季節
春。
耳に踊る花弁。
神社の階段から振り返る君の笑顔が愛しい。
枝垂れ桜がわたしを追いかけて、わたしはその先のこびとの背中追いかけて、いつの間にかどちらも見失っていた。
夏。
あの氷菓がふたりの約束だった。真夜中に光る音色は、君のちいさな部屋をおおきな月に変えた。彩度が低くなった景色に黒がゆっくり近づき、気がつけば夢を見ていた。小鳥が鳴いて、気がつくとそこにもう君は居ない。わたしは未だ、夢を見ている。
秋。
藤の花が金木犀に変わる。寄りかかって運ばれることのやわらかさを知った。
墓場で見た星は街に落ちて、わたしたちの頬をゆっくりと伝う。立ち入り禁止の丘で食べた、スーパーの半額弁当の味は泪。
冬。
すぐ近くには海が来ていた。それに気がつかない振りをして、月を見上げていた。
寄せては返す波によって月はやがて欠け、ちいさくなって叢雲に隠されてしまった。わたしは今も春を待つ。