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#20 「つばさ証券事件」東京高裁(再掲)

2004年1月7日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第20号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【つばさ証券(以下、T社)事件・東京高裁判決】(2002年5月23日)

▽ <主な争点>
注意義務違反を理由とする会社から労働者に対する損害賠償、顧客への助言義務違反など

1.事件の概要は?

本件は、宗教法人A寺およびB寺との間でワラント*取引を行ったT社が、同社の職員として当該取引を担当していたXに対し、Xが取引に当たり両寺へ行った勧誘に説明義務違反等があり、XがT社に対して負う雇用契約上の注意義務に違反した重過失があるとして、同社が両寺に対して支払った損害賠償金相当額、約1800万円の損害賠償を求めた裁判の第二審である。

第一審(東京地裁・2001年7月10日判決)は、Xには両寺に対し助言義務違反があり、これがT社に対する注意義務違反に当たり、同注意義務違反には重過失があったとして、同助言義務違反によって両寺が被った損害につき8割の過失相殺を行った金額に相当する約260万円を限度にT社の請求を認めた。なお、取引開始時におけるXの説明義務違反については重過失とは言えないとされた。

*ワラント・・・新株を一定価格で買い取る引き受け権利がついた債券。価格が株価変動率を超えて上下する特徴があり、新株引受の権利行使期間満了前に価格が下落し、期間経過後は無価値になることからいわゆる「ハイリスク・ハイリターン」の商品とされている。

2.前提事実および事件の経過は?

<X、T社の職員の雇用形態等について>

★ Xは、昭和62年当時T社の職員として17年の勤続経験を有し、毎年3500万円以上の歩合給を得て、支店の職員中一番の成績を収め、班長も務めていた者である。

★ T社の職員は、証券外務員として同社が取り扱う有価証券の募集および売買に専従することとされており、給与は売上高に応じた歩合給が中心で所得税法上は事業所得として扱われる。

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<A寺およびB寺とのワラント取引等について>

★ XはT社から当時新商品だったワラントを販売するよう指示されたため、ワラントについて自らある程度学習し、ワラント取引の主要なリスクは認識していた。

▼ 昭和62年7月、XはA寺に対し、利回りの良い商品としてワラントの取引を勧めたところ、同寺はそれに同意し、ワラント取引を始めるようになった。その際、Xはワラント取引のリスクの詳細についてまでは説明せず、A寺からもリスク等に関しての説明を求められなかった。

▼ その後、A寺はT社から頻繁に郵送されるようになった取引報告書の見方をXに尋ねたところ、Xは「報告書は事後報告にすぎないから、見たら処分してもよい」と答え、同寺は報告書を開封もせずに処分していた。

▼ 平成3年7月、XはA寺を訪問し、ワラント取引による収益が株式相場の暴落によってなくなってしまったこと等を伝えた。

▼ T社は平成3年から5年にかけて、A寺に対し、ワラントの権利行使期間の満了時期が近づいている旨を警告する通知を数回郵送したが、同寺はこの通知を見ていなかった。

▼ B寺もXからワラントを勧められ、昭和63年に取引を開始した。その際、Xはワラント取引のリスクの詳細についてまでは説明せず、同寺もXにリスク等に関しての説明を求めなかった。

★ B寺もA寺同様、T社から郵送されてくる取引報告書や通知を見ていなかった。

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<両寺からT社に対する賠償請求訴訟に至った経緯等について>

▼ 5年1月、A寺はT社から送付された書面を読み、本件ワラント取引によって多額の損失を被っていることを初めて認識した。

▼ 同年2月と4月、XはA寺およびB寺と面接し、ワラント価格の下落が予想外であったこと、ワラント取引のリスクについて説明が不足していたこと等を述べた。

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