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#570 「甲大学事件」札幌地裁

2022年9月7日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第570号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【甲大学事件・札幌地裁判決】(2021年8月19日)

▽ <主な争点>
ハラスメント防止委員会による口頭厳重注意等の決定の不法行為該当性など

1.事件の概要は?

本件は、大学教授であったXが、勤務していた甲大学のハラスメント防止委員会による決定により名誉感情を侵害されたとして、同決定の取消しならびに不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料160万円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<X、AらおよびYについて>

★ Xは、甲大学に雇用され、同大学の教授であった者であり、外国語(中国語)を担当していた。

★ Aら6名は、いずれも2019年当時、甲大学が設置するハラスメント防止委員会(以下「本件委員会」という)の委員であった者であり、Aはその委員長の職にあった。

★ Yは、甲大学に雇用され、Xとは別の学部学科の教授であった者であり、外国語(中国語)を担当していた。Yは中国出身であり、過去に日本に帰化している。


<Xによる本件発言、本件決定に至った経緯等について>

▼ 2019年9月19日、甲大学の初修外国語の担当教員による会議(以下「本件会議」という)が開催されたところ、Xは同会議において、中国出身で日本に帰化したY教授に対し、「私は先輩ですよ」「あなたは何人ですか。中国人でしょ」「Yは日本の文化を知らない」等と発言した(以下「本件発言」という)。

▼ 同月30日、Yが甲大学のハラスメント相談員にXによる本件発言等の言動について、Xを加害者とするハラスメントの相談をした。

▼ 2020年1月、本件委員会は別紙の決定(以下「本件決定」という)が行い、その内容を甲大学学長に報告するとともに、Xに通知した。

★ 本件決定の要旨は、本件会議におけるXのYに対する「あなた何人ですか。中国人でしょ」等の発言が、人権侵害のハラスメントであると判断し、2012年の同様の案件の措置後の2度目の申立てであり、Xに本件発言がハラスメントに当たるとの認識がないことから、再発防止とハラスメント根絶のため、「Xに対して、学長より限りなく懲戒に近い口頭による厳重注意をするとともに、宣誓書を提出することを命じる」旨の措置をすることが適当であることを学長に報告したというものである。

▼ Xは同月、本件委員会に対し、本件決定について、不服を申し立てたが、同委員会はこれを不受理とした。

▼ Xは2021年3月31日付で退職したが、在職中、本件決定に関する事項につき、Xに対する懲戒処分または本件決定記載の学長による厳重注意は行われていない。


<就業規則の懲戒処分の定めについて>

★ 甲大学を運営する学校法人の就業規則には、教職員の懲戒処分の種類として、(1)戒告、(2)減給、(3)謹慎、(4)懲戒休職、(5)懲戒降職・懲戒降格、(6)諭旨解雇、(7)懲戒解雇とする旨の定めがあり、このうち戒告は「始末書を提出させ、将来を戒める」ものとして規定されている。

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