広報に向く人、向かない人の違いは何か? ひとり広報の採用ポイント
求人広告のコピーライターを経て、IT系メガベンチャーと博報堂系広告会社の広報部立ち上げに携わり、今は小さな広報コンサルティング会社リープフロッグの代表として「広報部立ち上げ支援」をしている松田純子です。広報&広報支援歴が18年、広報時代を含めたライター歴はかれこれ20年ほどです。
こちらのnoteでは、企業の広報担当&広報コンサル、執筆経験を生かして、広報活動をしたいと考えている中小企業やスタートアップなどの経営者や広報担当者の方に役に立つ情報をシェアしています。
今回は、広報部の立ち上げを担う経営者、経営企画、採用担当の方などにご説明する機会が多い、「1人目の広報担当者(ひとり広報)の採用ポイント」についてお話しします。
最初に質問です。
さて、皆さんはどう思われますか……?
これまで広報の採用経験がない会社の方は、ぜひ今回の記事を参考にして自社に合った広報担当者を採用していただければと思います。
■ひとり広報は経験者を採用すべきなのか?
まずよく聞かれるのがこの質問です。
結論を言えば、ケースバイケースです。経験者を採用したほうが良いケースと必ずしもそうでなくても大丈夫なケースがあります。
もしあなたの会社の社内に広報の知識を持った人がおらず、採用した広報担当を指導やフォロー、育成できる状態がなければ経験者を採用する必要があります。
これまで広報活動を全くしたことのない会社で、まったくの未経験・ひとり広報が担える広報業務には限界があります。ゼロからのメディアリレーション構築などは未経験では難易度が高く、成果が出るまでに時間がかかるでしょう。
未経験者でもできる範囲の仕事を広報の担当業務とするか、なるべく早期に理想の成果を出すことを目指すのであれば、業務委託など外部支援を使うことも検討すると良いでしょう。担当者育成などの外部支援を利用すれば、未経験の担当者でも要点を学習した上で自走していくことが可能です。
【ひとり広報採用の代表的な選択肢】
上記が、現実的な選択肢になると思います。
■採用難の時代に経験者を採用するには?
広報経験者に関しては、まだ中小企業の広報の歴史自体が浅く市場にいる人材の数が多いわけではありません。そもそも採用難易度が高い状況にありますが、それでもまずは経験者を探したい場合、以下のような方法があります。
一般的な人材サービスの利用のほか、SNSでの募集や友人・知人の紹介(リファラル)が有効です。
実は、経験豊富な広報担当者は、広報活動がしやすい(身もふたもない言い方で恐縮ですが、取材を獲得しやすい)会社かどうかは、外から見ていて分かる部分があります。メディアのニーズを把握しているからです。
広報活動のポテンシャルが高い会社であれば、SNSや友人経由の情報発信からでも経験豊富な人材が手を挙げてくれる可能性があると思います。”広報担当者を採用するための会社のPR”も重要です。
■履歴書・面接での確認ポイント
次に、採用フェーズで確認すべきポイントについて解説します。人材採用をする際は、自社が求める人物像(資質、能力、経験など)と候補者との間にズレがないかどうかを確認する必要があります。元企業広報マネジャーである松田の目線から、広報担当者の採用で重要なチェックポイントをお伝えします。
【履歴書・面接で確認すべきポイント】
(1)自社の社風に合う人材かどうか
・会社理解ができているか
・会社の大切にする価値観や方針についての理解と共感があるか
・その他(各社が人材採用で共通して確認しているポイント)
これは昨今の採用の常識で専門外の私が言うことではないですが、”スキルマッチ”の前に”カルチャーマッチ”が圧倒的に重要です。特に広報担当者の場合は、会社の事業やサービスにどれだけ誇りが持てるか、会社をどれだけ愛せるかが、仕事のモチベーションやパフォーマンスに直結します。
(2)ひとり広報に絶対に必要な資質、能力「4つのポイント」
①平均より高い理解力、キャッチアップ力があるか
(自分が知らない複雑な事象の話を聞いても的確に理解できる力があるか)
②能動的に交渉できるコミュニケーション能力があるか
(受け身ではなく、能動的な交渉力があるか)
③行動力(行動量)があるか
(仕事に対するモチベーションが高く、フットワーク軽くさまざまなことを試行できるか)
