【ショートストーリー】柴犬と珈琲
僕が初めて栞さんに会ったのは、通り雨から逃れるために入った喫茶店だった。
栞さんは座り込んで、柴犬の顔をむにむにと揉んでいた。僕のほうを振り返った栞さんは、化粧っ気のない一重まぶたをこすりながら
「君もゴンをむにむにするか?」
と訊いた。ショートカットの髪は黒く、毛先が青色に染められている。空色のブラウスにブラックデニム。爽やかそうな人だな、と思った。
「このお店の犬ですか?」
僕は栞さんの隣に立ち、ゴンと呼ばれた犬を見下ろす。くりくりとした目に、やや間の抜けた顔。「愛らしい