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#276 「X社事件」最高裁第一小法廷

2011年1月5日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第276号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 参考条文

★ 労働基準法(以下「労基法」という)
第32条(労働時間)
使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
(2項略)

第36条(時間外及び休日の労働)
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。(ただし書以下略)

第119条 次の各号の一に該当する者は、これを6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
1.第3条、第4条、第7条、第16条、第17条、第18条第1項、第19条、第20条、第22条第4項、第32条、第34条、第35条、第36条第1項ただし書、第37条、第39条、第61条、第62条、第64条の3から第67条まで、第72条、第75条から第77条まで、第79条、第80条、第94条第2項、第96条又は第104条第2項の規定に違反した者
(2項以下略)

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■ 【X社事件・最高裁第一小法廷判決】(2009年7月16日)

▽ <主な争点>
36協定の範囲を超えて時間外労働させた労働基準法違反等

1.事件の概要は?

平成18年2月、X社の運転者Bが、ガソリンを積載したタンクローリーを運転中居眠り状態に陥り、渋滞車両に追突し、11台を巻き込む多重衝突を招き、車両を炎上させるなどして、死者3名、負傷者6名を出す事故があった。

本件は、X社の代表取締役であったAが36協定の範囲を超えて時間外労働をさせた労働基準法違反の罪に問われた上告審である。

2.前提事実および事件の経過は?

<X社、AおよびBについて>

★ X社は、大津市に本店および事業所を設けて石油製品の保管および運送等を営む会社である。

★ Aは、X社の代表取締役として同社の業務全般を統括し、X社使用に係る自動車の安全な運転に必要な業務を行っていた者である。

★ Cは、X社の統括運行管理者として、同社の運転者に対する輸送を指示して自動車の運送を直接管理するとともに、X社の労働者の労働時間管理を統括していた者である。

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<本件事故が発生するまでの経緯等について>

★ X社は、大型タンクローリー等を保有し、大阪府堺市内から滋賀県内のガソリンスタンド約40店舗までガソリンや灯油等を運搬することを主たる業務としていたところ、平成16年頃から従業員運転者に荷積みや荷下ろしを含め往復約5時間を要する運搬を1日に3回行わせるなどして長時間労働をさせることがあった。

▼ 17年10月、X社は大津労働基準監督署から、臨検の上、同年7月から9月までの2ヵ月間に関し、運転者2名の各1ヵ月の総拘束時間が320時間を連続して超えていることや勤務終了後継続8時間以上の休息時間を与えていないことなどの労使協定等の違反について是正勧告を受けた。

▼ これに対し、X社は同年11月、運転者の新規雇用等を内容とする是正報告書を上記労働基準監督署に提出したが、運転者の勤務状況が従前と比べ何ら改善されていなかったことから、口頭注意を受け、再度是正報告を求められた。

▼ X社では、同年10月頃から18年1月頃までの間に8名の運転者が退職し、また、厳冬のため灯油の受注が増えたことなどから、運転者の拘束時間は改善するどころか増加しており、18年1月には近畿運輸局滋賀運輸支局が同社に監査に入り、運転者の1ヵ月の総拘束時間が320時間を超える状況にあったことなどから早急な改善を促され、同年2月3日付で同運輸支局長から文書警告処分を受けた。

★ X社はこの間、運転者を何名か採用するなどしたものの、運転者の過重労働の状況を実質的に改善したことにはならず、受注を減らすなどその有効な措置をとらないまま、業務を続けた。

▼ 18年2月13日、X社の運転者であるBは睡眠不足等から蓄積した疲労によって、京滋バイパスを走行中に居眠り状態に陥り、時速約90キロメートルで渋滞車両に追突し、11台の車両を巻き込む多重衝突を招き、車両を炎上させるなどして、死者3名、負傷者6名を出す事故(以下「本件事故」という)を起こした。

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