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石の話をしよう(翡翠編)

まだ暗いうちに起き出してみんな無言のまま支度をして1台の車に乗り込む。
夏の終わり
朝の空気は少しだけ涼しい
一番近いガソリンスタンドに寄り、ガソリンを満タンにしてタイヤの空気圧を見る。
本日のメンバーは3人
私と主人、居候がひとり
30歳の甥がハタチの時に学校の事で親と喧嘩して家に来てからなんでかずっと家にいる
名を快といい、私たちは普通にカイ君と呼んでいる

高速に乗り、目指すは日本海
生え始めたススキが朝の日差しにキラキラと輝いている
自然は不思議だ
まだまだ暑いのにススキや萩が咲いている。
秋の気配
車の中ではなぜか嵐がかかっている
懐かしい感じが良い
車は富山を目指して走る
今回のトレジャーハンティングのお目当ては『ひすい』
言わずと知れた日本の国石
世界最古の宝石

今の日本では勝手に鉱物を採ることは犯罪になる
土地の所有者に許可を貰うか、ツアーのようなものに申し込むか。
昔は王侯貴族の趣味だったもの
鉱物採集
50年ほど前までは採れるところも今よりずっと多かった。
今、鉱物採集できる数少ない場所のひとつ
目指すはひすい海岸

「いい?
ヒスイは緑色のイメージが有るでしょ?
そんなものは

宝くじに当たるようなもんだ

いくら有名なひすい海岸だとしても通って通って通って見つけるようなもんだ。」

私の先生はそう言う

「まず、ひすいは硬い。
だから四角くて白い石を探す」
だそう
「緑の綺麗な石を探していても見つからないぞ」
ひすい海岸には緑の石はたくさんある
狐石に惑わされていると本物には辿り着かない。
「知識があっても見つけられない。拾えば拾うほど分からなくなる、それがひすいだ」
富山から新潟に北上しながらいくつかの海岸に寄っては拾う
そして拾えば拾うほど本当にどれが『ひすい』なのか分からなくなる
「これはどうかな?と思ったものは拾う。それが一番の近道」
あくまで初心者の話
ひすいの拾える海岸は砂浜ではなく石が大きい
でも力強い波はその石を持ち上げる
なので波の音プラスたくさんの石がぶつかる音がする
その特徴的な音がひすいを拾いに来たんだなあと感じさせる
何も遮るもののない水平線
未だジリジリと肌を焦がす日差し
「暑くなりそうだな」
「おーー!日本海だー!」
カイ君は嬉しそう
私はタオルを頭に乗せて自分の欲の赴くまま、石を拾う
白くて…、角ばっている…
これか?
違う?
疑わしいものは一旦海水に浸してみる
濡らすと緑が浮き上がってくるものも有るから
これかも!と思ったものはリュックに
相変わらず主人は濡れるのも構わず波打ち際で拾っている
カイ君は早くも飽きて座り込んで石を海に投げ込んで遊んでいる
海岸には同じようにひすい目当ての家族連れやデート中の人、中にはウエットスーツを着込んで自作の器具(棒の先に金網を仕込んだもの)を持ったプロも居る
よーし、負けてられないぞ

ひすい海岸の近くではひすいの関連施設が点々と有ってそこに鑑定してくれるお年寄りが居る
早速海岸で30個ほど疑わしい石を拾い、お爺さんのところで見てもらう
「これは火山岩、これは蛇紋岩、これはうーーーーーん、何かなあ…」
5個程見て貰ったら心が折れる
ひすいを見つけた!と思って拾っているからどれもひすいじゃないと言われるといたたまれない気持ちになってしまう
「ありがとうございました…」
ペシャンコに潰れてしまった心を抱え
それでもまだまだ今日のハンティングは始まったばかり

よし、次に行こう

次に寄ったのは親知らず
芭蕉も歩いたというその海岸に行くためには崖に沿って縫うようにジグザグに作られた階段を下っていく
狭い海岸に着いたときには膝が笑っていた
そんな事はおくびにも出さず、またひすいを探し始める
白い石を探しているので水晶は良く見つかる
結晶の形をしていないのでメノウというか石英というか
実はここではコランダムも見つかると言われている
コランダム、サファイアかルビーか
ここで見つかるのは不純物の混ざったものなのでそんなにキレイなものではない
六角形の形の石だ
とにかく帰りはまたあの階段をひたすら登っていかなければいけない
暑いし
ここで収穫がなければ夢も希望も無い

とかく鉱物採集はきつくて辛くて危険が付き物だったりする
それでも続けるのは収獲する喜びだろうか
なんでか、楽しいのです

さて、拾ったものがひすいかどうかはわからないけれど
戻りましょう

そんな調子でその後もいくつか海岸を巡り、ひすいと思しきものを拾ってリュックに入れるを繰り返し
ひすいに関する展示施設を周り
もちろん、ひすいを鑑定して貰う気にもなれず
へとへとになりつつ家路に着く
その日はそのまま就寝

翌日、朝からダイニングのテーブルの上に拾ってきた石を全部出し
先ずは見た目、それから透過性をみるためにスマホのライトで照らしてみる
それから磁石を近づけてみる
くっついたら蛇紋岩
いろいろやってみる
まあ、それでもわからないんだけどね
はははっ
笑いしか出ない
最終手段として比重を調べてみることにした
家にはキッチンスケールしかないからコンマ5単位までしか計算できないよ
それでもやってみればわかることがある
ペットボトルを用意して上から3分の2あたりでカット
それに水を満たして置く
測ってみたい石にタコ糸で吊るせるように巻く
糸ごと石の重さを測り、
水の入ったペットボトルをスケールに乗せてその重さを0にして石を浮かせて入れる

 『石の重さ』÷『水に浮かせた時の重さ』=比重

ひすいの比重は3.2くらいから
今は硬玉(ひすい輝石 ジェダイト)がひすいと呼ばれている
けれどちょっと前まで軟玉(ネフライト)もひすいと呼ばれていた
ネフライトの比重は2.9くらい

実は軟玉と言われるくらいネフライトは丸っこくなるし、濃い深緑と透過性で私はひすいよりネフライトのが好きだ
でもまあ宝石としての価値はやはりひすいのが高い
ほとんどの石が2.6の値
延々と糸巻き、水付け、計算
やっていてふと気づく
タコ糸、太くて水吸うし
こんなガバガバなスケールで正確な値なんか出るのか?
出ないよな
半笑い
諦めない!
物置きの奥から手芸用のワイヤーを引っ張り出し石に巻き付け
測り、水に付け、計算する
たぶん、ひすいなんじゃないだろうかと思えるものが見つかった
「あった!あったよ!
これ、ひすいだわ」
主人に見せる
「おー、あったか 良かった」
カイ君にも報告
「本当に有るんだ、すげー いくらになるんだろう?」
そうね、展示施設の前で鑑定していたお爺さんやお婆さん、売ってたもんね
めちゃ高かったもんね
ひすいは一攫千金狙えるもんね

そんな石に纏わるお話でした


「石の話をしよう」は私の趣味のひとつ石拾いの実話をフィクションを混ぜながら書いていこうと思い立ったお話です
この話で鉱物やビコニャに興味を持っていただいけたら幸いです
コメント、スキ、フォローなどお待ちしております

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