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#98 「T工業事件」千葉地裁

2005年8月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第98号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【T工業(以下、T社)事件・千葉地裁判決】(2000年6月12日)

▽ <主な争点>
従業員本人に無断で行ったHIV抗体検査/HIV感染による解雇等

1.事件の概要は?

本件は、T社に勤務していたXがY医師の経営する病院で定期健康診断を受けた際にXの同意なく、HIV抗体検査が行われたことにつき、T社については、Xに無断で検査の依頼をし、検査結果を受け取るなどした行為が、Y医師については、Xに無断で検査を行い、その結果をT社に交付する等した行為が、Xのプライバシー権を侵害するものであるとして、T社およびY医師に対し、慰謝料の支払いを求めるとともに、HIVに感染していることを理由に不当解雇されたとして、T社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<X、T社およびY医師について>

★ Xは日本国内に在住する日系ブラジル人であり、HIV感染者である。Xは自身がHIVに感染していることを知っており、以前から治療を受けていた。

★ T社はプラスチック・フィルムの製造販売等を行う会社である。

★ Y医師はZ病院の名で病院を営む者である。

★ T社では定期健康診断において、新たに雇用したブラジル人にかぎって、本人に知らせず、同意を得ることもなく、HIV抗体検査を行っていたが、陽性の結果が出た者がいなかったため、検査の事実や結果を従業員に知らせることはなかった。

▼ 平成9年9月、XはT社と雇用契約を結び、製品の梱包作業に従事するようになった。雇用期間に関しては、契約締結日から1年間とするが、契約期間満了後、さらに1年ずつ更新することができ、X、T社いずれかが更新を希望しないときは、期間満了の日の2ヵ月前までに各相手方に通知するものとされていた。

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<HIV抗体検査とその後のT社の対応>

▼ 同年11月の定期健康診断において、T社はXには秘したまま、同意も得ないで、HIV抗体検査をZ病院に依頼した。同病院もXの意思を確認することなく、血液を採取し、上記検査を行い、健康診断結果報告書とHIV抗体検査の結果が記載された検査結果票をT社に交付した。

▼ 上記検査結果票を開封し、Xの検査結果が陽性であることを知った総務課長のAは同月下旬、Xを呼び出し、HIV感染の事実を知っていたのか尋ね、Xが知っていた旨答えると、なぜ最初から言わなかったのかと責め、妻と相談するためにもブラジルに帰ったらどうかと勧めた。

▼ 同年12月、XはAから「来年は不景気で仕事がないので辞めてほしい。辞めてもらうのはXだけではない」旨告げられた。XはやはりHIV感染を理由に解雇されるものと思い、B工場長らに確かめようとしたが相手にされなかった。

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