英語教員を経て12ヶ国を旅し、探究の世界へ。子ども主体で、選択肢を広げるアプローチを。西山和季
こんにちは。ラーンネット・あーるnote編集部です。
過去2回に渡って、この春ラーンネット・あーる(以下、あーる)のメンバーに加わった、ナビゲータをご紹介していきました。
今回インタビューさせてもらったのは、4月からナビゲータとしてあーるの子どもたちと過ごす西山和季さん。通称にっしー。高校の英語教員と民間企業での経験を経て、あーるのナビへ。さまざまな経験をしてきた西山さんから見た、あーるの魅力やこれから取り組みたいことを聞きました。
非認知能力を育む教育に関わっていきたい
—— 最初に、自己紹介をお願いできますか。
はじめまして。西山和季です。この春から、毎週水曜日と金曜日にあーるのナビゲータとして子どもたちと一緒に過ごしています。担当しているのは、主に「SEEラーニング」と「テーマ学習」です。どちらも関心のある内容だったので、スタートするときに代表のいさみん(齊藤勇海さん)と相談して担当させてもらうことになりました。
※ SEEラーニング:"Social, Emotional and Ethical Learning" の略にあたり、"社会的・情動的・倫理的知性の学び" と訳される。身体感覚を大切に、試して、感じて、ふり返るーーその積み重ねによって、一人ひとりが "自ら" そして "共に" 気づき、学んでいく
(参考:https://www.seelearningjapan.com/about)
※ テーマ学習:テーマに沿って調べる、実験する、作る、話し合う、考える、まとめるなどの活動をする。子どもたちがそれまで知らなかったこと、興味を持っていなかったことに興味を持ち、世界をひろげるきっかけにもなる。
—— 前職はどんなことをされていたのでしょうか?
以前は千葉県の高校で英語教員をしていました。時代とともに英語教育のあり方は変化していくのだろうと思いつつ、なかなか変わっていかない学校現場の状況も目の当たりにして、僕自身がもっと成長しないといけないなと思うようになったんです。
一旦学校の外に出ようと決め、その後は日本と海外の子どもをつないで国際交流をする事業を手がけている企業に転職しました。そこでは、プログラムづくりやファシリテーション、インターン生のマネジメントや営業など、さまざまなお仕事をさせてもらいました。
そこで感じたのが、テストの点数などでは測れない「非認知能力」の大切さです。海外の人とコミュニケーションを取るにはもちろん英語ができた方がいいのですが、流暢にしゃべれることよりも、話そうとする姿勢の方が大切なのではないかと思うようになりました。
英語力よりも非認知能力を育む教育に関わっていきたい。そんな思いを持ちつつ、さらに自分の視野を広げるために退職して、3ヶ月ほどかけて12ヶ国を巡り、さまざまな国の学校を訪問しました。帰国後は教育系NPOで探究事業の推進に関わらせてもらうことになりました。一方で、そこでは子どもと直接関わる機会がほとんどなかったので、NPOで働きながらも子どもと関わる場に身を置きたいとも思っていました。
あーるの子は、相手を大切にしながら“自分”を表現している
—— なるほど。そのタイミングで出会ったのがあーるだったわけですね。
そうなんです。当時は大阪に住んでいたので、関西の学校やスクールの見学に行ったり、教育系のイベントにもよく参加していました。あるとき参加した場で、たまたまいさみんと出会ったのが始まりです。以前からNews Picks EducationのWEBマガジンで、いさみんが取り組んでいるSEEラーニングの記事を拝見していたので、僕から声をかけたんです。そのご縁で、後日あーるの見学もさせてもらいました。
—— あーるを見学してみて、どのような印象を持ちましたか?
