#382 「東京都教育委員会(都教委)事件」東京地裁
2015年3月18日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第382号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【東京都教育委員会(都教委)事件・東京地裁判決】(2014年3月17日)
▽ <主な争点>
パソコンのセキュリティを破ろうとしたことを理由とする懲戒減給処分など
1.事件の概要は?
本件は、東京都教育委員会(都教委)が東京都江戸川区公立学校事務職員であったXに対し、平成22年3月29日付で地方公務員法29条(懲戒)1項1号ないし3号により「6月間給料の10分の1を減ずる」との処分(本件懲戒減給処分)をしたところ、Xが本件懲戒減給処分の取消しを求めたもの。
処分の理由は「(1)21年11月11日午後2時頃、江戸川区甲中学校事務室において、同区教育委員会から貸与されている学校LAN用ノート型パソコン(PC)のセキュリティを破ることを目的に、同PCからハードディスクを取り外し、自己の変換プラグを使用して、目的外使用が禁止されていることを知っていたにもかかわらず、教育委員会から貸与された私費会計事務用ノート型PCに同ハードディスク内のデータの一部を転送した。(2)同日午後4時40分頃、江戸川区内小中学校の全事務職員157名に対して、学校LAN用ノート型PCからデータを取り出せることについて教唆する不適切な内容の電子メールを送信した。このことは地方公務員法32条(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)に違反するとともに、全体の奉仕者たるにふさわしくない行為であって、地方公務員としての職の信用を傷つけ、職全体の不
名誉となるものであり、同法33条(信用失墜行為の禁止)に違反する。」というものであった。
2.前提事実および事件の経過は?
<Xについて>
★ X(昭和36年生)は、昭和57年4月、東京都職員に採用され、平成18年4月から東京都江戸川区立甲中学校において主事(東京都江戸川区公立学校事務職員)の業務に従事していた者である。
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<江戸川区の「全庁LAN」と「学校LAN」について>
★ 東京都江戸川区では、いわゆるLANとして「江戸川区全庁情報システムネットワーク」(以下「全庁LAN」という)と「江戸川区学校教育情報ネットワーク」(以下「学校LAN」という)の2つを構築していた。
★「全庁LAN」は、江戸川区の行財政全般が掌握され、ネットワーク内の職員に対し、行政情報、書式等が公開されている。同区では上司から部下に対し、全庁LANを通じて、メールで指示が出され、かかる指示に対して全庁LANで得られる書式で返事を返す等、日常的に全庁LANが業務遂行の道具として使用されている。
★「学校LAN」は、江戸川区において、校務用に利用するネットワークとして、教育委員会、区立小中学校、区立幼稚園を接続するものであり、各学校内での連絡調整機能、校務機能、児童生徒機能、保健機能等の機能を果たしている。学校LANには保護すべき個人情報の蓄積および使用を含んでいることから、学校LAN用ノート型PCには、「黒PUPPY」という専門のUSBメモリを使用しないと、データを取り出すことができないよう、高度なセキュリティ対策が施されている。
★ 「黒PUPPY」はセキュリティ管理者である各校の校長が管理しており、それを利用するには校長の許可が必要である。Xは学校LANのシステム導入時から、その閉鎖的なセキュリティの方法に不満を抱いていた。
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<本件データ転送行為、本件メール送信行為等について>
▼ Xは21年11月11日、甲中学校事務室において、黒PUPPYを使用せずに学校LAN用PCからハードディスクを取り外し、同ディスク内のデータの一部を私費会計事務用ノート型PCに転送した(以下「本件データ転送行為」という)。
▼ Xは同日、江戸川区内小中学校の全事務職員157名に対して、件名を「校務支援システムパソコンについて」とし、本文に次のとおり記載した電子メールを、全庁LAN用ノート型PCを使用して送信した(以下「本件メール送信行為」という)。
「校務支援システムとはなんと皮肉なネーミングではありませんか!ひとつ情報があります。上記LANシステム内のデータの取り出しに成功しました。なに、PC98の頃からパソコンを扱っていれば、ごく当たり前に行っている操作です。すでに黒パピーが当てられている現状ではあまり必要性はありませんが、例えば1GBを超えるファイルを取り出さなければならない、あるいはおおっぴらに出来ないファイルを、管理者に報告する必要がある黒パピーを使わずに、こっそりと取り出したいときなどには有用だと思います。必要になりましたら、校務支援システムLANのメール機能を使って、Xまで“こっそりと”お送りください。取り出したファイルを全庁LANに乗っけてお返しします。」
▼ Xは同月19日、本件データ転送行為により私費会計事務用PC内に転送した電子データを開こうとしたが、暗号化されていたため、それを読み取ることができなかった。
▼ 江戸川区教育委員会は都教委委員長に対し、22年1月、服務事故報告書を提出し、同月、地方教育行政の組織及び運営に関する法律38条(市町村委員会の内申)に基づき、Xの処分について内申を行った。
▼ 都教委は同年3月29日、Xに対し、地方公務員法29条(懲戒)1項1号ないし3号により「6月間給料の10分の1を減ずる」との処分(以下「本件懲戒減給処分」という)をした。
▼ Xは本件懲戒減給処分を不服として、同年5月、東京都人事委員会に対し、審査請求を行ったが、同委員会は24年7月、これを棄却する旨の裁決を行った。その後、25年1月、Xは本件訴訟を提起した。
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<地方公務員法等の懲戒処分の定めについて>
★ 地方公務員法29条1項は、一般職に属する地方公務員に対する懲戒処分として、戒告、減給、停職、免職の4種類の処分を定めているところ、都教委は教職員による非行が増加する状況を踏まえ、教職員の更なる自覚を促し、服務規律の徹底を図るため、「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」を定めている。
★ 都教委は上記処分量定の中で非行の種類「職場のコンピュータ不正利用」として、「職務外の目的で、わいせつ画像・文書の閲覧、インターネットへの不正アクセス、電子データの損壊等をした場合」のみを具体的な行為として掲げ、停職、減給、戒告の3種類をその処分の量定として掲げている。
3.職員Xの主な言い分は?
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