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#235 「野村総合研究所事件」東京地裁

2009年6月10日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第235号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【野村総合研究所(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2008年12月19日)

▽ <主な争点>
休職に関する規定の変更が不利益変更に当たるか等

1.事件の概要は?

本件は、N社の従業員(上級専門職員)であるXが、不当な査定により賃金を減額されたと主張して、賃金請求権に基づく賃金差額または不法行為に基づく差額相当の損害賠償(休職後は不法行為に基づく傷病手当金等の差額相当の損害賠償)の支払いを求めるとともに、就業規則の休職に関する規定の改正が不利益変更であると主張して、改正前の規定の適用を受ける地位にあることの確認等をN社に対し、求めたもの。なお、本件においては、賃金の減額ないし引下げを「降給」ということとする。

2.前提事実および事件の経過は?

<Xの入社後の経歴およびN社における従業員の職種について>

★ Xは、平成2年7月1日にN社に入社し、システムエンジニアとして保険システム部(業務システム)、情報技術本部(純技術系)、NRI情報システムへの出向(生産技術部(純技術系))等を経て、13年4月、パートナー推進部(協力会社管理)、同年6月、セキュリティー監理部、同年7月、日本情報処理開発協会への出向、同年12月、出向解除、ITソリューションコンサルティング部(純技術コンサル)、14年1月、シスコン事業本部企画・業務監理室(事務方)、同年4月、システムコンサルティング二部(流通系コンサル)、15年4月、法務部契約課、17年4月、国際業務管理室(現:総務部国際業務管理室)と異動した後、同年7月、傷病(診断名:心因反応(適応障害))による欠勤を始め、18年12月、傷病による欠勤期間が満了したため、19年1月から休職中である(休職期間中は、就業規則50条により無給である)。

★ N社における従業員の職種は、時期によって変遷があるが、平成12年以降は、特別専門職、上級専門職、一種専門職、二種専門職、総合職、業務職、一般スタッフ職、庶務職、嘱託、シニア専門職、シニアスタッフ職、シニアサポート職があった。なお、Xは9年6月から上級専門職になっていた。

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<N社における給与規程および人事考課制度等について>

★ 上級専門職の中での等級、対外呼称および本給の区分は15年3月までは1級(主席)から17級(上級)に分かれていたが、同年4月からはAからDの4つのステージに区分された上、各ステージの中で各等級および各対外呼称に区分されることになった。

★ 上級専門職の昇格および降格に伴う給与の決定に関し、N社の給与規程11条1項は「昇格および降格に伴う給与の決定は、上級専門職、一種専門職および二種専門職に対し、職員の業務成果、組織貢献、情意、能力等を考査して年1回おこなう。考査により上位の等級に異動した場合および現在より下位の等級に異動した場合は、役職等級別に定められた給与を支給する」と定めている。

★ N社においては、総合職以上の従業員を対象として、社員一人ひとりの自主性と個性を尊重し、その成長を支援するとともに、組織として高い成果を実現していく制度として、C&A制度を設けている。これは、目標設定と成果の確認を目的とするもので、その過程を通じて上司と部下の双方向コミュニケーションを促進するとともに、人事評価制度と連動して、C&Aで確認された業務成果が人事評価(業務評価)に反映されるとともに、昇格・昇給における能力評価の基礎とされると説明れている。

★ N社において業務評価は、半期ごとにまずC&Aにより業務の目標設定と成果確認が行われ、その後、C&Aの結果やその他の業績・勤務態度等を種々の要因を勘案して一次評価者および二次評価者による業績評価が行われた後、最終的にL1(良)からL20(悪)までの20ランクに評価される。また、能力評価は、毎年一月に業務遂行能力を中心に評価される。

★ 職種、ステージ、等級の決定は、毎年1回4月に決定され、これに基づき本給も決定される。その際、直近の1年間の評価が最も重視されるが、さらに1年ないし2年遡った過去の評価も参考とされる。

★ 上記のような人事考課制度およびその運用については、多数労働組合であるN社従業員組合に対しても説明、協議がされ、その確認および承認を得ている。

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<N社就業規則の休職に関する規定について>

★ N社就業規則の休職に関する規定である48条は、「職員が次の各号の一に該当するときは、休職を命ずる。」と定め、その1号において「傷病または事故により、次表の欠勤日数を超えて引き続き欠勤するとき。」と定めている。

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