#609 「東急トランセ事件」さいたま地裁
2024年3月19日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第609号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【東急トランセ(以下、T社)事件・さいたま地裁判決】(2023年3月1日)
▽ <主な争点>
免許取得のための教習費用相当額貸付制度が労働基準法16条に違反するかなど
1.事件の概要は?
本件第1事件は、バスの自動車運送事業等を営むT社が従業員であったXに対し、運転免許取得のための教習費用等にかかる消費貸借契約に基づき、貸金31万0800円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。
本件第2事件は、XがT社で就労中、上司から退職強要、パワハラ、不当な減給等を受けたために精神的苦痛を受け、退職や離婚を余儀なくされたなどと主張して、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として、民法709条、715条1項に基づき、損害合計1882万円の支払を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<T社およびXについて>
★ T社は、バスの自動車運送事業等を営む会社である。
★ Xは、T社との間で労働契約を締結し、バス運転士として稼働していた者である。
<本件消費貸借契約、Xが退職するに至った経緯等について>
★ T社ではバスの運転士として必要となる大型自動車第二種免許(以下「大型二種免許」という)を新たに取得して稼働しようと考えている者を対象に、教習所に通って免許を取得するための教習費用等に対応する額を貸し付け、免許を取得して正社員として採用された場合、一定期間継続して勤務した場合には貸付金の返還債務を免除する制度(養成制度)を設けている。
▼ Xは上記養成制度を利用することとし、2014年12月、T社との間で、「弁済期限:社員として採用された後、5年未満に退職し、または解雇されたときは、その退職または解雇された日。入社後5年以上勤務した場合には、運転免許取得に関わる費用の返還を免除する」との条件で、金銭消費貸借契約(以下「本件消費貸借契約」という)を締結し、同社から自動車学校の教習費用30万7000円および免許試験受験費用3800円の合計31万0800円を借り入れ、大型二種免許を取得するために教習所に入所した。
★ なお、Xは同時期にT社との間で2015年3月までの有期雇用契約(給料月額:16万5000円等との条件)も締結しているが、実際には同社での業務に従事せずに教習所で教習を受けていた。
▼ Xは2015年2月頃までの間に大型二種免許を取得し、同年3月にT社との間で労働契約を締結した後に甲営業所に配属され、バス運転士として稼働し、同年12月には本採用となった。
▼ Xは運転士として勤務中、接触事故を起こすなどし、指導を受けていたが、2016年4月、強めのブレーキをかけて客が頭部をぶつける、ハザードランプを点けたまま進行するなどしたため、教育センターにて再教育を受講することとなった。
▼ Xは同年6月、「一身上の都合により運転士の職を辞し、サービスアシスタントとして職務にあたることを希望する、給料減額に異存はない」旨の上申書を作成し、T社に提出した。
▼ Xは同年7月から、T社の乙営業所において、サービスアシスタントとして勤務することとなった。
▼ Xは2019年6月、甲営業所に異動となったが、同年8月、T社を退職した。
<訴訟に至る経過等について>
▼ T社は2021年2月、本件消費貸借契約に基づく貸金の返還を請求する支払督促を申し立て、同年3月、支払督促申立書はXに送達された。
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