#68 「今川学園木の実幼稚園事件」大阪地裁堺支部(再掲)
2004年12月22日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第68号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 参考条文
★ 男女雇用機会均等法(以下「均等法」という)
第8条(定年、退職及び解雇)
事業主は、労働者の定年及び解雇について、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
3 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、出産し、又は労働基準法第65条第1項若しくは第2項の規定による休業をしたことを理由として、解雇してはならない。
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■ 【今川学園木の実幼稚園(以下、I学園K幼稚園)事件・大阪地裁堺支部判決】(2002年3月13日)
▽ <主な争点>
未入籍状態で妊娠したことによる退職勧告など
1.事件の概要は?
本件は、I学園が経営するK幼稚園に勤務していたXが、I学園との間で労働契約の合意解約はなく、また同学園によるXの解雇も無効であるとして、Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および同労働契約に基づく未払賃金の支払いを求めるとともに、K幼稚園のI園長から中絶を迫られたり、退職を強要されたりしたこと等を理由に同園長および同学園に対し、それぞれ損害賠償を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<Xについて>
▼ Xは平成8年4月、I学園にK幼稚園の教諭として雇用され、11年3月に一旦退職した後、同年7月にアルバイト教諭として再雇用され、同年8月から再び正規職員となり、12年4月からは4歳児クラスの担任であった。
▼ Xは11年11月頃、内縁の夫と同居を開始したが、K幼稚園に対して、住所地の変更申請をせず、通勤手当についても実家のある従前の届出住所地からを基に算定された金額を受給していた。
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<I学園がXに対し、解雇の意思表示をするまでの経緯等について>
※ 以下、特に記載がないかぎり、日付は平成12年のもの。
▼ Xは6月下旬、妊娠していることが判明し、7月2日にA産婦人科を受診したところ、「切迫流産」等の診断を受けて即時入院した。そして、Xは同月6日、I園長に対し、妊娠していることおよび入院の必要があることを伝えた。
▼ I園長はXが妊娠したことを知って非常に驚き、軽率であったのではないかと非難し、また、胎児がまだ小さな豆粒くらいの大きさである旨述べるとともにXは若いのであるから、出産や妊娠についてはこれからも機会があるのではないかと述べるなどして中絶するよう暗に迫ったため、Xは大きなショックを受けた。
▼ 同月10日にA産婦人科を退院したXは同月26日にK幼稚園において、I園長と面会した。同園長は職務を全うできない状態を全くの私事で作ってしまったとして、Xを非難し、休業中の代替教員をすぐに採用することは難しい旨述べ、仕事を途中で放棄する責任をとるためには退職するしかないとして、Xに退職を勧めたが、Xから特段の反論等はなかった。
▼ Xは8月19日からK幼稚園に出勤したが、同月23日頃、A産婦人科を受診し、入院するように指示されたため、再び入院した。そして、同月31日、K幼稚園に対し、I園長宛の手紙に添えて、父母宛の手紙および診断書を提出した。
▼ I園長は9月4日、Xに対して、後任の教諭が見つかった旨を連絡し、同月19日にはA産婦人科に入院中のXに電話をかけ、同月20日付で退職の扱いとしてほしい旨を述べるともに退職届の提出を求めた。Xは翌20日、B病院に転院したが、同月23日、流産した。
▼ I園長は10月4日、Xの母であるYに電話をかけ、Xの退職手続が未了であるので、退職届を提出するよう求めた。YはI園長に対し、Xを職場復帰させてほしい旨頼んだが、同園長から断られた。
▼ 10月11日、Xは地域の労働組合(以下「組合」という)に加入し、組合を通じて、労働組合加入通知書、退職強要を止めて職場に復帰させるよう求める要求書および団体交渉申入書をI園長に対して送付した。そして、Xおよび組合の代表者らとI園長との間で団体交渉がなされたが、合意には至らなかった。
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