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【SS】あの場所へ

「高瀬さんが来週転校することになりました」
それまで新作ゲームのことを考えていた僕の耳に届いたのは、あまりにも悲しい知らせだった。ちらりと高瀬さんを見ると、一瞬だけ目が合った。

高瀬さんを好きになったのは、去年の文化祭準備期間だった。
僕たちの中学は夏休みの直前に文化祭がある。
耳をつんざくほどの蝉時雨の中、模擬店の準備をしながら僕たちは毎日話をした。それまでただのクラスメイトだった彼女は、いつの間にか大切な人になっていた。


「高瀬さん」
ホームルームの後、僕は彼女を呼び止めた。
「……明日の朝『あの場所』で待ってる」
そう言うと高瀬さんは走って行ってしまった。
雑踏の中に立ち尽くし、僕は『あの場所』とはどこか考えていた。


次の日朝早くに、僕は自転車を走らせた。
一晩悩んだ僕に、たったひとつだけ浮かんだ答えがあった。
高瀬さんの言う『あの場所』、それは彼女が以前暮らした町の展望台に違いない。文化祭の準備の間、何度も彼女が口にした思い出の場所。
ペダルを力強く踏みしめた。冬の空気が指先を冷やす。
…もし違ったら、僕の恋は今日で終わり。


坂道をようやく上り、僕は展望台『ひなたの丘』にたどり着いた。
そこに高瀬さんはいなかった。
僕は間違えてしまったのだろうか。
朝日が僕と自転車を照らして影を作った。
この冷たい空気の中、僕を待っている高瀬さんを想った。僕は肝心なところで間違ってしまった。彼女に寂しい思いをさせてしまった。

今からでも、他の場所を探そう。
引き返そうとした僕の視線の先に、立ちこぎで坂を上ってくる高瀬さんが見えた。
「高瀬さん!!」
めいいっぱいの大声で、一番大切な人の名前を呼んだ。坂道を駆け下りる。
高瀬さんは自転車を停め、僕を待っている。

「…早かったね」

「ずっと、言いたかったことがあるんだ」

高瀬さんの視線の先に、朝日が見えた。
僕たち二人の影が長く伸びて、次第にひとつになった。




あとがき

こんな恋愛したことねえや。


「高瀬」は日向坂46の高瀬愛奈たかせまなさんよりお借りしました。まなふぃ。
勉強熱心でさまざまなスキルを身につけていくまなふぃは、僕にとって憧れの人物である。アイドルとしての輝きはもちろん、このままだとまなふぃは超人になるのではないか。これからもその輝きを見ていたい。ずっと応援してます。寒いのでお体に気をつけて。

中学では失恋しかしていないので(片思いから振られることしかなかったので)、これは完全に僕の妄想です、はい。
そもそも精神的にアレになってから、恋愛への意欲は死につつある。うっすらした感情は、そのまま消えていくのみだ。それに

推しへの愛さえあればいい。


でも、『耳をすませば』とかきゅんきゅんする、未だに。年甲斐もないと言われそうだ。でも、いい。

僕も高橋一生に「雫!!」って呼ばれたい(冗談)


冗談のほうが多くなってきたあたりで、この記事を終えることにする。
本編もあとがきも、楽しんでいただけたら幸いである。

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ナル
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