため、状況が変わるまで横浜院または池袋院に勤務することを勧められた。
▼ 同月、人事担当者等はXに対し、(1)恵比寿本院で勤務し、アートメイクの施術がないときには通常の看護業務を行うこと、または(2)アートメイクを施術する機会が多い池袋院で勤務することの2つの選択肢を示した。
▼ その後、Xは人事担当者等から恵比寿本院で勤務し、通常の看護業務を行うなら、時短勤務を認めることはできないと伝えられた。時短勤務が認められないと子どもを保育園に迎えに行く時間に間に合わないので、池袋院に勤務するか、Sクリニックでの勤務を断念するかについて、検討しなければならなくなった。
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