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「ねえ、聞いてる?」 友人の声に顔を上げる。とっさにスマホの画面をこちらに傾け、相手には見えないようにした。 その仕草に、友人は何かを察したようだった。ため息をつく。 「またマッチングアプリ?」 そうだよ、と軽く返事をする。 で、何の話だったっけ?と、私はとぼけてみせた。 「ほら、テレビでやってんじゃん。あの動画配信の人」 ああ、と言いながらネットでその記事を探す。 隣の市で19歳の女性が遺体で見つかった事件。その現場で発見前に撮影していた動画配信者が自首した。殺害について
俺が怪奇系の動画配信者になって、2ヶ月が過ぎた。 最初こそ怖いもの見たさで見てくれた人もいたが、再生数はどんどん減っていく一方だった。 それもそのはずだ。怪奇現象が起きないのだ。 廃工場、廃校舎、墓から病院までありとあらゆる所に行ったが、何も起きはしなかった。何も起きない怪奇動画など、ただの廃屋の映像に他ならない。 動画のコメント欄には、ここ最近はずっと辛辣な言葉ばかり。 「配信辞めてしまえ」とか「呪われてしまえ」なんてのもある。 ――路線変えようかな。 俺は悩んでいた
その日、俺はひどく疲れていた。 外回りに出た途端豪雨に見舞われたり、取引先に理不尽に怒鳴られたり、本当に散々だった。 マンション3階の自室に帰宅したのは、午後11時を過ぎたあたり。明日は休みだが、もう酒を飲む気力すらなかった。 スマートフォンを見て、仕事関係の連絡が入っていないことに安堵した。転職を真面目に考えよう。激務で心は疲れ切っている。 午前0時を回ろうとしたあたりで、好きなアイドルの新曲が明日から配信になることを思い出した。もうすぐ0時だし、配信買ってから寝よう