不眠症浮袋【毎週ショートショートnote】
医者は真剣な面持ちでレントゲン写真を見てから、僕に向き直った。
「ナルさん、あなた浮袋があるよ」
うきぶくろ、と言葉にしてみた。そうだったのか。だから、周りから浮いていたのか。
「これね、切除できる。そうすると不眠症も治るよ。”不眠症浮袋”って名前の、立派な病気」
なんと。予想外の嬉しさに僕の心は飛び跳ねた。
「でもね、ウキウキするようなこともなくなる」
「え?」
「ウキウキできなくなるし、浮いた話もなくなる。金が浮くってこともなくなるし、勿論カナヅチになる」
それでもいい?と医者が訊いた。僕はすぐさま
「手術やめます」
と言った。もともとカナヅチだけど。
「そうだよね。はい、今回のお薬」
そう言って処方箋を僕に手渡した。
「浮いた話くらい欲しいよね~」
医者はそう言って、僕を送り出した。
帰りがけ、好きな人へのお土産を買った。喜ぶ顔を想像して、僕の心は浮き足立っていた。
「ママ、あの人浮いてる!」
そんな子供の声が聞こえた気がする。
了(406字)
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あとがき
半実話ショートショート。
…いや、冗談だけどね。こんな浮袋取るだけで治ってくれたらいいなあ、という淡い願望を込めた作品となっている。
まあ、仮にあったとしても、浮いた話のために手術は見送る。
なお、僕がカナヅチで不眠症なのは本当。浮いた話は……
はい、今日はここで終わり。
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