#233 「損保ジャパン調査サービス事件」東京地裁(再掲)
2009年5月13日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第233号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【損保ジャパン調査サービス(以下、S社)事件・東京地裁判決】(2008年10月21日)
▽ <主な争点>
パワーハラスメントによるPTSD罹患と休職期間満了による退職等
1.事件の概要は?
本件は、XがS社に雇用されていたところ、同社の従業員であったA等から、嫌がらせないしパワーハラスメント* を受け、PTSD** に罹患して、休職を余儀なくされたとして、Aに対しては不法行為にもとづき損害賠償を求め、S社に対しては、雇用契約に基づきその契約関係の確認、同契約上の安全配慮義務違反ないしはAの使用者としての不法行為責任に基づき、損害賠償を求めたもの。
これに対して、S社は同社がXに対し、雇用契約に伴いXに貸与していた借上社宅(以下「本件建物」という)につき、雇用契約が退職により終了し、明渡し時期が到来したとして、未払い賃料の支払いを求めている。
* 「パワーハラスメント」(以下、「パワハラ」という)とは、組織・上司が職務権限を使って、職務とは関係ない事項あるいは職務上であっても適正な範囲を超えて、部下に対し、有形無形に継続的な圧力を加え、受ける側がそれを精神的負担と感じたときに成立するものをいう、と一応定義する。
** 「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」とは、心に加えられた衝撃的な傷が元となり、後になって様々なストレス障害を引き起こす疾患のことである。
2.前提事実および事件の経過は?
<S社、XおよびAについて>
★ S社は、主として親会社である損保ジャパンの依頼を受けて、自動車事故の原因調査、損害額の査定および交渉を行うことを業とし、従業員1700名余りを雇用する会社である。
★ Xは、平成9年4月、S社との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、常勤の正規従業員として、自動車整備士資格等を有し、技術アジャスター等の職に就いて勤務していた者である。
★ Aは、S社の従業員兼務役員の地位に就いており、Xの上司であった。
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<Xの入社後、休職期間満了に至るまでの経緯等>
▼ XはS社に入社後、最初に能力開発第一部に配属された。10年4月に柏サービスセンター(以下「柏SC」という)に、12年4月には東京車両技術調査室に異動し、14年4月には大阪市住之江区にある、損保ジャパンの大阪自動車研究所内にある能力開発第一部(以下「能開南港」という)に異動した。その後、15年9月、堺サービスセンター(以下「堺SC」という)への異動内示を受けた。
▼ 11年8月頃、柏SCに配属されていたXが某修理工場との間で査定に関して対立し、始末書を提出することになったが、当時Xは対内外の対人トラブルを多数起こしており、始末書も多数回提出していた。このため、同年11月頃には、柏地区のディーラーや修理工場に嫌われて、ほとんど仕事ができない状態となっていた。
▼ 12年7月に取締役兼能力開発部長となったAは、14年4月から能開南港に配属されたXの上司となったが、新宿本社で勤務しており、大阪で勤務しているXと顔を合わせるのはせいぜい月1回程度であった。
▼ Xは、18年9月1日付の書面により、S社から同年12月1日付で就業規則の規定に基づき、休職期間満了により退職となる旨の通知を受けた。
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<本件建物の貸与について>
★ S社はXに対し、16年6月、社宅貸与規定に基づき、本件建物を以下の約定で賃貸した。
(1)社宅使用料 月額1万2200円
(2)賃料の支払 その月の給与から控除する。
(3)返還時期 転勤により居住地を変更した場合、S社を退職した場合、社宅貸与規定に違反したときまたはS社により退去させる必要があると認められたときなど(その余は省略)
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