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#530 「一心屋事件」東京地裁

2021年2月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第530号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【一心屋(以下、I社)事件・東京地裁判決】(2018年7月27日)

▽ <主な争点>
休職から復職する際における使用者からの賃金減額の提示など

1.事件の概要は?

本件は、XがI社に対し、(1)時間外労働に従事したと主張して、雇用契約に基づく賃金支払請求として992万0807円および遅延損害金、労働基準法114条に基づく付加金請求として742万8009円および遅延損害金の支払を求めるとともに、(2)労災による休職後、復職するに当たり、I社が勤務先の変更と賃金の減額を打診したことは、同社の責めに帰すべき事由による労務遂行の不能(民法536条2項)に該当すると主張し、主位的に雇用契約に基づく賃金支払請求として、予備的に不法行為に基づく損害賠償請求として、上記打診後の賃金ないし賃金相当額および遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<I社およびXについて>

★ I社は、弁当の宅配等を営む会社である。

★ Xは、平成25年9月からI社において、調理部門および業務部門の両部門にて、調理、配送、洗浄等の業務に従事していた者である。

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<I社におけるタイムカードの打刻等について>

▼ I社ではタイムカードにより従業員の出退勤管理を行っており、Xも26年11月3日までは自らタイムカードの打刻を行っていた。

▼ I社は同年11月4日より社員のタイムカードの退社の打刻を従業員のAが行うので、タイムカードの退社の打刻を行わないよう指示する旨の業務連絡をした。

▼ XはAが出社していない日や打刻を忘れた日以外は自分で退勤時刻の打刻をすることができなくなり、妻に仕事が終わる頃連絡をするのでその時間をメモするよう依頼し、妻はXから帰宅する旨の連絡を受けた時刻を手帳にメモしていた。

★ Xのタイムカードは26年11月5日以降、退勤時刻欄に概ね15時台または16時台の時刻が打刻されている。

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<Xの休職、退職に至った経緯等について>

▼ Xは28年4月24日の就労中、おにぎりを製造する機械に右手薬指を挟み、右環指指尖部損傷の損害を負ったため、同月25日から休職した。

▼ 同年10月3日、Xは復職可能との診断を得てI社に復職の申し入れを行った。これに対してI社は勤務条件の変更をXに提案するとともに、同意書への署名押印を求めたところ、Xはこれを拒否した上で、従前の賃金での復職を求め、同月11日に出勤し、労働条件が不利益に変更されている場合には差額請求を行う意向であること等を伝えた。当日、XはI社に赴いたが、復職に至らなかった。

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