④レジリエンスがあるか
(ひとり広報は失敗の連続になるので、「気にしない」で立ち直る前向きさも必要)
社内で上司などに仕事の進め方を聞くことができない「ひとり広報」を採用するのであれば、上記4つの資質、能力を高い水準でクリアできている人材を採ることを強くお勧めします。これらの資質、能力があることが、ひとり広報として定着、活躍する上で非常に重要なポイントとなります。未経験であれば尚さらです。
※参考記事:
(3)候補者が話す「過去の経験」は自社の仕事に活かせそうか
(2)に加えて、候補者が経験者の場合は、過去の経験内容についても確認します。
⑤過去にどんな広報業務を経験したことがあるか
(新しい仕事のなかで生かせそうな過去の広報業務経験を確認する。どのようなことを行ったのかだけではなく、どのような成果を出したのか、成果に対してどのように関わったのか、成果を出すまでに考えたこと、行動したことなどを具体的に聞く)
実は一口に広報と言っても、会社の置かれた状況(※)によって頻繁に発生する業務は大きく異なり、そこで働く人材に求められるスキルも異なります。
履歴書の「経験」という文字に目を奪われて「やった! 経験者が来たぞ!」と浮かれて判断を誤らないように、以下の事例を参考にしてください。
(※)事業規模、広報活動フェーズ、広報部の組織、広報部が担当する業務範囲など、さまざまな条件で変化
【履歴書だけでは分からない細かい業務経験の違い(事例)】
広報経験:
・大企業で特定の業務を専門的に経験しているケース
・中小企業で広報活動全般を一人で回していたケース
など
なかには、メディアリレーションに携わったことのない広報担当者さんもいらっしゃいます。経理や人事と同じで「経理経験」「人事経験」だけでは実態はよく分かりません。
取材対応経験:
・自社からメディア側に提案して取材対応(取材内容の企画・提案、取材内
容(想定問答)作成、取材対応など)をしていたケース
・メディアから依頼が合った取材に対して対応(日程調整、場所調整など
)をしていたケース
など
日程調整でも取材対応ではあるので、「業務内容」と「関り方」まで確認すると良いでしょう。
プレスリリース作成経験:
・メディア向けに戦略的な情報発信をしていたケース
・「イベントのお知らせ」のような告知文を作成していたケース
など
後者の経験者の場合は、前者の仕事をする際に改めて知識のキャッチアップをする必要があります。
「広報経験3年」という曖昧な情報だけで、適切な人材かどうかを判断するのは早計です。
自社が希望する「教えなくてもできて欲しい経験」の保有者かどうかを確認するためには、「経験の詳細な中身」や「本人が担った具体的な役割」などまで掘り下げて質問することをお勧めします。
■広報経験よりも大切なこと
過去の経験について色々書きましたが、過去に経験したことしかできない人材を採用しても意味がありません。松田は、過去の経験よりも上記4つの資質、能力をしっかりと持っている人材を採用することの方がより重要だと感じています。
4つの能力を満たした方で、支援や学べる環境が整っていれば、過去に経験がなくても自律的にやり方を学んで業務を前に進められる人はたくさんいます。
むしろ、ひとり広報の採用の場合は、初めてのことでも自らやり方を工夫して前に進められる人を採用するべきです。入社後、次々に発生するであろう未知の領域の仕事に対して、周りを巻き込みながら自力で成果を出していけるかどうかが一番のポイントです。
■広報採用でよくある面接以外の課題・テスト
松田が会社員として転職活動をしていた時によく出た課題をご紹介します。※松田が最後に転職活動をしたのは10年ほど前なので、すでに情報が古いですm(ーー)m
ほぼすべての会社で以下の課題の多くが出されたと記憶しています。社内で一人か二人の特殊な職種で入社後にミスマッチが発覚しても異動先がなく、人材として持て余しかねないので細かいチェックが入っていたのかな……と想像します。
①文章力のテスト
・仮のプレスリリースなど実際に文章作成をする課題
・翻訳テスト(外国語を使う場合)
②過去の制作物の提出(プレスリリース、ファクトブック、パンフレットなど各種外部発信用の資料など)
③適性検査1(言語能力・計算能力テスト)
④適性検査2(性格検査)
■広報担当に向かないのはどんな人?
