#191 「王子製紙事件」大分地裁
2007年9月19日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第191号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【王子製紙(以下、O社)事件・大分地裁判決】(2006年5月8日)
▽ <主な争点>
労災事故と会社の安全配慮義務違反
1.事件の概要は?
本件は、退職した従業員Xが、工場内で清掃作業中、転倒し、負傷した事故は、従業員が安全な状況下で業務に従事できるようはかるべきO社の安全配慮義務の懈怠により生じたとして、民法415条(債務不履行による損害賠償)に基づいて治療費、残業が減ったことによる査定賞与の減額、慰謝料などの損害の賠償を求め、O社がこれを争ったもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<O社およびXについて>
★ O社は、紙類、パルプ類およびその副産物の製造、加工ならびに売買を主たる業務とする会社で、平成8年10月、旧商号新王子製紙と本州製紙(以下、H社)が合併したものであり、H社の権利義務または債権債務を承継している。
★ Xは平成5年4月、H社に採用され、同社大分工場施設部長室に配属された。なお、上記合併により、H社大分工場はO社大分工場(以下「大分工場」という)となった。
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<本件工事および大分工場施設部長室の従業員構成について>
▼ 5年8月から9月にかけて、大分工場において、抄紙機(注:パルプ液に印刷および筆記特性を与える薬品を混合させたものを抄造、乾燥させる機械で、長いロール状となった紙が製造される)の運転を止めた上で、同機械の改造工事(以下「本件工事」という)が行われた。なお、本件工事は、約20億円をかけて、競争力強化の一環として生産速度向上を目的に行われた工事であった。
★ 本件工事当時、Xが配属されていた施設部長室は、工場各設備の設計を担当する部署であり、施設部長兼安全衛生管理室長のC、技師で課長と呼ばれていたD、主任のEなど約15名の従業員が所属していた。
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<Xの受診について>
▼ Xは5年9月10日、M整形外科を受診し、胸部、両肩打撲と診断され、その際、カルテには「本日排水管の上を歩いていて、フタが逆になっていたため、フラッとし転倒、その際右肋骨部バルブで打つ」と記載された。
▼ Xはその後、K整形外科を受診し、頚椎椎間板症(頚椎捻挫)と診断され、頚部牽引や投薬の治療を受け、頚背部痛、左肩から上肢に放散痛、しびれ感持続として、同年12月には精査のため、MRI検査を受けるなどしたが、明らかな異常所見はなかった。
▼ Xは6年2月、O病院を受診し、第四、五頚椎亜脱臼と診断され、同年7月にはY整形外科を受診し、頚椎症性神経根症と診断された。
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<Xの解雇および労災申請について>
▼ 13年9月、O社はXに対し、無断欠勤、遅刻等を理由として譴責処分を行い、以降再三の注意・指導をしたが、反省・改善なく職場秩序を著しく乱したとして、14年8月、再度懲戒処分(譴責・出勤停止7日)としたが、当時、Xは9年前に業務中転倒したことにより頚背部痛があることを理由として長期欠勤を継続していた。
▼ O社は、Xは継続して労務の提供が滞っており、業務上の指示にもしたがわず、改善の見込みもなく、今後も雇用契約の本旨にしたがった労務の提供を期待しえないとして、15年2月、Xを普通解雇した。
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