「Everything is a museum」有事の際に芸術ができること
先週の土曜日から金沢の街でひっそりと、ある企画が開催されています。
「Everything is a museum」と題されたこの企画は、今年元日に発生した能登半島地震を受け、有事の際における美術館や芸術の意味を問い直す試みとして、21世紀美術館の学芸員であるキュレーターの髙木遊が個人で考案したイベントです。詳しい背景と趣旨については、震災発生時に美術館で開催されていた企画展に出展していた作家のひとり、小松千倫の投稿を読んでみてください。
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IACKとして参加依頼を受けた当初は、どのような立場で携わるべきか答えが見つからなかったため、すぐに返答をできませんでした。自分は美術館の人間でもなければ中止になった展示に携わっている当事者でもないので、単に場所を貸したところでどの立場から作品について語るべきか分からなかったからです。しかしギリギリのタイミングで互いの意向が合致するポイントが見つかり、プログラムのひとつとして、また写真家として参加をさせていただくことになりました。
IACKでは「Everything is a museum」の会期中、「写真ハルキウ派とボリス・ミハイロフ」展を開催しています。
この展覧会は、昨年パリのブックフェアで一冊の作品集を手に取ったことがきっかけとなり構想しました。その時点では作者がウクライナの作家であることはおろか、ハルキウ派という言葉も知りませんでした。実は去年の年末には作品集が手元にあったのですが、単に出版社の解説を翻訳して掲載するだけでは不十分であると感じ、出すタイミングが見つからないまま時間だけが経過していました。そんな中、批評誌ゲンロンの最新号に、ウクライナを代表する写真家のボリス・ミハイロフとハルキウ派に関する論考が掲載されることを知りました。この機会を逃してはいけないと思い、時間はありませんでしたが急ピッチで準備を進めました。
今ウクライナと聞くと、どうしても戦争や反戦のイメージと結びついてしまいます。しかし経緯を述べたように、当展は戦争をテーマにした展示ではありません。(戦争は反対だし、ロシア政府のやっていることは許されないことだと思います)
わざわざこのように明言するのは、その印象のもとで物事を見てしまうと、ウクライナに関するあらゆることが政治的なものに置き換わってしまうからです。そもそもウクライナといっても広く、戦地になっている場所もあればこれまでと変わらない生活を送っている場所もあります。どれだけ不安定であろうとそこには非政治的な日々の営みがあるはずだし、むしろそのような状況下でいかにミハイロフをはじめとする作家たちがユーモアを忘れず表現を行ってきたか、そして芸術や創作活動がどのように機能してきたかに目をむけることは、今回の震災はもちろん、今後何かが起こった際の芸術の意義を考えるきっかけになるのではないかと思います。そのためにも先ずは他の作品集と同様に、フラットな視点で彼らの作品を手に取ってもらいたいです。
そして写真家「河野幸人」としては、今回のイベントに合わせて出版されたカタログに写真作品を寄稿させていただいております。写真は町中に点在する展示会場を半日かけてぐるりと歩きながら撮影した内容で、先日展示で発表した「ランドスケープ・マニュアル」の流れで生まれた作品です。全会場を徒歩で回ろうと思うとかなり時間はかかるのですが…今回のテーマについてなんとなく考えながら街を歩くと、見慣れた街の中で多くの発見があり楽しいと思います。金沢のアートスペースのガイドブックとして、また今回の企画の手引きとしてぜひ手に取ってみてください。300部限定、3,300円で店頭で販売中です。
能登に限らず大きな災害や事件が起こった場合、当事者を除いて、そのイメージは強固なものとしてその場所のあり方に影響を与え続けます。ぼくは、写真はイメージを作り上げたりその在り方を強固なものにしてしまうけれど、一方でイメージを解体して、イメージを組み替えることで新たな可能性を模索したり、在り方を変えられることに魅力を感じています。昨年出版された写真集『The Cliff』や『ランドスケープ・マニュアル』をはじめとした作品はその実践であり、今回企画したハルキウ派の展示についても同様の考えがあります。
以上、長々と書きましたがこれはあくまでぼく個人の考えです。各々が各々のスタンスで参加しておりますので、詳しくは各会場で色々と話しを聞いてみてください。Everything is a museumに参加するすべての会場が同時に営業する日は、残すところ6月15日(土)と16日(日)、21日(金)の三日間。金沢のさまざまなエリアやスペースを見て回るのに絶好の機会となりますので、県内の方はもちろん、県外からもぜひご来場ください。詳細は冊子に掲載されておりますので、まずは会場で冊子を手に取っていただき、ぜひ展示中の作品集と合わせてお買い求めください。
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