【空想エッセイ】昨夜の話(1)
何も書けない。
今日は何をやったってだめだった。
行こうと思ったお気に入りの店は臨時休業。通行人によくわからない理由で舌打ちされて、睨まれた。書こうと思ったテーマの小説で、ものすごくいいものを見つけてしまって自信喪失…。
なんだって、こんなにうまくいかないんだろう。
ノンアルビールを流し込んで、窓越しの夜空を見た。
空を、妖怪たちが駆けていく。
ああ、そうだ。今日は百鬼夜行だった。すっかり忘れていた。窓を開け、おぅいと呼んでみた。一つ目小僧がこちらに気付いて寄ってきた。
「ああ、ナルさん。どうしたんだい?」
「今日はこれをあげるよ。少し愚痴ってもいいかい?」
僕はコンビニで買ったあたりめを手渡した。
「ここのあたりめ、美味しいんだよね。みんなー、ナルさんが愚痴りたいって言ってるよ。」
すぐに夜行やぬらりひょんもやってきた。
「おや、ナル。また愚痴りたいのか。」
ぬらりひょんが言う。彼はあたりめより饅頭のほうが好みだ。買ってあるものを渡す。夜行はビールのほうがいいか。買い置きを渡す。
「俺はアサヒ派だよ。これどこの?」
「あー、アサヒ今ないや。ベアレンも美味しいよ。盛岡のうまいビール。」
「そうなのか、楽しみだ。」
「んでさ、愚痴ってなーに?」
一つ目小僧が言った。ああ、そうだ。愚痴るんだった。
「最近、noteで『これだ!』ってエッセイが書けなくてさあ…。」
「note…ああ、お前が住んでいる、物書きたちの魔窟か。」
ぬらりひょんがスマホを取り出し、僕のページを開く。
「…たしかに、大当たりしてはおらんのお。それにしてもナル、この…日向坂46?の子達の名前がお前の作品にはよく出てくるのお。」
「推しだからね。かわいいんだよ。」
「『推し』とは何だ?妖怪か?」
夜行が言った。すでにビールは空になっている。
「夜行さん、ペース速すぎ。はい、これ。」
「おお、ありがとう。うまいな、べあれん。」
「推しってのは、んー…好きなタレントっていうか、生きがいっていうか。」
そうなんだー。そう言って三人は頷く。
ひょんなことから、彼らと友達になって二ヶ月。僕はこうして、さまざまなことを愚痴っている。お菓子やビールは、あってもなくてもいいそうだが、せっかくなのでいつも用意している。
「それにしてもお前のエッセイは、閲覧数が微妙じゃのう…。」
「うーん、そうなんだよね…。どうしたらいいかな?」
「ナルさん、エッセイもだけど、小説もビミョーだよ!」
一つ目小僧が笑った。夜行も同意する。
「そうなんだよなあ…。」
僕はため息をついて頭を抱える。
「他の作品のアイデアを使えばよかろう、ほれ、解決じゃ。」
「ぬらりひょん、それ『パクり』って言うんだよ。駄目なの。」
「む、そうなのか…。」
夜行はいつの間にか座り込んで、僕のnoteを読んでいる。目がすわってきているようだ。一つ目小僧も読んでくれているが、わからない漢字があるみたいで、何度も夜行に訊いている。
「どうしたらいいかなあ。」
「ナルよ、解決策はない!」
夜行が叫ぶ。完全にできあがったようだ。
「書いて、書いて、書きまくれ!そうすれば、いつかは人気が出る!」
「…そう、かなあ?」
「いや、あながち間違っておらんよ。」
ぬらりひょんが言った。
「書いているうちに、おのずと見えてくることもあろう。はるか昔の世を生きた文豪も、そうだった。悩みながらも書いておったわ。」
「ぬらりひょん…。」
僕は感動していた。文豪たちも僕と同じように、悩み、苦しんだのか。
「ありがとう、僕頑張ってみるよ!」
「解決だね!」
一つ目小僧が笑った。夜行も、ぬらりひょんも大喜びしている。
「そろそろ行かなきゃな。」
夜行が立ち上がる。
「また来てくれるかい?」
お土産を渡しながら、僕は尋ねた。
「もちろん。友達だからね!」
「そうそう、次もベアレンのビールな!」
「ナル、お前の『推し』にもよろしくの!」
そう言って彼らは去って行った。
「…いや、僕は日向坂と知り合いじゃないんだって…。」
妖怪パワーで日向坂46に会わせてくれよ。そう言って夜空を見た。
「さあ、書いてみるか!」
僕はそう言って、パソコンに向き直った。
了
あとがき
これ、昨日の実話です。
え、だから、
これ、昨日の実話ですって。
…そういうのはいいって?
まあ、ご覧の通り、創作である。
作者である僕、ナルと妖怪が知り合いというイメージで書いた。空想エッセイといったところか。
これはこれで楽しいので、シリーズ化しようと思う。妖怪たちも皆様に愛されたなら、友達として幸いだ。
今晩、窓から夜空を見てほしい。きっと彼らが手を振っているから。