【SS】本の虫
「本の虫」と男は呼ばれていた。
あまりにそう呼ばれすぎた彼は、次第に自身のことを虫だと認識するようになった。自分は仲間より大きい虫なのだと信じ始めた。
虫のように地を這い、草を喰らうようになった。
鳥を見ると異常に怯えるようになった。
皆はそんな男を見て、気が触れたのだと言った。本の世界に魂を奪われたのだと嗤った。
冬になり、男は家から出てこなくなった。
皆、彼は死んだのだと噂した。失踪したと言う者もいた。神が彼に興味を持って連れ去ったのだと言う者さえいた。
春になり、男は突然に姿を現した。その背には、極彩色の大きな翅があった。
「言葉は、本は、素晴らしい!私はこうして翅を得て、大空へと飛び立つのだ!」
男が空へと羽ばたくたび、言葉は鮮やかな鱗粉となって舞い上がった。男に向けられた中傷も、遥か昔から伝わる民話も、凄惨なミステリ小説も。等しく言葉の鱗粉になった。
男は遥か遠くへと飛び去った。彼は狂ったように本の名を叫び続けていた。たった一冊の本の名を。
数日の後、気味悪がった村の住人たちは男の家を焼いた。
すべてのものが火に包まれたが、男がその名を叫び続けた本だけは、煤のひとつもつかずに焼け残った。
今でもその本は、小さな島国のどこかにあるという。
了(518字)
あとがき
僕も本の虫です。
とはいえ、最近は前よりは読んでいない。執筆(言ってみたかった!)に時間をかけすぎているのだろうか…。
いや、推し活か。
まあいい。楽しみにしてる本もあるから、ちゃんと読む。書く方もがんばる。今、ものすごく体が重い。オチが思い浮かばないので、そろそろあとがきをやめる。またね。
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