#527 「狩野ジャパン事件」長崎地裁大村支部(再々掲)
2020年12月23日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第527号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【狩野ジャパン(以下、K社)事件・長崎地裁大村支部判決】(2019年9月26日)
▽ <主な争点>
具体的疾患の発症には至らなかったが、長時間労働に従事させたことを理由とする慰謝料請求など
1.事件の概要は?
本件は、K社との間で労働契約を締結していたXが同社に対し、(1)平成27年6月1日から29年6月30日までの労働につき、時間外・休日および深夜の割増賃金ならびに所定労働時間を超えた法定労働時間内の労働(所定休日労働を含む)に対する賃金に未払があると主張して、同契約に基づき、これらの未払賃金の支払を求めるとともに、(2)労働基準法114条に基づき、付加金の支払を求め、また、(3)K社により苛酷な長時間労働を長期間恒常的にさせられるなどして、精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、慰謝料等の損害金の支払を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<K社およびXについて>
★ K社は、麺類の製造および販売等を目的とする会社である。
★ Xは、平成24年5月末ないし6月、K社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、29年6月30日に退職した者である。就業場所は工場であり、27年6月1日から約2年間、ミキサーに小麦粉を投入するなどの作業に従事していた。
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<Xの所定労働時間、職務手当、K社における36協定の締結等について>
★ Xの就業時間は午前9時から午後5時まで(休憩時間80分)で、1日の所定労働時間は6時間40分であった。
★ Xに支払われた賃金のうち職務手当(月額3万円)について、賃金規程には「職務手当は、固定残業の一部として支給するものとする」との規定があり、労働条件通知書には「職務手当のうち一部を残業代として支給する」との記載があった。
★ K社は27年6月1日から29年1月31日までの期間について、事業場の過半数代表との間で36協定を締結していなかった。
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<Xに関する労働条件通知書、退職までの経緯、時間外労働時間数等について>
▼ Xは25年11月、K社の常務取締役Aから、賃金や手当等の記載を含む労働条件通知書の案文、および会社側からの就業規則等に関する説明を理解した旨を記載している「K社就業に関して」と題する書面の案文(以下、両文書を合わせて「本件書面」という)を示され、その場で署名押印をするよう求められた。
▼ Xはその場で本件書面に署名押印した上、Aに差し入れた。AはXに対し、これらの写しを交付しなかった。
▼ XはK社から27年5月に約1ヵ月で寮から退去するよう求められ、同社に反感を持ったこと、株式会社電通の新入女性社員が過労自殺をしたことが28年10月に大きく報道され、X自身の労働環境にも不安を感じたことから、同年11月、退職することを決意した。
▼ Xは29年1月、K社に対し、36協定と賃金規程を閲覧したい旨を申し入れたが、同社は同協定等については社会保険労務士が持って行っている旨、Xが質問したことを書面に記載すれば同社労士に送信する旨を答えた。
▼ Xは同年2月、Aに対し、36協定と賃金規程の写しを閲覧したい旨を申し入れたが、Aは社労士が原本を持って行っている旨を答えた。また、AはXに対し、職務手当について、一日2時間分の時間外労働に対する固定残業代であるという趣旨の発言をした。
▼ Xは同年6月、診療所を受診し、肺の機能の一部が悪くなっているものの、じん肺ではない旨、K社における作業が原因であるとも断定できない旨の診断を受けた。
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