惑星開発【うたすと2】
真っ白い部屋の中で、僕は君と向き合っていた。
「やあ。」
二人の声が重なり、響く。二人の間にあるテーブルの上で、ビッグバンが起きた。瞬く間に時は過ぎ、そこに小さな惑星が生まれた。
君は僕にキスをした。唇が、ひどく冷たい。僕はそれを振り払い、君を睨んだ。
「…また、繰り返すのか?」
「『また、繰り返すのか?』」
テーブルの上で、人が生まれ、争い、死んでいく。
僕らのことを『アダムとイブ』と呼んだ人間がいた。『伊奘諾尊と伊奘冉尊』と呼ばれたこともある。『ウラノスとガイア』、『ユミルとアウズフムラ』、『マルドゥクとティアマト』、『シュウとテフヌト』…人は容易く、神を生んだ。
『惑星開発キット』を手に入れて、僕らは惑星の支配者になった。幾度も惑星を誕生させ、人間を繁栄させた。そして、幾度もそれは滅んだ。争いで、疫病で、悲観で、傲慢で、それは簡単に壊れた。
「頼む、もう元に戻ってくれないか。」
「『頼む、もう元に戻ってくれないか』」
君はシステムエラーを起こしている。僕の言葉を繰り返すだけの存在になってしまった。僕たち二人がそれぞれの合言葉を言わないと、惑星開発キットは止まらない。テーブルの上の死を、僕はもう見たくなかった。
「…どうしたらいい?」
「『どうしたらいい?』」
僕の言葉を繰り返すだけ。繰り返すだけ。
……本当にそうか?
僕はさっきの出来事を思い出していた。僕はしていないキスを、君はした。『繰り返し』じゃない、唯一の行動。
君を見た。少しだけ首をかしげ、僕にキスをした。
僕は手をとった。指を絡め、つなぎ合わせる。そうしてほしいと、君が願った気がした。
部屋に虹がかかる。
雷と、突風。
そうして、部屋は闇に包まれた。
キットの地球では、戦争が始まった。何度目の大戦だろうか。
「Simply…」
僕は呟いた。君が笑ったのが、暗闇でも見えた。
「Sympathy」
君は、合言葉を言った。僕は大きく息を吸ってから、最後の合言葉を言った。
「Symphony」
二人の声が重なって、地球の活動は停止した。
部屋はまた、明かりを取り戻した。
「やっと…終わった。」
「…あれ、私…。」
君はシステムエラーから解放されたようだ。僕は安堵し、君を抱きしめた。
「もう、惑星を育むのはやめよう。」
僕が言うと、君はすべてを察したようで、微笑んで言った。
「私たちだけがいればいいものね。」
そう、二人でいればいい。
死を繰り返す星の神になんてならなくても。
了(1019字)
#うたすと2
こちらに参加させていただきます。
あとがき
神話とSF足してみた。
神様がカップルとか、うらやましくてしょうがないんだけど、ちょっと腹立たしい感じもする。世界をどうにかしろ、イチャイチャするな!と叫びたくなる……のは僕だけだろう、きっと。普通のカップルにも叫びそうになるし(冗談)。
こちらの曲を元に発想しました。
名曲。
それなのに小説はこんなん…。自分の腕を呪いそう……。
フライングOKと聞いて、「やったるで!」と思ったが、もう少し熟考すべきだっただろうか。これでも、頑張ったんですぜ…?
『Simply』でもう一回書いてもいいのだろうか。リベンジしたい。
もちろん他の名曲を元に発想した小説も発表する。こんな僕の作品を待ってくださる方がいるなら、もう少々お待ちを。