これまで広報担当に向く人材について説明してきました。では、広報担当者に向かない人とはどんな人でしょうか?
最初の質問に戻ります。ここまで読んできて、改めてこの質問にあなたはどう答えますか?
松田の答えは、「必ずしも向いているとは言えない」です。
これまで説明してきた通り、上の例のように人当たりが良い好人物でも、ひとり広報には「不向き」なことが十分あり得ます。
【ひとり広報に向かない人はこんな人】
これまで説明してきことの裏返しになりますが、ひとり広報の場合、面接時点で以下の状態にある方は採用をすべきではありません。実務スキルは後からいくらでもキャッチアップできますが、以下は必須の資質、能力でありながら後から簡単に変えられないからです。
・理解力に不安がある
役員が話す事業戦略が理解できない、営業担当者が話す商品説明、市場環境説明などの情報を理解することができない、など。
広報の仕事には決まった型や手順がありません。さらに、ひとり広報は周りにすぐ助けてくれる人がおらず、ある程度は何事も自分で考えて解決する必要があります。「1を聞いて10を知る」とまではいかなくとも、相手の話を的確に理解して自身で次のアクションを考えられるレベルの理解力は必須です。
面接では、面接官側が話したことを候補者がどの程度理解できているかを必ず確かめましょう。
・感じの良いコミュニケーションはできるが、交渉は苦手
社内・外のさまざまな人を相手に交渉することができないと広報の仕事は何も前に進みません。時には記者や上司、経営者の説得も必要です。
面接のなかで、中心メンバーとしてプロジェクトを取りまとめて成果を出した経験があるかどうか、あるいは通常業務のなかで上役などを含めて周囲と交渉しながら業務を進めた経験があるかどうかなどを確認しましょう。
・慎重過ぎる、指示を待ってしまう
広報業務はアンコントローラブルなことが多く、やってもやっても上手くいかないことがたくさんあります。たくさん試さないとなかなか成果までたどり着けません。面接などを通して、過去の業務でのフットワークの軽さを確認しましょう。
ひとり広報は、”目に見えるゴールに向けて明確な指示をもらって、直実に物事を進めるのが得意な人材”は合いません。多少粗削りでも自律的に物事を進めることが好き、得意な人の方が向いていると言えます。
■広報担当者採用が上手くいく会社の共通点
次に、松田の知っている広報担当者の採用が上手くいった会社の共通点をご紹介します。
その共通点はずばり
です。
ある意味当たり前ですが、広報活動を始めることが決まったので、すぐに入社できる人を採用する、大型プロジェクトが始まる3月までに採用するなどと焦って採用すると、なかなか理想的な候補者に出会うことができません。
「自社のカルチャーにもマッチして、求める資質、能力を持った人材と出会うまでは採用しない」くらいにこだわって採用した企業が、採用自体に時間はかかっても満足のいく人材採用ができていると感じます。
余裕を持った採用計画を立て、焦らずじっくり探すのが採用成功のコツと言えそうです。
■せっかく採用した広報担当者が辞めてしまう理由
最後におまけとして、広報担当者が”会社を辞めたくなる理由”についてお話します。
その大きな理由の一つは、
です。
業務上の支障がなくても「会社を愛せなく」なって転職する広報担当者は実際に多いです。
愛せなくなる理由は、「業務目標に納得がいかない」「人間関係」「経営者に対する不信感」などさまざまですが、広報という仕事柄、一度会社に不信感を抱いてしまうと会社をPRすることが苦しくなっていきます。
広報担当者が入社したら、任せたいミッションや期待を明確に伝えるなど、ご本人のモチベーションアップにも気を配っていただけると良いと思います。
以上、広報に向く人、向かない人の違いは何か? ひとり広報の採用ポイントについて解説しました。これから広報担当者を採用予定の企業の参考になれば幸いです。
※その他:参考文献
こちらの本では広報担当者の採用、育成についてさらに詳しく解説しております。
最後までお読みいただきありがとうございました! ヽ(´ー`)ノ
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