【奢られ飯備忘録】本物?!価値観360°転換不可避のチーズとバケツティラミス
たまに、発狂したくて仕方ない夜がある。
大抵それは自分の性格に嫌悪感を抱いた時であるのだが、まさに昨日の夜がそうだった。
私はどうしても「自分なんか」を枕詞に置いて考えてしまう癖があり、そのような思考を無意識的に行ってしまう節がある。自己評価表なんてそれが顕著に現れるもので「自分なんかがいい評価を自分に付けるなんておこがましい」と、自身の頑張ってきた過程から1度目を逸らし自認より一つ下の評価を書き込んだのである。消せないボールペンで書き込んだちょうどその時、無意識的に行っていた思考に気が付き、気持ちの悪い感情に苦しめられる思いに陥った。
認められたい。しかし認められないことが分かっているから、自分が傷つかないように敢えて卑下をする。
自己肯定感が低い訳では無い、と昔の担任に言われたことがある。私に足りないのは自己理解だと、その先生は言った。
確かに自己理解は足りていないだろう。自分の強みなんて分からないし、心に残った出来事すら上手く語ることが出来ない。そもそも成功体験がないからかもしれないが、記憶に強く残る情景を思い浮かべようとすると大抵薄暗く重い色が視界に広がる。
しかし最近は、そのような過去の出来事から自分の自己肯定感はある程度は低いのだろうと感じることが多い。過去の出来事を上書きしたい。そのためにはそれ以上の成功体験を積まなければならないのだろうが、その手立てが分かるはずもなく、私は頭を抱えるしかないのであった。
この日は散歩がてら数駅歩き、六本木に訪れていた。寒すぎない、ちょうどいい気温。高級そうなお店や、やたらに多い車屋を横目に目的の建物へと歩を進める。
六本木に来るのは人生で4回目だ。数年前イルミネーションを友人と見に来たなどで訪れたことがあるのだが、合う人には必ず「ここ初めて来たんです」という。これは六本木に限らず、私は大抵の場所でそう言う。それにより相手に優越感を抱かせてあげたいだけだが、この目論見が上手くいっているのかは、毎度確認のしようがない。ただこの日会った人は私のそのような発言を聞いて年相応だという印象をいだいたらしく、プラスな感情を与えることが出来たようだった。
店に入り、注文を済ませる。大体相手が選んでくれたので、それを待つことにする(ピザを選ぶ時だけ意見が割れたが、お金を出してくれる人の意見を尊重し譲ることにする。)
まず運ばれてきたのは、モッツァレラチーズの盛り合わせだった。私はチーズの中では最もモッツァレラが好きなので、白い塊たちは輝いて見えた。
一つだけ塊では無い液状のチーズがあったが、それは生クリームを配合しているらしい。少し切り分けて自分のところに取っていると、先に食べていた相手が「これ苦手かも」と全てのチーズを私に寄越してきたので、遠慮なく残りの全てを頂く。
モッツァレラと一口に言っても、その種類は多様であるようだった。特に燻製したモッツァレラがとても美味しい。モッツァレラチーズ達を共に運ばれてきたパンに付けても味が良かったため、このチーズの盛り合わせだけ永遠に欲しいくらいであった。
私はチーズはスーパーでしか買ったことがなく、またそれは大抵安いプロセスチーズであった。ピザ用チーズをカレーや鍋にこれでもかというほど入れるのが好きなのだが、もはやこれは一般庶民の象徴として語れるエピソードであろう。私はチーズが好きと言いながら本物のチーズは食べたことがない、にわかチーズオタクだったのかもしれない。
と思うほどに、このチーズの味は格別であった。モッツァレラの味が強く、燻製においてはチーズの裏に燻製独特の味がある。食べる手が止まらないとはこのことで、気がついたらあっという間にチーズは無くなってしまっていた。
と思っていたら、直ぐに次のピザが運ばれてきた(恐らくパパ活だとバレたのだろう店員さんに「提供を早めますか?」と聞かれていた。そんな事を聞かれることが初めてだった私はなんのことか分からず「大丈夫です!」と答えていたのだが、きっと気を回してくださっていたのだろう。)。
ピザはオーソドックスなものであったが、トマトソースにモッツァレラがマッチしていて、とても美味しかった。
ピザを食べていると、ラザニアも運ばれてきた。家でしかラザニアを食べたことがなかった私は初めての体験であったのだが、これも生地とチーズとホワイトソースが合わさってとても美味しかった。
チーズはやはり伸びてくれなければチーズでは無いと思うのだが、ラザニアにフォークを入れ持ち上げた時、高く伸びてくれたのを見て、頬が緩むのを止められなかった。
ピザとラザニアを食べ、少し電話をしてくるから食べたいものがあれば頼むようにと言われた。正直、ご飯系は満足したのでデザートが食べたくなっていた。デザートランを見るとティラミスという文字が並んでいる。
ノーマルなティラミスといちごが乗ったティラミスがあるらしい。どうしようか、とても迷うが、オーソドックスなものもいちごが乗ったものも食べてみたい。気付いたら、ふたつを押して送信していた。
相手が戻ってきて少し経った頃、ティラミスが運ばれてきた。しかしそれを見て仰天した、想像より遥かに大きいサイズだったのである。
ラーメン屋がラーメンを入れるために使うお皿の厚さを半分にしたくらいの皿に、ティラミスがぎっしりと詰められている。いちごの方はノーマルなティラミスの上にドライストロベリーと砕いたチョコを乗せてあるみたいだ。つまり土台は同じだということだ、私は若干後悔した。
相手は殆ど限界を迎えていたため、許可を得て大きなお皿に直接スプーンを差し込む。よく動画で見ていた光景が、今私の目の前に広がっている。
ティラミスといえばマスカルポーネクリームに、コーヒーを浸したスポンジが特徴的であろうが、そのよく聞くティラミスと同じであった。しかし量がわんぱくであるため、食べるにつれ幸福度が増幅していく。
いちごの方にもスプーンを伸ばす。そちらは乾燥させたいちごとチョコが入っていたのだが、それらの甘味や酸味がティラミスの苦味と合わさってとても美味しかった。苦いものが得意ではない私にとっては、いちごとチョコが加わることでティラミスを美味しく食べやすくなった。スプーンが止まらないが、食べても減らないので夢の時間は持続している。
ティラミスをずっと食べたかったのだが、あまり置いている店が少ない印象でなかなか食べられなかった。ここで一生分のティラミスを食すことが出来たおかげか、最近ティラミスを食べたいとは微塵も思わなくなり、今はパンケーキが食べたくなっている。いつかティラミスが食べたくなったら、また一人でボウルを抱えて食べたいものだ。
ティラミスをふたつも完食すれば当たり前だが、食べ終わった頃には満腹でもう何も入らなくなっていた。六本木は木々がイルミネーションで色めき、けやき坂には人が多く詰めかけている。腹ごなしの運動も兼ねて、けやき坂を下り夜風に吹かれながら一駅分の散歩に出かけるのであった。
📍六本木 オービカ
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