プロローグ
わたしが彼の部屋から帰ったあと、彼はわたしの使っていた枕を使うらしい。愛は大体気持ちが悪い。面倒なら恋愛は飛ばそう。結婚したい。あなた以上の人にこの先出会える気がしない。捻りのない簡潔な言葉に驚いた。出会って14年目にしてやっと、あなたが深爪だって知った夜のことでした。そういえば手を繋いだことすらなかったね。それを言えばなにかが進んでしまう気がして、寝たふりをした。ふりのつもりがいつのまにか本当に眠ってしまっていた。眠ればなにも分からない。
朝になって、二度寝をして、昼前に彼の作った半熟の目玉焼きを食べながら、もう一度、彼の口から同じ言葉が発せられて、夢じゃないんだって、なにかを諦めた。わたしはその日からずっとマリッジブルー。たまに心惹かれるフレーバーをつまみ食いする。そのほとんどは苦みと甘みが良いバランスで感じられる。完食はしない。完食は契約違反。彼との契約は絶対。心はいくらでも曝け出すけど、体を開いたら戻れないことを知っている。好きじゃない人になら開けても、ほんとに心惹かれた人には開けない。だからあの人のことはすごく愛してたんだと思う。まだキスだけはしていたかった。ほんとはその先も知りたかった。でもこれもきっと、足りないくらいでちょうどいい。腹八分目の恋。
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