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18歳、立ち話

18歳で僕は地元を離れ、盛岡での一人暮らしを始めた。
そのときの出来事は、今までもぽつぽつと書いてきたが、昨日ふと思い出した18歳の記憶について書こうと思う。

18歳で僕はさまざまな「初めて」を経験した。
初めての彼女、初めてのキス、そして、忘れられないのが
「初めて宗教に勧誘されたこと」
である。今思い出しても、ちょっとむかむかする。
ことわっておきたいのは、宗教を否定するつもりはないということ。
生活に密接していたり、心の支えになっていたり。そうしたことを否定するつもりはないです。

あれは、大学に入学して一ヶ月も経っていない頃であった。
その日は4月にしては暑い日で、午後になっても気温は下がらなかった。僕は、講義を終え、大学近くのスーパーに買い物に向かっていた。
スーパーの中に入る。生鮮食品を扱っているため、涼しい。それがその日はとても救いだった。
何を作ろうかな。僕は並んでいる食材をぼんやり眺めながら歩いた。18歳で始めたことのひとつが料理だった。親子丼か何かから始めて、それなりに上手くできて調子に乗っていた。大学出たら料理の道を目指すか、とか軽々しく思っていた。井の中の蛙は、大海どころか近所の池すら知らなかった。
そんな僕の目に入ったのは、特売の豚こま肉だった。安い。余った分は冷凍すればいいから、今日は豚肉使って何か作ろう。そう思って買い物かごに入れる。何種類かの野菜と、ガリガリするソーダ味のアイスを買って、僕は外に出た。
そのスーパーから僕の家までは、どう歩いても10分かからない。アイスは帰ってからでいいな。僕はそう思っていた。
鼻歌を歌いながら歩く。一人暮らし、やっていけるかも。
「あー、そこの君。君!」
少し驚いて振り返ると、そこにはネクタイとシャツを身に纏った二人の男性が立っていた。
「俺、ですか?」
返事をしながら頭を回す。
警察か?いや、やましいことなど何もない。せいぜいときどきスケベなサイトを見ているくらい。犯罪などしていない。
悩むうちに、僕の頭に神の声がした。
もしかして、スカウトか?
ついに芸能界デビューか、俺。そう思った。AKBとかと共演したりするのかなあ。脳内は一瞬で甘い妄想に満たされた。そんな夢は、一瞬で消えるのだが。
「僕たち、○○のほうにある教会の・・・」
そこから先はよく覚えていない。なんだ、宗教か。アイドルと共演したかったなあ。逆玉の輿とか実際にあるのかなあ。僕はもう既に、妄想に旅立っていた。
「君、大学生?出身は?」
妄想の合間に質問が聞こえた。面倒だなあ、適当にごまかしたい。ジンバブエとでも言おうか。
そこで再び、僕の妄想が活性化する。
これは、宗教の勧誘という体の、スカウトか?
どういうリアクションをするか、チェックしているんじゃないか?

きちんと答えよう。僕の頭はいつにないほどフル回転した。受験シーズンよりもしっかりと働いていたと思う。
僕は出身についてきちんと説明した。人口、特産品、よいところ。もはや地元のプレゼンテーションである。今からでも地元PR動画に使えると思う、あれ。
宗教の勧誘の人たちはややひいていたが、僕の攻撃は「ガンガンいこうぜ」しか存在していなかった。恋愛もそれで失敗しているというのに。「いのちをだいじに」を選ぼうと、今なら思う。
「・・・そうなんだ、僕も出身県が一緒だよ!」
宗教勧誘Aが言う。ガンガンいこうぜ、再びその選択をする。
「ほんとですか!?ちなみにどこですか?」
「・・・えっと、○○市。」
読者の皆さんはお気づきだろう。宗教勧誘Aは、ただ話を合わせに来ただけである。我が地元の県庁所在地に関する知識など、ないに等しかった。だが、僕は「ガンガンいこうぜ」しか選択しない。スカウト、アイドル、逆玉の輿。多分、このときの僕の目は、恐ろしかったと思う。
そこから、僕の地元語りが始まった。合間に勧誘員AとBは必死の勧誘をする。あまりにしつこい勧誘に、さすがの僕も違和感に気付いた。
これ、本当の宗教勧誘?
最初から本当の宗教勧誘である。嘘偽りなかった。
急速に僕の興味とテンションが下がっていく。
「・・・帰ります。」
踵を返した僕を、AとBが引き止める。こんなことなら、最初から話さなきゃよかった。ジンバブエって言えばよかった。
なおも食い下がるAとB。僕は舌打ちをして、大声を出そうとした。そのときであった。
「おめだぢ、またかあああ!」
(「おめ」は「お前」、「だぢ」は「達」)
見ると、近所のおじさんであった。作業に用いていたであろう工具を片手にこちらに向かってくる。ずんずん、と効果音がついていたように思う。そのくらい迫力があった。
おじさんはAとBに何かしら怒鳴った後、僕に早く帰るよう促した。どうやら、この宗教勧誘は毎年のことらしい。おじさんが英雄に見えた。
おじさんは帰りがけ、僕にこう言った。
「豚肉、だめになったんでねえか?」
そうだ、スーパーの帰りだった。僕は思い出した。おじさんに頭を下げ、急いで帰る。
アパートの自室に入って、食材を確認する。4月にしては暑い日であった。野菜はともかく、豚肉は恐ろしいので使えなかった。ソーダ味のアイスは、液体になっていた。開封する。棒を見る。はずれだった。

以上が初めての宗教勧誘体験である。
いつ思い出しても、あの豚こま肉とソーダ味のアイスのことでむかむかする。そして、なぜあれをスカウトと思ったのか。当時の僕の脳内が、不思議でたまらない。それにしても、あのときの近所の方、ありがとうございました。

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ナル
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