#284 「東京大学出版会事件」東京地裁
2011年4月27日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第284号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 参考条文
★ 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、単に「法」という)
(高年齢者雇用確保措置)
第9条 定年(65歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
1.当該定年の引上げ
2.継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
3.当該定年の定めの廃止
2 事業主は、当該事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、前項第2号に掲げる措置を講じたものとみなす。
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■ 【東京大学出版会(以下、T法人)事件・東京地裁判決】(2010年8月26日)
▽ <主な争点>
就業規則所定の再雇用の条件と法人による再雇用の拒否等
1.事件の概要は?
本件は、T法人を定年退職したXが同法人に対し、再雇用を希望する旨の意思表示をしたところ、T法人がこれを拒否したが、同拒否の意思表示は正当な理由を欠き無効であるから、同法人との間において、平成21年4月1日付で再雇用契約が締結されていると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めたもの。
なお、T法人においては、定年退職者の再雇用について、法9条2項に基づく労使協定により、「再雇用契約社員就業規則」が定められている。同就業規則3条は、定年退職者の再雇用の条件として、定年退職者で再雇用を希望することを5条の定めにより事前に申し出た者で、(1)健康状態が良好で、8条(勤務日、勤務時間)に定める勤務が可能な者、(2)再雇用者として通常勤務ができる意欲と能力がある者を再雇用すること等が定められている。
2.前提事実および事件の経過は?
<T法人およびXについて>
★ T法人は、東京大学における研究とその成果の発表を助成し、または民間出版社において採算上刊行を引き受けないような優良学術図書の刊行、頒布、内外学術資料の蒐集(しゅうしゅう)および学術講演等の事業を行い、学術の振興文化の向上に寄与することを目的とする財団法人である。
★ X(昭和23年生)は、昭和48年7月にT法人との間で雇用契約を締結して同法人に就職し、平成21年3月31日に定年退職した者であり、在職中、一貫して編集局に所属し、社会学、宗教学、教育学、文化人類学等の社会科学・人文科学の分野の学術書・教科書または教養書の編集に携わった。
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<法令、T法人の就業規則等の定めについて>
★ 法附則5条1項は、「高年齢者雇用確保措置を講ずるため努力したにもにかかわらず協議が調わないときは、就業規則その他これに準ずるものにより、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入することができ、この場合には、当該基準に基づく制度を導入した事業主は、法9条1項2号に掲げる措置を講じたものとみなす」と規定している。
★ T法人の就業規則(18年4月1日実施。以下「就業規則」という)は、職員が定年に達したときは、定年に達した日をもって退職とする(33条)、職員の定年は、満60歳の誕生日を経過して、なおかつ3月31日か9月30日のいずれか近い日とする(35条1項)、定年退職者の再雇用については、法9条2項に基づく労使協定により、「再雇用契約社員就業規則」を別に定めると規定している。
★ 就業規則35条2項に基づき定められた再雇用契約社員就業規則(18年4月1日実施。以下「再雇用就業規則」という)は、「T法人を定年退職した職員のうち再雇用を希望する者について、その取扱い、条件等を定めるものである(1条)と規定した上、T法人は定年退職者で再雇用を希望することを5条の定めにより事前に申し出た者で、(1) 健康状態が良好で、8条(勤務日、勤務時間)に定める勤務が可能な者、(2) 再雇用者として通常勤務ができる意欲と能力がある者を再雇用する(3条)、再雇用者は契約社員とする(4条1項)、再雇用の契約期間は1ヵ年とし、原則として所定の年齢に達するまで更新することができる(同2項)、再雇用を希望する者は退職予定日の2ヵ年前までに総務部長宛に「再雇用希望申請書」を提出するものとし、(1) 面接、(2) T法人が指定した健康診断結果の提出手続を定年退職日の6ヵ月前までに完了しなければならない(5条)」と規定している。
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<本件再雇用拒否、Xが定年退職に至った経緯等について>
▼ XはT法人のA総務部長に対し、19年7月に再雇用希望申請書を提出し、20年5月には再雇用希望調査票および指定医による健康診断書の写しを提出した(以下「本件再雇用申請」という)。
▼ 20年9月、T法人は本件再雇用申請につき、Xに対し、「Xには就業規則11条に定める誠実義務および同12条に定める職場規律に問題があったため、再雇用者として通常勤務できる能力がない」と判断した旨を伝えて本件再雇用申請を拒否し、同年10月、T法人がXを再雇用しないとの結論に達した旨の記載のある「通知書」と題する書面を交付した(以下「本件再雇用拒否」という)。
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