温める?冷やす?①急性の強い痛みの場合
※この記事は〈温める〉事を推奨する記事ではありません。御了承の上お読み下さい。
「痛みが強い時は温めた方がいいの?冷やした方がいいの?」
通院される方々によく聞かれる質問です。これまでぎっくりや捻挫などで発症した強い痛みに対する答えは〈冷やす〉でした。しかし、近年〈温める〉方が良いとされる見解が出てきています。
今回は、この温めるor冷やす問題について考察していきたいと思います…ですが、その前に炎症についてお話しておかないと理解が難しいと思うので、先に炎症についてお話していこうと思います。
〈炎症とは〉
炎症は、一言で言うと傷ついた組織(筋肉、腱、靭帯など)を修復する過程です。例えば打撲で筋肉を痛めた場合、衝撃によって壊れたり、破壊されてしまった筋肉の細胞は除去、修復されなければいけません。壊死した細胞はその場に留まると新たに再生する細胞の邪魔になり、傷ついた細胞は速やかに修復され機能を取り戻す必要があるからです。
この修復過程で起こるのが炎症反応です。
壊死した細胞の除去にはマクロファージや、好中球、好酸球、好塩基球からなる白血球がその役割を果たします。同時にこれらはブラジキニンと呼ばれる発痛物質を放出し、痛みを発生させる事により患部の安静を保ちます。これらは全て血中に存在し、血流に乗って患部に集まります。
ここで重要なのは、炎症反応は治るために必要不可欠な物で、この過程がないと治癒に至らないという点です。更に付け加えると、炎症反応を過度に抑える行為は、修復の遅延を招く可能性があるという事になります。
炎症は受傷後48時間は盛んに続きます。その後徐々に消退してくので、少なくともこの二日間は積極的にアイシングを行う事をお薦めします。
〈アイシングの効果〉
アイシングは以下の目的で行われます。
①炎症を抑え痛みを軽減させる
②閾値を上げ、痛みを感じにくくさせる。
結論から言うと、アイシングは痛みを抑えるために行う行為と言えます。
①は冷やす事により血流量を低下させ、炎症反応を抑えます。結果、発痛物質であるブラジキニンの放出量も減り痛みが軽減されます。
②全て感覚には閾値があります。簡単に言うと、これはボーダーラインみたいな物で、このラインを超えた時はじめて痛みとして認識されるようになります。アイシングは閾値を上げる事により、痛みを感じづらくさせる効果があります。
〈温熱刺激の効果〉
温める目的
①炎症を促進させます。血流量の増加にともないマクロファージや白血球をより患部へ集め、また患部の修復に必要な酸素や栄養量も増加させます。
③閾値を上げ、痛みを感じづらくさせます。
温める行為は炎症反応を促進させ、修復を早める効果があるという事になります。一方、血流の増加にともないブラジキニンの放出量も増えるため、痛みが強くなる可能性があるので注意が必要です。
※③温めにも、アイシングと同様に閾値を上げる効果があります。ただ、炎症反応が強い時は、痛みも強いので、この効果を感じる事はないと思います。
〈冷やす・温めるは使い分け〉
炎症反応、アイシング、温熱刺激についてお話させて頂きました。これらをまとめると以下のような見解になります。
痛みを抑えて治したい場合はアイシングを行い、早く治したい場合は温める
大会を控えたアスリートが怪我をした場合は温めて早期復帰を目指し、仕事を休めずどうにかして動かなければならない時は、冷やす方を優先して痛みを抑えるなど、個人の状況によって使い分けるといったところでしょうか。
〈当院では温めは推奨していません〉
ここまで温める?冷やす?についてお話してきました。
ですが、当院ではアイシングを優先して診療にあたっています。温めた際の痛みの増加が大きい場合がある…というのが主な理由です。軽度のぎっくりで動きもほぼ障害されていない方が、温めれば治るだろうと長湯してしまったが為に、翌日動けない程の痛みに襲われ来院されるケースもあり、炎症反応を悪戯に刺激しない方が良いという見解です。
今回のノートは、アイシングと温熱刺激に対する理解を深める為に掲載した物であり、決して温める事を推奨しているわけではないという事を御理解頂くようお願いします。
〈迷った場合〉
温熱刺激には、痛みを増加させる副作用がありますが、血流量を減らし発痛物質の放出量を減らすアイシングにはこれがありません。
痛みを増やしたくない、どちらがいいかわからないという方はアイシングを行いましょう。