#397 「M社事件」名古屋地裁
2015年10月28日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第397号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【M社事件・名古屋地裁判決】(2014年1月15日)
▽ <主な争点>
従業員に対する暴言、暴行、退職強要行為が不法行為に当たるか等
1.事件の概要は?
本件は、M社の従業員として勤務していた亡きXの相続人(妻・子)であるYらが、Xが自殺したのは、同社の代表取締役であるAおよび監査役BのXに対する暴言、暴行あるいは退職強要といった日常的なパワーハラスメントが原因であるなどとして、主位的にはAらに対し、不法行為に基づき、M社に対し、会社法350条(代表者の行為についての損害賠償責任)および民法715条(使用者等の責任)に基づき、損害賠償金等を求め、予備的には同社に対し、債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、損害賠償金等の支払いを求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<M社、A、XおよびYらについて>
★ M社は、愛知県において、金属琺瑯(ほうろう)加工業および人材派遣業を営んでいた会社であるが、現在は金属琺瑯加工業を止め、人材派遣業のみを営んでいる。
★ Aは、M社の代表取締役であり、B(Aの妹)は同社の監査役である。
★ Xは、平成15年10月、甲社に入社し、16年3月、M社に転籍した者である。Xは同社において、搬入された鉄部品を琺瑯加工する前の脱脂、酸洗い、ニッケル処理、中和・乾燥等の前処理業務に主に従事しており、その他、製品の検査、梱包等に従事することもあった。
★ Yは、Xの妻であり、Z1・Z2およびZ3はいずれもXの子である。
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<本件暴行、退職強要に至った経緯等について>
▼ XはAについて、当初は頭が切れる社長であると評価していたが、平成19年夏頃から妻であるYに対し、「仕事でミスをすると、Aから汚い言葉で叱られたり、蹴られたりする」と言うようになった。
★ XはM社での仕事において、設備や機械を損傷するという事故を含むミスをしばしば起こした。AはXおよびその同僚CのミスによってM社に与えた損害について弁償するように求め、弁償しないのであれば家族に弁償してもらう旨を言ったことがあった。また、AはXらに対し、「会社を辞めたければ7000万円払え、払わないと辞めさせない」と言ったこともあった。
▼ AはXに対し、21年1月19日、大腿部後面を左足および左膝で2回蹴るなどの暴行を加え(以下「本件暴行」という)、全治約12日間を要する両大腿部挫傷の傷害を負わせた。
▼ 同月23日、AはXに対し、退職願を書くよう強要し、Xが下書きをした退職願には「私は会社に今までにたくさんの物を壊してしまい損害を与えてしまいました。会社に利益を上げるどころか、逆に余分の出費を重ねてしまい迷惑をお掛けしたことを深く反省し、一族で誠意をもって返済します」などと記載されていた。
▼ Xは同日の夜に帰宅した際、Yに対し、「もう駄目だ。頑張れない。会社を辞める」などと述べた。その後、YはXに対し、風呂に入るよう勧めたこところ、Xの両足の後ろ側に大きな黒いあざがあるのを見つけたため、事情を聞き、本件暴行があったことを知った。翌24日、XとYは病院で診断書をとった後、警察署へ行き、相談した。
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<Xの自殺、労災認定に至った経緯等について>
▼ Xは21年1月26日午前4時頃、愛知県内所在の墓苑内公衆トイレにおいて自殺した。死亡当時、Xは52歳であった。
▼ Xの死亡について、Yは名古屋東労働基準監督署長(N労基署長)に対し、同年5月、遺族補償年金および葬祭料の支給を申請したが、N労基署長は22年2月、いずれも不支給とする旨の決定をした。
▼ しかしながら、N労基署長は上記各不支給決定後に実施した事情聴取等を踏まえ、24年1月、各不支給決定を取り消し、改めて、遺族補償年金および葬祭料を支給する旨の決定をした。
3.Xの相続人Yらの主な言い分は?
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