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自作小説集

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長いものからショート作品まで、いろいろ書いてみます。怖い話って書いてても怖いよね。
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#SF

釜揚げ師走【毎週ショートショートnote】

閉店間際のスーパーの売り場で、釜揚げ師走を見つけた。 「やっと…あったー!」 私は釜揚げ師走を天に掲げた。これで私たち家族は年を越せる。 2024年を境に、12月が来なくなった。 学者たちが調べたところ、時空の歪みにより12月だけが結晶となってしまい、その結晶を摂取しなければ12月、果ては次の年を迎えられないことが判明した。 私たち家族はずっと2024年にいた。 何度も繰り返した11月も今日で終わりだ。 時空が歪んでいる割に、成長や老化は止まってくれなかった。 息子は

【SS】Loopする彼【イメージ:二次創作】

凡造、と名前を呼ばれて僕は振り返った。 沙綾が僕を見つめて立っている。白愛大学の構内。 僕は何度この光景を見ただろうか。 他の誰も気付いていないことだが、僕らは同じ『今日』を繰り返しているようだ。 十回目までは数えていたのだけど、途中で飽きてやめた。 タイムループというと狂う人がいたりするのがフィクションの定番だけれど、僕には案外居心地が良いものだった。 最良の『今日』を見つけるため、さまざまな選択肢を試してきた。実を言うと、僕の行動が世界を滅ぼすパターンもある。何度目かの

【SS】違法クローン【ボケ学会】

かつて都市伝説として有名になった『ドッペルゲンガー』をご存知だろうか。自分そっくりの人間に出会うと死んでしまうという話。 22世紀中盤になって、人間のクローン作成は珍しいことではなくなった。自分の記憶を引き継がせる者、単に労働力として採用する者…さまざまな用途にクローンは使われた。 大手のクローン制作会社”CH”が違法クローンを作成していたとわかったのは、そんな時代の最中である。 「うわあ…見たくない」 警察からの連絡を受けて、僕は工事現場の映像を見ていた。僕のクローンは

【短編】食卓と惑星

「僕ね、故郷の惑星に帰らなきゃいけないんだ」 二人で夕ご飯を食べているときに、君は申し訳なさそうにそう言った。 今日のメニューは君の好きなとんかつで、私は今日の出来に自信があった。いつもより上手く揚げられたんだ、と言うつもりだった。 君が私の家に来たのは、10年前だった。当時話題になった流星群に紛れて、君は宇宙からやって来た。 犬とも猫ともつかない奇妙な姿の生き物。その上、空から降りてきて間もなく、たどたどしい日本語を話し出した。 間違いなく、宇宙人だ。私はその生き物を抱え

VBR【うたすと2】

図書ブースに並んだ、数多の本。 どれを今日の相棒にしようか。先ほどから悩んでいた。 視界の片隅にあった一冊の本『風雷の歌』。ぱらぱらとページをめくってみる。今日は、ここに行ってみることにした。 VBR装置に『風雷の歌』をセットする。 VBR(Virtual Books Reality)。本の内容を装置に読み込ませることで、その世界をリアルに体験できる、最新鋭の『読書』だ。音声で読み上げるだけではなく、VBRの中に、その本の世界が構築されるのだ。 作動音がする。0と1の羅列

【短編】彼は、やってきた。

瑶季はそれを見て、とっさに身を隠した。 ここ数日雨も降っていないのにあった、大きな水たまり。そこから、人が出てきたのだ。 宇宙人、幽霊、それとも、地底人? 瑶季の奥歯は、カチカチと音を立てている。 水たまりから出てきたのは大柄な男だった。辺りを見回している。 何かを探しているのかな、それとも、見られたくなくて警戒しているのかな。 見つからないうちに、ここから逃げよう。そう思い、後ずさりした。 そのとき、足元のガラス片を踏んだ。ぺきっと音がした。 男は、こちらを振り返った。

【短編】彗星

君が眠りに就いて、六千と二十九日が過ぎた。 ひどく長い時間だった。たったそれだけのことだ。僕は今日も、君の何一つ変わらない頬に触れる。19歳の頃と、変わらない。たくさんの医療機器と繋がっていることを除けば、何も。 極めて稀な病気です。 この病気になると、人間は歳をとらなくなります。 その代わりに、ある日を境に眠りに就いて、目を覚まさなくなります。それぞれの症例によって期間は違いますが、永久に目を覚まさないこともあります。 きっかけとなるような出来事で目を覚ます場合もあります

【短編】缶チューハイ

冷蔵庫の缶チューハイの中に、見慣れない缶があるのに気付いた。 こんなもの、買っていたかな。白い缶に青い文字で「Time」と書いてある。きっと、この間の家飲みのときに、友人の誰かが買ってきたのだろう。いつも買っているものに飽きていた僕は、ちょうどいいから飲んでみることにした。 リビングの椅子に腰掛け、テレビをつける。もうすぐ、いつも楽しみにしているバラエティの時間だ。CMをぼんやりと見ながら、缶を開けた。口に入れると、氷のように冷たく、不味い。飲み込んで、缶を見る。 「なんだ

【ショートストーリー】忘却隊

「それ」が遥か遠くの宇宙からやって来たのは、2024年の暮れのことであった。 「アフリカ大陸南西部に宇宙船が飛来した」というニュースに誰もが驚きを隠せなかった。各国宇宙機関の「監視」をかいくぐって突如として現れたからだ。 アフリカ各国、米国、中国、ロシア、そして日本。ほぼ全ての国から代表団が派遣され、宇宙船の乗組員との対話が計画された。 会議が始まったことがニュースで伝えられた頃には、代表団は全滅していた。 たった一体の宇宙人であった。 30本近い触手を持った、人型の宇宙人