#213 「富士火災海上保険事件」東京地裁(再掲)
2008年7月30日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第213号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 参考条文
★ 労働基準法 第24条(賃金の支払)
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」(第2項 略)
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■ 【富士火災海上保険(以下、F社)事件・東京地裁判決】(2008年1月9日)
▽ <主な争点>
賃金からの控除と労働基準法24条ただし書後段の効力
1.事件の概要は?
本件は、損害保険会社であるF社の直販社員ないし外務員であるXらが、顧客から獲得した各種保険契約に基づく保険料の支払いにつき、顧客が保険料を分割払い等で口座振替によりF社に支払う場合の口座振替手数料相当額を、Xらの月例給与から控除することにしたF社の措置(給与規程の改定)が、Xらの所属組合ないしXらの同意もなくなされており、F社が上記顧客から保険料に乗せて当該手数料の支払いをすでに受けているのに、さらにXらから同額分を控除することは二重払いに当たり、賃金全額払いの原則にも悖るとして、F社に対して不当利得返還を請求したもの。
これに対し、F社は「上記控除は二重払いに当たらず、給与規程の改定に基づいて行っているもので、Xらに対する関係で就業規則の不利益変更になるとしても合理性があり、有効である」として、Xらの請求を争っている。
2.前提事実および事件の経過は?
<F社、XおよびYについて>
★ F社は、損害保険業等を目的とする会社である。
★ Xは、平成2年11月、F社に直販社員制度における研修社員として採用され、3年6月、営業社員となった。その後、営業社員として、首都圏第一本部池袋支店PA営業課に所属し、自動車・火災保険などの損害保険の勧誘、保険契約の締結、保険料の集金等に従事している。
★ Yは、昭和47年1月、F社に外務見習社員として採用され、外務社員となり、現在は、外務参与として首都圏第一本部銀座支店PA営業課に勤務し、自動車・火災保険などの損害保険の勧誘、保険契約の締結、保険料の集金等に従事している。
★ F社には、従業員の9割以上で組織されているF社労働組合(以下「F社労組」という)と、XおよびYも所属する全日本損害保険労働組合F社支部(以下「F社支部」という)がある。
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<F社における保険料の集金方法と本件控除に至った経緯>
★ 保険を契約すると、契約者に保険料の支払い義務が発生するが、F社は自ら集金専門の社員である契約保全社員(以下「保全社員」という)を雇用し、月々の集金を行うことによって、分割払い契約の保険の拡販を行ってきた。
▼ 昭和60年頃、F社は主に集金コストの削減のため、保全社員による集金(以下「保全集金」という)から口座振替による集金(以下「口振集金」という)への切り替えを推進した。口振集金とは、契約者の銀行口座からF社の銀行口座に振替送金する方法で、口座振替手数料が発生するところ、当該手数料は割賦チャージとして年間保険料に上乗せし、契約者に負担させていた。
▼ 平成3年、F社は保全集金を廃止する方針を決め、翌4年、契約者ごとのリストを作成し、各営業社員に対し、保険料分割払い契約について口振集金へ切り替えるよう求めた。
▼ F社は8年3月をもって、保全集金を廃止し、保険料分割払い契約で第2回目以降の保険料の支払い方法において口座振替制度を利用しない保険契約者については、Xら外直社員あるいは保険代理店が集金する方法(以下「扱者集金」という)となり、同月末で口振集金への切替率が約90%となった。
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