いい意味で、うるさいなと思いました(笑)いろんな記事で見ていた印象から、あーるの子どもたちは「大人しくて聞き分けのいい子たち」というイメージがありました。でも、教育に関わってきた立場からすると、もしそうだとしたらちょっと怖いなと思っていたんです。
実際に訪問してみると、あーるの子どもたちは喧嘩もするし、言いたいことややりたいことを自由に表現している感じでした。ただ、大切にしないといけない部分はきちんとあって、そのバランスが個人的にすごくいいなと思いました。ここにいると、自分のことも相手のことも大切にしていけるだろうなと。
「2種類の探究」が実践できる場を求めて
—— なぜ、あーるのナビになろうと思ったのでしょうか?
あーるは、僕自身が大切にしたい探究学習を実践しているスクールだと感じたんです。海外のいろんな学校を見てまわったときに気づいたのが、「探究には2種類ある」ということでした。一つは、自分でテーマを決めて自由に進めていくオープン探究。そしてもう一つは、大人がテーマを決めてある程度の枠組みの中で進めていくテーマ探究です。
どちらも大切なのですが、そもそも子どもたちの中に心理的安全性やシステム思考的な考え方がなかったりすると、いくら探究学習をやろうとしても上手くできないんですよね。やらされている感じになってしまったり、自分を出せなかったりする。なので、2つの探究学習がありつつ、子どもたちが夢中になれるような環境をつくっていくことも同時に必要だと思っていました。
あーるにはオープン探究とテーマ探究を、それぞれ「マイプロジェクト」と「テーマ学習」と呼んでいるのですが、その2つがありつつ、環境にもアプローチしている。そんなスクールで子どもたちと関わりながら自分自身も学んでいきたい気持ちがあって、ナビとして働かせてもらうことになりました。
主体は子ども。「与えすぎていないか?」を自分に問い続ける
—— 実際にナビとして子どもたちと関わる中で、どのようなことを感じていますか?
子どもが主体となって自分で考えて学んでいくことが大切、というのは頭ではわかっていつつも、そういう場をつくっていくことの難しさは感じています。自分が受けてきた教育は与えられるばかりでしたし、英語教員としてもそういうやり方をしてきました。なので、自分の中で“与えること”が染み付いてしまっているなと感じます。
「子どもたちに教えすぎていないか?」「子どもたちが受け身になっていないか?」は常に自分自身に問いかけるようにしています。ふとした瞬間にナビである僕が主体になっていることに気づくと、すごく反省します。
—— 西山さん自身がやりたいことが、ここで出来ている実感はありますか?
ありますね。いさみんはいろんなことを任せてくれるので、個人的にやりたいことがあったらどんどんやらせてもらえます。
例えば、テーマ学習の時間には「お店を開くこと」を一つのゴールにして、その中で価値の交換について学ぶことをねらいとして進めています。あーるの近くには商店街があるので、子どもたちと一緒に実際にそこに行って買い物をしたり、お店の方にインタビューをしたりすることで、お店が提供しているものやお客さんが求めているものに目を向けていきます。その体験を通して、お金と物の交換だけではない価値の交換がなされていることを感じてもらいたいなと思っています。
※ 7月上旬、株式会社omochiさんと、SOWELUさんにご協力いただき、子どもたちの「お店」を開きました。
—— 今後、あーるではどのようなことに取り組んでいきたいですか?
子どもたちの興味関心の幅を広げていくアプローチはしていきたいですね。
教員時代に高校生の探究学習を見る中で、「そもそも自分が何をしたいのかがわからない」という生徒がすごく多かったんです。これまでやってきたのは、部活とゲームくらいという生徒もいて。もちろんその中から探究のテーマを選んでもいいのですが、もっと多くの選択肢から選べるといいなと思っていて。そう考えると、なるべく年齢が低い頃からいろんな体験をすることが大切なのではないかなと思っています。
今取り組んでいるテーマ学習であれば、料理を作ることに興味を持つ子がいるかもしれないし、お金や接客に興味を持つ子もいるかもしれない。何に興味を持つかは、体験してみないとわからないですよね。僕自身も学びながら、子どもたちと一緒に自分を知ったり、スキルを高めたりする機会をつくっていきたいと思います。
取材・文:建石尚子