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#155 「農林漁業金融公庫事件」東京地裁

2006年10月4日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第155号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【農林漁業金融公庫(以下、N公庫)事件・東京地裁判決】(2006年2月6日)

▽ <主な争点>
精神障害者に対する退職勧奨が不法行為となるか等

1.事件の概要は?

本件は、N公庫在職中に低酸素脳症による高次脳機能障害* を負ったXが意思無能力であるにもかかわらず、同公庫の勧めにより退職したが、この退職は無効であり、Xが発作で倒れた平成5年5月以降、休職期間等により、少なくとも7年5月までは同公庫に在籍できたはずであるとして、その間の賃金(約550万円)の支払いを求めるとともに、Xは無効な退職により、同公庫に在職することのできた期待利益を失い、精神的損害を被ったとして、損害賠償(500万円)を請求したもの。

* 低酸素脳症は、心肺停止などによって引き起こされ、これによって高次脳機能障害が生じると、記憶障害、失見当識、自発性の低下、痴呆、人格、行動の変化などの障害、症状が現れる。高次脳機能障害が回復する期間は様々であるが、発症から2ヵ月を経過すると、それ以降の精神機能の変化はほとんどみられないことが多い。

2.前提事実および事件の経過は?

<N公庫およびXについて>

★ N公庫は農林漁業金融公庫法に基づき設立された農林水産漁業および関連産業に対して、融資等を行う政策金融機関である。

★ Xは昭和38年生まれの男性であり、63年3月、大学を卒業後、同年4月にN公庫の職員となった。就職時には同公庫の長崎支店に配属され、平成5年当時は同支店業務一課の職員として勤務していた。

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<本件退職届および本件退職等について>

▼ Xは平成5年5月、自宅で心配が停止し、熊本市内の病院に搬送され、蘇生したが、この間の低酸素脳症により、高次脳機能障害の後遺症が残った。

▼ Xは同年12月まで熊本市およびその周辺に所在する病院に入院加療し、6年1月から同年6月まで千葉県内の実家で自宅療養しつつ、病院に通院した。

▼ Xは同年3月8日付の退職届(以下「本件退職届」といい、この退職を「本件退職」という)に署名し、N公庫に提出した。なお、同公庫はXの退職と入れ替わりに、元職員であったXの配偶者Yを再雇用した。

▼ 15年10月、Xについて、Xの実母Zを後見人として、後見開始決定が確定した。

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<N公庫の就業規程について>

★ N公庫の就業規程には以下のような定めがある。

(取扱いの特例)
第16条
 災害、交通事故その他不可抗力により、欠勤または遅参した場合は、それぞれ欠勤または遅参として取り扱わないことがある。

(傷病による休職)
第24条
 職員が傷病のため連続して欠勤した場合は、傷病の種類、欠勤の期間および当該職員の勤続年数に応じ、次に定める期間、休職を命ずる。ただし、特別の事由がある場合は、その期間を延長することがある。

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