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有機農業と慣行農業

この記事は、以前のWebページのブログに掲載されたものを一部編集して再投稿したものです。最初の投稿日は2021年5月31日です。

農水省が発表した「みどりの食料システム戦略」では、有機農業の取り組み面積を100万ha(農地の25%)に増やす目標を掲げています。同時に化学肥料の使用量の30%削減と化学農薬の使用量の50%削減するとしています。

有機農業については、平成18年に制定された「有機農業推進法」の第2条に下記のように定義されています。

化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこ と並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷 をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう。

有機農業推進法

平成30年時点での有機農業の取り組み面積は23.7千haで耕地面積全体の0.5%に過ぎません、これを2050年までに100万haにするというたいへん大きな目標になっています。そのために、現在の化学肥料、農薬の代替技術を開発するとしています。

有機農業の定義に当てはまらない農業は「慣行農業」と言われています。平成30年時点で、慣行農業の耕地面積は99.5%を占めています。有機農業は平成21年時点で0.4%です。10年間で0.1%しか増えていません。

なぜ、有機農業が普及しないのか?
理由は多くあると思いますが、ざっくりと言えば、現状の技術では、手がかかるわりに生産量が低く、生産したものも高く売れない。ということだと思います。2050年までに耕地面積の50%をクリアするためには、少ない労働力で生産可能で農業経営的に再生産可能な価格で売れる。ことに尽きます。

近代農業は農地の生産性を高めることを目的に発展してきました。生産にかかる労力や肥料や農薬等の資材といったインプットをできるだけ少なくして、アウトプットとして大量に収穫する技術がベースになっています。大量に安定して生産することによって食料の価格が安定しました。

農産物をできるだけ多く生産するためには、作物栄養が良好でなければなりません。作物は窒素やリン酸、カリウム、その他のミネラルなど無機の状態で植物体内に取り込みます。効率的に栄養を吸収するためには、すぐに利用できる無機体の栄養素が根の周辺になければなりません。そのために開発されたのが化学肥料です。

化学肥料を施用せずに、化学肥料と同等の生産性を維持するためには、堆肥などの栄養素を含む有機物を大量に施用しなければなりません。化学肥料の場合、窒素、リン酸、カリなどの主要成分を数%から数十%含みますが、堆肥の場合は、ものにもよりますが、せいぜい5%程度で50%以上の水分を含んでいます。同じ肥料効果を得るためには何十倍もの重量、容量の堆肥を散布しなければなりません。しかも、肥料成分は有機物の構成要素となっているため、一度、微生物によって有機物が分解されて無機の状態にならなければ取り込まれることがありません。微生物の活動は地温や水分量などに影響を受けるため、施用してから作物に吸収されるまでに時間がかかります。

さらに、堆肥は一般的には畜産農家で生産されます。堆肥を必要とする耕種農家との距離が離れていれば、運搬にもお金と時間がかかります。結果的に、作物栄養的な観点で見れば化学肥料よりもずっと高いコストが必要になります。

化学農薬については、除草剤がなければ全て人力でやらなければならず、多くの労働者を必要とします。高齢化と人口減少が著しい農村地帯で除草のための人員を確保することは容易ではありません。また、確保できたとしても人件費が農薬散布費用に見合わなければなりません。除草しなければ良いじゃないかとなりますが、雑草が繁茂すれば作物のための肥料は雑草に食われ、光合成効率も低下します。収穫の際の手間も大きく増えるでしょう。
農薬による防除はどうでしょうか?
一般的に効率的な農業をしようとすると、単一作物で構成されます。農地の生物多様性は少なく、病気が出たり、害虫が発生した場合、一気に広がってしまいます。これを予防するためには、種の異なる、さまざまな作物を混合して栽培して多様性を高めるなどの対応が必要ですが、農業機械によって一気に管理することができなくなります。当然、多くの労働力を必要とする割には生産性が低くなるため、コストが高くなってしまいます。

肥料や農薬という資材と、労働力というインプットをどのように改善するかが、有機農業50%を実現するためには欠かせません。また、それ以上に、有機農産物を高く販売できるというマーケティングの思想が欠かせません。

有機農業推進法で定義される、化学肥料、化学農薬ゼロ以外は、全て「慣行農業」とされてしまいますが、慣行農業から有機農業に移行するのは、農業者だけの努力だけではどうすることもできません。そもそも、「生産性を重視した効率的な農業」から、「環境負荷を低減した持続可能な農業」への転換というパラダイムシフトは、同じ経営のラインにはなく、全く別の経営方法と言えるでしょう。

これを実現するためには、労働力を大幅に削減するロボット技術、軽労化技術の開発と農業労働力の確保、堆肥の生産、流通、施用のシステム化、生物農薬など化学農薬に代わる画期的な防除技術の開発を欠かすことはできません。農水省ではこれらを2040年までに確立するとしています。

同時に消費者の農業や食料に対する理解を深めること、民間レベルでの食農教育が最も重要かもしれません。


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