#169 「国・羽曳野労基署長(通勤災害)事件」大阪地裁
2007年1月17日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第169号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【国・羽曳野労基署長(通勤災害)事件・大阪地裁判決】(2006年4月12日)
▽ <主な争点>
介護のための立寄り後、事故に被災したことが「通勤災害」に該当するか
1.事件の概要は?
本件は、建材店勤務のXが義父の介護のために勤務後、自宅と勤務先間の合理的な通勤経路外にある義父宅に立ち寄り、介護を終えて徒歩で帰宅する途中、経路上の交差点で原動機付自転車と衝突し(以下「本件事故」という)、頭蓋骨骨折、脳挫傷などの災害(以下「本件災害」という)を被り休業を余儀なくされたために、本件災害は、労働者災害補償保険法(以下「法」という)に規定する「通勤災害」に該当するとして、H労働基準監督署長に対し、休業給付の支給を申請したところ、同労基署長が本件災害は通勤災害には該当しないとして不支給処分としたために、国に対し、当該処分の取り消しを請求したもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<Xおよび本件介護等について>
★ Xは本件事故の発生当時(13年2月)、大阪府富田林市A町2丁目に居住し、同町5丁目所在の建材店(以下「本件事業場」という)に勤務していた。
★ Xの妻の父(以下「義父」という)は、12年に交通事故に遭い、両下肢機能全廃により1級身体障害者の認定を受けた。義父の障害は両足が不自由となり、壁や机に手をかけたり、杖を使ったりするなどしてどうにか歩ける状態であった。
★ 義父は、A町3丁目所在の自宅でXの妻の兄(以下「義兄」という)と同居し、食事の世話や入浴の介助、簡易トイレによる排泄物の処理などの介護を受けていたが、義兄は仕事の都合で帰宅するのが遅く、またXの妻も仕事の都合で帰宅するのが遅くなることが多かった。
★ そのため、Xは月曜日から金曜日までの勤務日のうち4日間程度、義父の介護をするために本件事業場での勤務終了後、徒歩で復路に利用している合理的な通勤経路外にある義父宅に立ち寄り、妻が作った夕食を温めて食事の準備をしたり、食後に入浴の介助を行ったりするなどの介護(以下「本件介護」という)を行っていた。
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<本件事故および本件処分等について>
▼ Xは本件事故当日も18時30分頃に仕事を終え、本件事業場を出発して18時50分頃に義父宅に立ち寄り、約1時間40分程度、いつもの介護を行い、介護を終えて、20時30分頃に徒歩で義父宅を出発し、途中のコンビニで自分の夕食を購入して自宅に向かう途中、20時45分頃に経路上の交差点(以下「本件交差点」という)で原動機付自転車と衝突し、本件災害を被った。
★ Xは所用のないときは、往路・復路とも徒歩で通勤していたが、この往路および復路の経路はいずれも合理的な通勤経路であり、復路は本件交差点を通っていた。
▼ Xは15年2月、本件災害は通勤途中における災害であり、法に定める「通勤災害」に該当するとして、H労基署長に対し、本件災害による(13年2月から同年8月までの期間についての)休業給付の支給を請求した。
▼ 同年3月、H労基署長は以下の理由などから、本件災害は「通勤災害」には当たらないとして、休業給付を不支給とする処分(以下「本件処分」という)を行った。その後、労働者災害補償保険審査官および労働保険審査会もXの請求を棄却したため、Xは17年4月、本件請求に及んだものである。
(a)Xは本件事故当日、義父の介護という、業務とは無関係な目的で帰宅を開始し、事業場施設とは関係のない義父宅で義父の介護をし、帰宅するまでに約2時間の長時間を要していることなどからみて、本件事故は法に定める「通勤」の定義にいう「就業に関し」の要件を満たしていない。
(b)Xが義父宅に立ち寄ったのは、専ら義父の介護という私的な目的のみであって、業務との関連がなく、その時間も通勤経路の逸脱後約2時間と相当長時間に及び、その頻度も週4日以上であることなどからすると、Xが義父の介護のために義父宅に立ち寄った行為は日用品の購入と同程度と評価することはできない。
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★ 法には、以下のような定めがある。
第7条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
1.(略)
2.労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡(以下「通勤災害」という)に関する保険給付
3.(略)
2項 前項2号の通勤とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路および方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
1.~3.(略)
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